51 予定決め
キッチンに行くと倉科さんのお母さんがフライパン等で料理をしていた。それを今から手伝おうと、倉科さんもピンクの水玉のエプロンをつける。
エプロン姿の倉科さん、可愛い。料理の出来るお母さんみたい。って、何でお母さん? 年齢的におかしくね?
でも、お母さんでもいいや。可愛いのには変わりが無いんだから。
そんな風にエプロン姿の倉科さんに見惚れていると、彼女に気づかれてしまった。
「一条くん、何でさっきからこっち見てるの? というか、そもそも何でキッチンにいるの? もしかして、手伝おうとしてくれてた? 、それとも……私が可愛くて見惚れてた、とか?」
倉科さんは悪戯な笑みを浮かべた。瑞季属性入ったな、こりゃ。瑞季が色々と吹き込んだせいで、倉科さんの性格が悪くなってる。
「料理手伝おうと思ってここに来ました。エプロン姿は勿論可愛い……です。さっきから見てばっかですみません」
どうしても緊張すると敬語になってしまう癖がある。
「何で敬語? ウケる。手伝うならこっちおいで」
崩し言葉なのは自分の家だからかな? いつもより倉科さん、くだけてる気がする。
「お母さんがいるから」
緊張してるから敬語になっただけで、決して母がいるからではない。でも俺は咄嗟に誤魔化した。そうするしかなかった。
「私のことは気にしなくていいのよ」
「いつも通りでいいよ」と倉科さんが微笑む。
「一条くん用のエプロンはここには無いから、そのままの服で平気?」
「うん、大丈夫」
そうして本格的に料理を手伝う事となった。といっても、殆ど料理は完成していてやる事は少ないのだが。
今日のランチのメニューは唐揚げとサーモンのカルパッチョとサンドイッチという大変豪華なメニューだった。
思わずよだれが出そうになる。しかも唐揚げは俺のとっても大好きな食材の一つだ。きっと坂野も好きそう。カルパッチョといえば、女性が好みそうなオシャレなメニューだし、サンドイッチは軽めでバランスが取れる。
やはり、倉科さんのお母さんの言った通り、今日はご馳走だ。
「早速だけど、一条くん、サンドイッチ作るの手伝ってくれる? ここのパンに卵とかレタスとかトマト入れて……」
「分かった」
言われた通り、パンに卵を入れた。サンドイッチのパンは食パンを使うそうだ。俺もパンという単語に反応して、大好きなパンを連想していたが、倉科さんもパンという単語に反応していたらしい。何故か顔を赤くしている。何でだ?
彼女は正体がバレないかが不安らしい。
「もっと具材入れていいよ」
「え? こんなに?」
すると彼女は俺の後ろに回って、俺の手を掴んで動かした。
「このくらいかな」
彼女が後ろに回ると豊満な胸が背中に当たってドキドキする。柔らかい感触が肌を通して伝わってくる。すごく距離が近いし、やばい。
俺は巨乳派だ。口に出して言うと瑞季に怒られるので絶対言わない。
その倉科さんの巨乳水着姿がこの後見られるなんて、思いもよらなかった――。
サンドイッチは俺が思ってた一口サイズの小さいサンドイッチではなく、ボリュームのある大きさだった。まあそれくらい食べてた方が健康的だ。
倉科母が唐揚げ係、倉科さんがカルパッチョ係、俺がサンドイッチ係になって効率良く、予定より早く料理が完成した。
倉科さんもサーモンをくるくる巻いて、薔薇の形に作っていた。オシャレで見栄えが良い。
「一条くん、手伝ってくれて本当にありがとね。これからも和花のこと、よろしくね」
よろしくってどういう事だ? ん?
任された??
「ちょっ、お母さん! 変な事、言わないでよっ」
「あら、ごめんなさい~何でも無いわ。気にしないで。でも、一つだけ聞いていい?」
「何ですか?」
「和花とはどこまでいったの?」
ブワァっと倉科さんと俺の顔が赤くなる。今にも湯気が出そうだ。もうそんな事を聞かれては、嫌でも意識してしまう。どこまでいったか。手を繋いだ。連絡先交換した。ハグをした。何を言えばいいのだろう。
「手繋いだまでですかね……?」
「え、何!? 二人はもう付き合ってるの?」
「「付き合ってないです!」」
「え、付き合ってないのに手繋ぐの!?」
「何か問題ありますか?」
倉科さんのお母さんは暫し瞠目し、固まっていた。
そして、皿を食卓まで運んだ。遊んでいた者も戯れていた者も美味しそうな匂いにつられ、一斉に食卓まで集まってきた。
「わー美味しそう!」
「これ、三人だけで作ったの? 凄い」
皆、感嘆する。
そうして席に着いた。
このテーブルは長方形で横長だった。ホテルのように白い布が敷かれており、高級感を漂わせる。椅子も豪華でオシャレなものだった。やっぱり豪邸だな、と改めて思う。
「いただきます」
そう言って食べ始める。
唐揚げは肉汁が溢れだし、頬が蕩けるくらいの美味しさで、サーモンのカルパッチョは新鮮で爽やかな味だったし、サンドイッチはヘルシーで中の具材も文句無しだった。
それは俺だけでなく、皆からも好評だった。
「このサーモン、すごい美味しい」
