退魔の剣士とアンデッド――ファンタジーの世界にも露出狂は存在した!!――

矮凹七五

第1話 退魔の剣士とアンデッド

 散乱した瓦礫がれき、崩れ落ちた壁……

 かつてここにあった町は、戦争によって、見るも無残な姿をさらけ出している。

 最近になって、戦争は終結したが、今のところ、復興に手を付けた様子は見られない。

 国王の意向としては、復興させたいのだが、ある理由により、復興に手を付けられないらしい。

 その理由とは……

 アンデッドが多数出没することだ。

 アンデッドとは、何らかの理由により、死者に魂が戻り、その状態でよみがえった者のことを言う。

 腐敗が進行中の者をゾンビと呼び、白骨化しきった者をスケルトンと呼んでいる。

 だが、どちらも俺にとっては大差ない。


 背中に差した一本の大ぶりな剣――これは、その辺に転がっているような普通の剣ではない。

 凄腕の職人によって鍛えられ、位の高い聖職者によって聖なる力を込められた退魔の剣なのだ。

 この剣によって斬られたアンデッドは、一瞬にして魂を清められ、昇天する。

 もっとも、切れ味が極めて良いので、聖なる力に頼らなくても、相手が何者であれ、真っ二つになって、あの世行きになるだろう。

 ――巨大なドラゴンですら真っ二つ。


「……それにしても、酷いな」

 俺は、かつてここに来たことがある。

 子供の頃、母に連れられて来たのだ。

 商店が建ち並ぶ、とてもにぎやかで楽しい町だった。

 広場には噴水があり、その中央には女神様の彫像があった。

 まぶたを閉じると、今でも人々のにぎわう声がよみがえる。

 だが、今や見る影もない。

 ――戦争のせいだ! 欲望にりつかれたおろかな貴族共が! 畜生……

 アンデッドが現れるようになった理由は知らんが、無念の死を遂げた者は、多数いるに違いない。

 ――アンデッドが多数現れるようになっても、不思議な話ではないな。

 だからか、アンデッドは生前とは打って変わって、狂暴化している者が多いらしい。

 最近、アンデッドに襲われる被害が続出していると聞く。

 これ以上、被害を増やさないため、人々に危害を加えるアンデッドを退治する。

 国王の勅命ちょくめいを受け、俺はここに来たのだ。


「――!」

 前の方から何者かが歩いてくる。

 二人いる。

 人間かと思ったが、違った。

 ――アンデッドだ。

 二体とも白骨化している。スケルトンと言われている奴だ。

 一体は兜と鎧を身に着け、片手に剣、もう片方の手に盾を持っている。

 もう一体はマントを羽織っており、片手に水晶玉を頂いた杖を持っている。

 生前は剣士と術者だったのだろう。しかし、様子がおかしい。

 防具やマントを除くと、衣類らしい衣類を一切、身に着けていないのだ。白骨が随所から見事なまでに露出している。

 ――暑がりの俺ですら、パンツくらい穿いているのに、こいつらはパンツすら穿いていない。

 ――もっとも、俺が今穿いているパンツは、一ヶ月以上、替えていないが。

 ――暑いから、面倒くさいから、衣類を身に付けたくないという気持ちは、わからなくもない。

 ――でも、その割には鎧とかマントは身に着けているよな……

「お前らに聞きたいことがある」

 俺が、そう言うと、二体のスケルトンは、歩みを止め、ぴたりとその場に立ち止まった。

「お前らは生前、露出狂だったのか?」

 俺からの問いに、二体は、こくりとうなずいた。

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退魔の剣士とアンデッド――ファンタジーの世界にも露出狂は存在した!!―― 矮凹七五 @yj-75yo

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