第7話

「ファイト、ファイト~!」

1年生の元気のいい掛け声がグラウンドにこだましていた。

和人がグラウンドに着いたのは、練習開始から20分ほど過ぎた頃だった。

「すみません先生、落し物を交番に届けてきたものですから。」

「わかった。急いでアップを済ませろ。すぐにミニゲームをやるぞ。」

サッカー部顧問の楠田は和人のクラスの担任でもある。

数学の教師だ。

教師3年目の若手でサッカーの経験はなかったが、とにかく熱い。

その持前の情熱で、指導力はこの2年間で各段に進歩していた。


3年生の和人にとっては、中学生最後の大会“県西部地区対抗戦”が1ヶ月後に迫っていた。

県大会や全国大会出場をかけるような大きな大会ではなかったが、県西部地区中学校18校の威信をかけた大会だった。

サッカー、野球、バスケット(男女)、バレーボール(男女)、卓球(男女)の5種球技の総合点で、優勝校が決まる。

当然その8つのクラブは、学校全体の注目の的で、否が応でも練習に身が入った。


楠田は全部員を7人ずつABCDの4チームに分け、総当たりの15分ミニゲームをさせた。

和人はBチーム、英はCチームに決まった。

「おいおい、Bチーム反則じゃねえの?揃いすぎだよ。」

たまたまBチームに主力が集まったため、他のチームから不満の声が出た。

「悪いな、今日は全部勝たせてもらうよ。」

キャプテンでフォワードの清水が笑いながら言った。


ゲームが始まった。

Bチームはやはり強かった。

3-0、4-1で勝ち、後は英のいるCチームとの対戦を残すのみだ。

対するCチームは意外な強さを見せていた。

5-3、6-3とこちらも2勝。

特に英の動きがかなり切れていた。

「いいか、英を楽にプレーさせたらだめだ。今日のあいつは何かが乗り移っているぞ。」

清水の声に、和人は笑いながらうなずいた。

「俺ががんがんプレッシャーかけてやるよ。そろそろ英の体力も切れかけるころだしな。」

英はテクニシャン肌だったが、すぐに疲れるという欠点があった。

案の定、センターラインに並んだ英の顔は少し気だるそうだ。


「ちょっと飛ばしすぎたな英、体力は肝心のゲームにとっとかなきゃ。」

和人が余裕っぽく言った。

「笑ってられるのも今のうちだ。俺らが勝ったらコーラおごれよ。」

英が肩で息をしながら返す。

「いいよ。でも負けたらどうする?」

「逆にコーラおごってやるよ。」

「その言葉忘れるな。」


ピーッ。

ゲーム開始の笛が鳴った。

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