第13話

「今日、園山さんとお話ししたんだけどね。」

夕食を終え、居間のソファーでテレビを見ていた和人の父・正和に、母・由紀枝が話しかけた。

和人は自分の部屋にいる。

「園山さんって、英君のお母さんかい。」

「そう、その園山さんよ。英君がね、近頃急に雰囲気が変わったんだって。」

「どんなふうに?」


正和が少し関心を持ったのを確認し、由紀枝は正和の横に座った。

と同時にテーブルの上にあるリモコンをつかみ、テレビの音量を少し小さくした。

「それがね、英君今までお父さん、お母さんって呼んでたのが、父さん、母さんって呼ぶようになったんだって。」

「それだけ?」

「他にもね、無邪気に何でも話してくれてたのが、急に口数が少なくなったり、アメリカの歌手のCDを聞いたりするようになったんだって。」

「へえ…、ま、そういう年ごろになってきたんだろうね。」

「まだあるのよ、家で勉強するようになったんですって。」

正和が少し首をひねる。

「勉強くらいするだろう、宿題も出るだろうし。」

「宿題じゃないのよ、高校受験用の勉強なの!」

由紀枝はほら、すごいでしょと言わんばかりに、身を乗り出してきた。

「…それがどうしたんだよ、いいことじゃないか。」

正和はますます取り合わない。


それならばというふうに、由紀枝は今度は声をひそめて話しだした。

「そしてね、あんまり話をしなくなった英君だけど、何故か私のことについて話しだしたんだって。」

「君のことって何を?」

「和人がね、こう言ったっていうのよ。私が最近元気がないから病院に言って検査をしてほしいんだけど、聞いてくれないって。」

「へえ、そんなことがあったのか?」

「ないわよ。」

由紀枝は口を尖らせて言った。

「でね、だから英君、私が病院に行くように母さんからもそれとなく説得してほしいって言ったらしいのよ。」

「ふ~ん、おかしな話だな。君、体調が悪かったの?」

「体調?…まあ、確かに少し気だるい感じがするんだけど、疲れがたまっているだけだわ。病院に行くほどのことじゃないのよ。」

正和はしばらく考えて、

「それで、和人にはそのこと聞いてみたのかい?」

「いいえ、まだ聞いてないの。聞いてみた方がいいかしら?」

「ま、気になるんだったら聞いてみればいいさ。でもどうせ聞き間違いとか、何かの誤解だと思うよ。」

「そうね、英君も思春期で情緒不安定なのかもしれないわね。」


そこまで話すと由紀枝は立ち上がり、キッチンへ向かった。

「私が病気?…まさかね。」

由紀枝は小さな声でつぶやき少し眉をひそめたが、気を取り直し食器を洗い始める。

正和もテレビの音量を大きくして、ソファーにもたれた。

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