8 回想


 今日は色々な事があったなー。相合い傘したり、ハートのラテアートを店員さんに作ってもらったり。

 ベッドに横たわりながら、そんな事を思い返す。幸せ者だな、とつくづく思う。

 顔がニヤニヤして歪んで思わず不気味な笑みが溢れる。


「んふふ」


 今の自分、過去一気持ち悪い。そんなこと分かってる。

 相合い傘に関しては瑞季が悪いし、俺はただ傘に入れてあげただけだ。特別な事は何一つしてないし、当然の事をしたまでだ。

 でも、――何だよ! 可愛いって! どういう意味だよ! 「その、可愛いって思って」じゃねぇよ! 何言ってんだよー俺ぇー!


「うわぁああー可愛いって何だよぉー!」


 気づけば自室で大声で叫んでいた。その声を聞かれていた兄と妹に怒られる事になる。


「お兄ちゃん、死んでる」


 死んでる? どゆこと?


「理玖、少しうるさい」


 少し、じゃないな、絶対。


 兄妹二人には後で謝っておこう。

 過去の自分を恥じたい。学校一の美少女に可愛いと言ってしまった事。口が滑ったじゃ済まされない。きっと軽いそこら辺にいる男と思われただろう。

 そして、何故ヤマシタ・ベーカリーで一緒にお茶出来なかったのか。もしや、嫌われた!? あの短時間で? まさか。思い違いだといいな、と思っておく。

 あと、ハートのラテアートの意味。感謝を込めてって言ってたけど、何だったのか。美味しかったなー。

 とにかく今日は幸せだった。こんな日が毎日続けばと願った。


 ラノベを一冊、手に取った。

 偶然、ページを開くと恋人繋ぎで帰るシーンが出てきた。

 もしかして美少女と並んで帰れるってラブコメの主人公なんじゃ!?

 とんでもない事に気づいてしまったのかもしれない。


 ページを開いたまま、気づけば寝てしまった。パジャマに着替えぬまま。

 制服がしわくちゃになっていた事に気づいたのは翌朝のこと。


「うわあ、制服のまま寝てしまったのか、俺」


 しかも、汗びっしょり。最悪です。助けて下さい。

 これでは学校行けないな。新しいシャツとズボンに着替え、リビングに向かう。既に朝食はできていた。

 俺は両親と兄と妹の五人家族だ。朝食は母さんが作ってくれた。両親は笑顔でもう朝食に手を付けていて、待ってはくれなかった。兄と妹は固まった顔で微動だにせず、俺を見ている。少し、いやとても怖い。人形みたいで。シュールな光景が広がっていた。


「おはよう」


「おはよう」


「理玖、ちょっと彼女出来たみたいな顔してるけど、何かあった? 昨日から様子おかしいけど」


 彼女出来たみたいな顔って何だよw

 兄貴は察しが良いな。


「何もないよ」


「お兄ちゃんに彼女出来たら私が許さないんだからね! 分かってる? 瑞季お姉ちゃんだったらいいけど」


 瑞季ならいいのかよ。


「はいはい」


「はいは一回!」


 コクりと頷く。

 今日の朝食も美味しかった。いち早く家を出る。


「行ってきます!」


「あ、お兄ちゃん待って!」


 妹が追いかけてくる。


「じゃあ、学校まで競争ね」


 学校が違うのに走って競争するのはずっと抱えてきた謎だった。

 兄はゆっくり歩いて大学へと向かっている。妹と俺はこうして毎日学校まで走って登校している。別に遅刻寸前とかではない。


 始業時間より25分早く学校に着いた。暇だ。特にやることがない。暫くはラノベを読んだり、スマホゲームをしたりして、時間を潰す。

 少し経つと瑞季がやって来た。


「おはよう、はぁ」


「何だよ、そのやる気なさげな溜め息。おはよう」


 今日は遅刻ギリギリではなかった。


「あんたの顔見てると疲れてくるのよね」


「酷いな。だったら見なければいいだろ」


 そう言いつつも彼女は俺の目を見て話している。言ってる事と行動が違いすぎる。


「それで、昨日倉科さんとはどうだった?」


「普通。どうもこうもねえよ」


「何か嬉しそうだけど」


「別に」


「ふーん」


 瑞季は何かを察したようなそぶりを見せ、悪戯な笑みを浮かべた。


「手とか繋いじゃったり? ぽっと出で思わず変な事口走っちゃったり?」


「っ……!」


 大声で倉科さんの名前と共に色々言おうとしたのをぐっと我慢し、堪えた。ここが教室だという事は忘れていなかった。


「とにかく冷やかすなよ。いい加減にしろ。ここには倉科さんもいるんだ」


「分かった。目が怖い」


 言われて表情を緩める。それから雑談をし、楽しい時を過ごした。注意してからは瑞季が冷やかす事はなかった。

 そしてHRが始まった。


 HRが始まる前に瑞季が俺にも聞こえる声で一言告げた。俺はそれを聞き逃さなかった。


「また雨降るといいね」


「え?」


 それがどういう意味なのか、その時の俺には分からなかった。だけど、授業中に、倉科さんと相合い傘出来たらいいね、という意味だと気づいた。顔が赤くなって自然と顔が窓の方を向く。この顔は誰にも見られたくない。もちろん、瑞季にも。


 昼食もいつも通り、瑞季と一緒に食べた。途中、瑞季は例の女子二人組に誘われていたが、「今日は俺と食べたい」と言って断っていた。

 今日は昨日ヤマシタ・ベーカリーで買ったカレーパンを食べた。パンを食べて浮かれていると……倉科さんと目が合った。


「あ……」

 5秒間くらい時が止まったような気分を味わう。倉科さんの透き通った黒い瞳が優しく俺を捉える。少し心が綻んだ気がする。目が合うだけでこんなにもドキドキするなんて、出会った当初の俺は考えた事すらなかった。昨日、相合い傘なんてしてしまったから嫌でもお互いを意識してしまう。倉科さんの顔を見ただけで癒された。

 そんな5秒間の幸せな時はすぐに過ぎ、瑞季の言葉で遮られる。


「あの、新作ラノベ貸して」


「いいけど」


 何故かは分からない。瑞季はよく俺からラノベを借りるのだ。そして、家に持ち帰り、栞の位置も変わらずにまた返してくる。ラノベの内容にはあまり興味なさそうだった。


 昼休み。

 廊下である物を見つける。それは壁際のトイレの近くに落ちていた。白色の四角い柔らかくて触り心地のよいハンドタオル。ピンク色でリボンの絵柄が刺繍されていた。誰かがトイレに行く際に落としたのだろう。一体、誰だ? 裏を見てみるとそこには――倉科和花の文字。

 倉科さんだ! でも、どうやって届けよう……。


 俺はプチパニックを起こしていた。



 *あとがき*

 はい、自信とモチベが旅に出た作者――夜桜よざくら緋織ひおりです。話が逸れたり読者様に嫌われたりするのであとがきは極力書きたくないのですが、今回は特例です。

 私はこの作品で3万字・フォロー100・☆50・2000PVを目指しております。あまり高望みはしません。

 読み専さんに☆が貰えたら毎日投稿するかもしれません!書き手さんや読み専さんにいつも応援貰えるとモチベが続きます!

 とまあ、こんな感じなので少しでも面白いと思ったらフォロー・☆・応援して頂けると嬉しいです。

 重要なお話なのですが、3月は2日に一回投稿出来たらしたいです。頑張ってみます。

 倉科さん可愛いと言ってもらえるよう、努力しますので、これからもよろしくお願いします。




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