幕間 側近 ニコラエス
俺は子爵家の次男と言う地位に見合わず,
王子さまの側近候補として王宮へ上がることになってしまった。
それも継承権の低い王子ではない。
数字上でこそ3番目だが,正妃さまのお産みになられた正当なる血筋の王子だ。
それが,ただ3番目であり王が後継について言及していないと言うだけで,
第1側室のジャネットさまと後ろ盾のデルセン伯爵家にイチャモンをつけられて,
まともな爵位の貴族子弟から側近選出を許されなかったらしい。
それで,直系王子にあるまじきことに,
選出させられることになってしまった。
面倒なことに巻き込まれて勘弁して欲しかったが,
言いがかりの末,従うしかない状況に
しかし,
金髪碧眼でこれ以上ないくらいに上等な見た目の第3王子の隣に
見てくれだけは妖精みたい,と母や姉3人に称される,銀髪の俺が並ぶと
『金と銀の
王子だって貴族だって子供なんて単純で,褒められれば満更でもなくなる。
気がつけば親友で悪友とも言える仲になっていた。
そんな
12歳の貴族の子供たちを招いてのお茶会だった。
国王陛下が流石に怒って謹慎になった事件が起こった。
この顛末にはエヴァンと俺も一枚噛んでいて
『自分もお茶会に出てやろう。嫁探しだ!!公爵令嬢あたりがちょうど良い』
などと,あろうことか,エヴァンの腕を掴み上げて堂々と言ったのだ。
場所は後宮の庭。
王と正妃,直系の子供以外は,特例を除き出入りが禁じられている場所だ。
俺はエヴァンの側近として,幼馴染として特例で国王陛下から許可を貰ったが
それ以外の例外はいない。
警護の騎士すら全て女性で組まれているほど,男子禁制の宮。
宰相公爵や側室ですら,後宮内の王への面会は宮の一番外側,
玄関ホール横の応接室でのみだ。
その禁足地に,
成人前の体格も大きくなった男が,12歳の少年に掴みかかり
足の先が浮くほど持ち上げてのこの発言。
第1王子である,と甘やかされ
どうやら驚くほどに頭が弱かったらしい。
権勢を誇ろうとも,先に産まれた王子であろうとも
正妃の産んだ王子にして良い行動ではない。
結果,罰されたのは
王は好色で多くの女性を侍らせているが,決して1人を贔屓にはしない。
『王の妻と妻たちの位』に
そこに一手加えることに決めたのは俺だ。
エヴァンを説得し,
第1王子はご令嬢のリリーシア嬢に対し,
『12歳の小娘なんか脅せば言いなりにできる』
『
などと扱き下ろしたのだ,と伝えた。
第1王子の言葉そのままに,脚色したりしてはいない。
宰相公爵だって王宮内にスパイくらい飼っているはずだから,
第1王子の暴挙も知っているはずだ。
なので,実はわざわざ伝える必要はないのだが,
大事なのは公爵の味方をすると言った意思表示。
王の右腕たる宰相公爵の覚えめでたくて,今後に悪いことはない。
結果として,エヴァンは最初の公務に宰相に花を添えられ
順調に王族としての滑り出しができた。
これがきっかけなのか,宰相が口添えしているのか不明だが
リリーシア嬢はあまり催しに参加しないご令嬢だが
エヴァンの招待にはよく応じてくれた。
噂の深窓のご令嬢が一目観れるとあって,エヴァンの元には
招待を受けたいと者や,縁を結びたがる者たちが集まり
『人脈』を作る下地作りに大いに役に立った。
『リリーシア嬢はお前に気があるのかもな』
『将来のためにお前に協力しているのかも』
ふざけて言ってみれば嬉しそうな顔をするから
そのまま試しに真意を問うてみたらどうかと焚き付けたら,
見事にへし折られたのは今でも笑い話だ。
そして,
『見た目や能力の優れている
この事実は,同じ歳の少年たちの心には重い枷となり
結果,そこそこの数の少年たちの初恋が儚く散ることになった。
リリーシア嬢に夢中になったのは少年だけではなかったが,
1番熱心なのが第1王子のオリゲルド・ウィースラーだった。
お茶会突撃を咎められ,自室謹慎となった醜聞を物ともせず
リリーシア嬢に個人的な招待を繰り返す。
断られるたびに八つ当たりの手紙が届けられ,
エヴァンの招待を受けた後は,2倍にも3倍にも厚みを増すので
その執着の凄まじさが窺える。
手紙の内容は,
兄に断りなくリリーシア嬢と親しくするのは
兄に対する背信行為であり不義理であると捲し立てている。
リリーシア嬢と第1王子とは,恋人でも婚約関係でもない。
当然,これらもさっくり宰相公爵へ送り,
いずれ来る何かの時のための備えにしている。
この件が理由かは知らないが,第1王子は成人を迎えたにも関わらず,
王太子の指名どころか婚約すら,国王陛下に許されなかった。
国王陛下のこの態度から察してか,
最近では第1側室やデルセン伯爵の勢いが翳り出したと聞く。
国王陛下は,迷っているのか,待っているのかは分からない。
エヴァンも,王になりたいのかまだ決めあぐねている。
それならば,運良く生まれたこの猶予期間で決めれば良い。
どんな願いでも未来でも,お前が幸福であるなら俺は構わないんだ。
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