幕間 第3王子・エヴァン

その日は12歳になる貴族の子供たち集めて,王城でお茶会が開かれる日だった。


12歳になる歳の王族が主催者となり,いない場合は年の近い王族が主催者になるが

国王陛下には正妃のお母さまの他,多数の側室がいるので

『近年のこの催しに王族のいない年はない』と揶揄からかい半分に言われているほど

毎年,きっちりしっかり同い年の王族が主催を務めている。


実は非公式だからカウントされないが,

秘密の愛妾も何人かいてその人たちとの間にも子供がいると聞く。


これ程に好色だが,

お気に入りの側室や愛妾に貢ぐために国庫に手をつけた事は無い。


しかし,後継について一言も言及しないことで,今の王宮はで少し荒れている。


第一側室の,ジャネットさまの生んだ第1王子オリゲルドか,正妃の生んだ第3王子ぼくか…


国王陛下だけでなく,その腹心である宰相すらどの王子も推さないので

黙して王の決定に従う姿勢のお母さま正妃に比べ

第1王子を生んだジャネットさまは既に太后妃の振る舞いで,

正妃のお母さまに後宮を明け渡すように言う始末。


日に日に増長する第一側室ジャネットさまとその後ろ盾のデルセン伯爵家は

王家の行事にまで口を出し,それが当たり前に通ると思っているにまでになり

この『12歳の貴族子女を集めてのお茶会』に,

とっくに12歳を超えた第1王子オリゲルドを出席させようとしていた。


目的は,第3王子ぼくないがしろにするだけでなく,宰相の愛娘で12歳を目前にして

『令嬢の中の令嬢』と名高いリリーシア嬢と接触し,それをきっかけに婚約者としようとしてのことだ。


成人も『学園』への入学も前に,婚約することは滅多にないと知りながら,

筆頭公爵家の令嬢で宰相の愛娘を抑えれば,権力を掌握できると思ったのだろう。


当然,この主張はさすがに国王陛下に特大の叱責をされる事態になり,

当日は終日,自室から出ることを禁じられるほどだ。


何よりも宰相であるゲイルバード公爵を1番に怒らせた。


これにはぼくとニコラエスも一役買っていて,

公爵からはお礼状をいただき,お茶会時の援助として菓子類の手配をいただいた。


協賛してくれる貴族を募るのも主催者の務めで,

そこに名を連ねる貴族の数や質でその王子の権力ちからが決まる。


お茶会において,また子供たちが集まるイベントにおいてお菓子はとても重要だ。

その1番大事な手配を協力すると言うことは,

宰相が第3王子に付いた,とも取れるが

『愛娘の記念すべき茶会デビューに親心で花を添えた』と言えば,

あくまで継承問題とは別で,個人の理由でしたことだ,と言い訳が立つ。


告げ口には少し抵抗あったが,情報は大事だからそれを教えることは罪ではない,とニコラエスに説得されて良かったし

成人を目前にしているのに,ジャネットさま母親デルセン伯爵祖父の言いなりで

いつもやかましくて目のかたきに突っかかってくる第1王子オリゲルドをやり込めることに成功し,

気分良くお茶会当日を迎える事ができた。


残念ながら,リリーシア嬢は途中で退出してしまったが,

宰相が自慢するだけあってとても美しい令嬢だった。


どこか浮世離れした雰囲気があり,

多くの視線を独占しながらも気にした素振りもなく

優雅に会場の中を歩き回り,お茶を楽しむと満足したのか

ふわりと微笑みながら退出の挨拶をし去っていった。



問題は,この12歳のお茶会をきっかけに子供も大人と同じように

昼間の催しに参加できるようになるため

リリーシア嬢に何としても近づきたい第1王子オリゲルドが,

その後何度もしつこく招待状を送り断られ続けるのに

第3王子ぼくの誘いには乗るので八つ当たりされるようになったことだ。


1度,なぜ第1王子は断るのにぼくの招待は受けてくれるのか聞いたことがある。


あの時は全身から勇気を振り絞って聞いた気がする。


もしかしたら,と期待しなくもなかったが

帰ってきた答えは至極当たり前で,普通で…つまり,何も期待できないものだった。


『だって,第1王子オリゲルドさまはもう大人で第3王子エヴァンさまは同い歳じゃありませんか』


横で聞いていたニコラエスが,その後何年経っても笑い話にするほど

清々しくフられた日だった…。



その後も,リリーシア嬢とは一般的な貴族的な付き合いをしている。


季節ごとの挨拶状と誕生日の贈り物。

至極,事務的なやりとりだけの関係。つまり脈なし…。


もしかしたら,今度こそ…そう思って招待状を出し

必死に良いところを見せようとするけれど,気がついたら遠く離れていて

そばに来てくれて,話しかけてくれたと思ったら退出の挨拶。


『諦めた,ただの形式上の招待だ』と,強がりながら毎回出す招待状に

何も期待を込めていない訳ではないが

『片想い』と言えるほど強い感情は,もう乗っていない気がする。


それでも,招待状を出すことをやめられない僕を

ニコラエスはいつも笑うけれど

それすらできない許されない立場の君が,

僕と同じように手放しきれない感情を隠しているのを僕は知っているよ。


そして,きっと君や僕のような感情を持て余している少年はきっと多い。


あの日の,あのお茶会で

優雅にお茶を飲む夜の女王に恋した少年は,想像以上にいたはずだから。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る