「唐揚げは箸が止まらないぜ! パワーがみなぎってくる」
「サンドイッチは私はハムが一番好きかな」
そう食レポまでは届かないくらいの簡単な感想を口々に述べていた。
食事の感想が終わると、華がこう切り出した。
「ねえ、皆はさ、この家には二匹猫いるけど白と黒、どっちが好き?」
「私は黒かなー凛々しくてカッコいいじゃん」と凛が目を輝かせて言う。
目が孤高の王様って感じで黒は凛々しい。
「えー白でしょ! すっごくもふもふしてて可愛い」とりりか。
確かに毛並みは白の方が良い。
「私はどっちも好き! どっちも癒し! もう天使」と瑞季が食べる事を忘れて悶絶する。
後日聞いた所、白も黒もオスらしい。俺は勝手に白がメスで黒がオスだと先入観でずっと思っていた。
「あの……白猫と黒猫にはちゃんと名前があるんだよ! 白がマシュで黒がチョコ」
倉科さんが横から口を挟んだ。
「へぇーそうなんだ」
「可愛らしい名前だね」
「ちなみに理由聞いてもいい?」
「白がマシュマロみたいで黒がチョコっぽかったから」
ガクッと瑞季がくずおれた。
「何? 瑞季ちゃん。どうしたの?」
「いやー予想通りでここまで来ると笑えてくるわ。名付け単純過ぎでしょ」
「名付けは適当で単純くらいが丁度いいの!」
珍しく倉科さんが瑞季に反論している。この珍しい瞬間に立ち会えて少し嬉しかった。
そうして俺たちにもその質問を投げ掛けられた。
「男子たちは猫、どっち派なの?」
「え、いや……」
「猫には興味が――興味が――」
「興味が何だって?」
ぎろりと睨む瑞季の目が怖い。
「まさかの興味が無いの? 猫、可哀想……」
急いで俺はどちらか選ぶ。命の危機を感じたから。
「うーん、俺は黒かな」
「じゃあ、俺も黒」
「適当禁止!」
瑞季がどこから用意したかも分からないハリセンで坂野の頭を叩いた。瑞季はどこからかアイテムを出現させるが、そのカラクリは明かされていない。とにかく謎過ぎる。魔法使いかと思えるくらいに。
ちなみに彼は痛みで俯せになって、悶えている。
「……高校最後の夏休みだね」
倉科さんはボソリと呟いた。隣に座っていた俺の耳にははっきりと聞こえた。そういえばそうだ。大学に行っても遊べるけど、高校の友達とは遊ぶのが難しくなるだろう。少なくともこのメンバーで遊ぶのは今日が始まりで最後だろう。それに学生時代の思い出ってお金じゃ買えないし、かけがえの無い、今しか味わえないものなのだ。大切にしなきゃいけない。
高校最後の夏休みというと儚く聞こえる。その言葉だけで黄昏てしまう。
「そうだね。高校最後の夏休み、楽しい思い出を沢山作ろう!」
「うん」
すると突然、瑞季が語り始めた。
「私は……私は、ずっと高校二年の途中まで一人だったから、こうして沢山の友達と遊べるなんて思ってもみなかった。夏休みなんて勉強以外はずっと暇だった。友達っていて当たり前じゃないんだなって思う。理玖もそうでしょ?」
「ああ、そうだ。皆でこうして集まれて俺も嬉しい」
俺は今この瞬間が今までで一番楽しくて、幸せだった。
「一条くんと瑞季ちゃんは前まで友達じゃなかったの?」
「「ただの幼馴染みだ」」
決まってそう言うよね、夏休み一緒に遊んでたでしょ? 、と批判が相次いだ。
そしてまた、話題が切り替わった。
「皆、夏といえば何を思い浮かべる?」
「海! 山登り! 夏祭り! スイカ割り! 花火! 浴衣! 肝試し! とか?」
ゆりが殆ど言ってしまった。あと他にあるだろうか。
「家でじっとしてるのもあれだし、折角だから皆でどこか遊びに行こうよ!」と華が提案した。
凛も瑞季もうんうん、と頷く。
「ゆりちゃんが言った中で行ける場所あるかな……?」
「山登りと夏祭りは無理そうだよね」
「となれば海、花火、肝試しか」
「肝試しはホラー苦手だから嫌かも」
「俺も」
坂野がホラー苦手なのは意外だった。肝試し、俺は行きたかったけど、するとしたら、どこでするんだろう。その点もあるから却下だ。
「花火なら今日の為に用意しておいたよ」
一同、ハッと驚く。
倉科さん、流石だ。
「やるじゃん、倉科ちゃん。ありがとう」
皆、ありがとう、と口を揃えた。
「やるからには花火、楽しも、楽しもうー」
テンションの高い華と凛。
花火は夜にする事になった。
「午後、暇だから海行かない?」
「いいね、けどどこにあるの?」
「海なら一駅先の場所から歩いて15分くらいの所にあるよ」
倉科さんによると見晴らしも良く、人が少なくて、海は透明で綺麗らしい。そんな穴場がこんな近くにあるとは。
「じゃあ、早速行こう!」
海に行く事が決まった。
「あ、でも水着、持ってきてないわ」
「私、そもそも水着持ってなかった……残念」
でもすぐに、水着持ってない問題が発覚した。
倉科さん母は気を遣って家で留守番すると言って、舞花さんも留守番に便乗した。
俺たちは水着を買いに出掛けた。
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