夢見るパンクロッカー

@drive-by

第1話


「ほぉら言っただろぉ!?林田君、キミはバカなのかぁ?なんで営業車ぶつけちゃうのぉ!?もう自腹で治しちゃってよぉ??」


また今日も営業成績が悪く会社で嫌味たっぷりの部長から罵声を浴びてつまらない1日が始まる。

毎日毎日決まって何かしら失敗の連続、、、そんな悪夢を見てじっとり汗をかいて飛び起きる。


現状の朝は穏やかで、いつもと何変わりない景色。

万年寝床、6畳一間で家賃28000円のボロアパート。それでもギリギリ都内に暮らして今年で16年目になる。


俺は林田浩(はやしだひろし)38歳、ガキの頃からプロミュージシャンを夢見るどこまでもしがない男。


島根県のど田舎で育った俺は、高校卒業後フラフラと「どうせ俺は将来プロのミュージシャン!」とゆう謎の自信に満ちてた為、仕事はとゆうとアルバイトを点々とし、その日暮らしを続けていた。

極度の人見知りで、初対面だと目を見て喋る事も苦手で接客業だとたった1日で辞めてしまう事も少なくなかった。


気がつけば一丁前に大口は叩くが中身は小心者のだっさい大人に成り果てていた。


それなりに彼女も居たが半分ヒモ状態だった為ある日溜まりかねた彼女に思い切りビンタを受け、絵に描いたようにふられ


周りの仲間に比べるとそこそこ幸せに育ててはもらった両親にもほとほと愛想を尽かされ21歳にして家を出て、いや正確には追い出され、駅前でホームレスとマクドナルドの裏口で捨てられたハンバーガーの奪い合いをして命を食い繋いでいた。。


このままでは音楽活動は愚か、栄養失調でぶっ倒れてしまう。と危機感が募り、なけなしの金で「青春18キップ」を手に入れ、各駅停車を乗り継ぎ、時には満員電車にも関わらずヘトヘトで地べたにへたり込みサラリーマンやOLから避けられ1人ドーナツ化現象を作ってみたり、余りの空腹に残りのガムを飲み込み咥えていた爪楊枝をいつの間にか半分程嚙り食べてしまっていたりと。半分朦朧とした中、13時間かけて新宿に辿り着いた。


生まれて初めての東京。


22歳で見た事もない聳え立つ無数の高層ビルを見上げて自然と笑みと涙がこぼれ落ちた事を今でも鮮明に覚えている。


ノープランで早朝に到着してしまったので沢山お店はあるが空いてるのはファミリーレストランばかり。

モーニングコーヒーは飲み放題。

専らコーヒーより酒派だが流石に朝一はコーヒーで満足。

貧乏性で時間潰しから12杯も飲み干し、タプタプのお腹で先ずは高円寺を目指した。


高円寺南口、焼き鳥屋の前で片手でベースを担いで片手でボロのジッポでひとまず一服。


「ふぅぅ〜っ!」大人の嗜み。


ここから宿探し、メンバー探し、そして職探しの俺のバンド人生が華々しく始まった!


〜3年後〜


都会暮らしに大好きな音楽漬け、夜な夜な呑み屋街でどんちゃん騒ぎ。。。


と夢見て上京して3年、実情は地元島根と変わらない、いやもっとキツい極貧生活。


バンドは組むも音楽性の違いで解散を繰り返し、いつしかライブハウスに行くも「浩は変わり者」「浩と組んでもプロへの道は遠いぜ」等とあちらこちらから聞こえてきてライブハウスへさえも足が遠のいていった。


落胆して帰る道中、いつもポツリと灯った小さな居酒屋があった。

ポケットにはクシャクシャの千円札と小銭が少し。。。

一杯だけ、と自分に言い聞かせてのれんをくぐった。


薄汚い小さな外観の居酒屋とは裏腹に、威勢良い声で「いらっしゃい!兄ちゃん1人かい!?」


60は過ぎてるであろう金髪の似合うシブい大将は元気が良かった。


俺は狭いカウンターの端っこに座らされ瓶ビールを注文した。


ベースを徐ろに乱雑に下へ投げると大将が


「おい!兄ちゃん!バンドマンかい、商売道具を粗末に扱うんじゃねーよ!」と横の壁へ立て掛けてくれた。俺は人見知りな為まともにお礼も言えず「あ、ども」と自分で注いだビールを一気飲みした。


「この辺じゃ見ねぇ顔だな!兄ちゃん名前は!?」やけにフレンドリーな金髪のおじさん大将はしつこく俺に喋りかける。


「は、林田と申します」

「はぁ!?違うよ!下の名前だよ!」

「あ、浩。ヒロシといいます」

「ヒロシか!いい名前だ!おいヒロシ!今日は俺に付き合え!ご馳走してやるよ!」

と貧乏な風貌からか見透かされたのか大将の奢りで4杯も追加で頂いた。


その後もよく喋る大将で、自分の生い立ちを話し始めた。

どうやら最近まで役者をしていたそうだが50過ぎても芽が出ず、55から居酒屋を初めて私生活では3度の離婚を繰り返し今は女子大生の彼女がいて休みの日はハーレーを2人乗りしてドライブするそうだ。

それにしても破天荒なおじさんだ。


男はいつでもいつからでも挑戦できる。今日、今からがスタートだ!とほろ酔いで人生論を語ってくれた。


なんだか最初は気持ち悪い、けどシブい変なおじさんに見えたが酒が進むにつれ芯のある人生謳歌してる人だと羨ましくも思えてきた。


ここで悔い改め真っ当に生き、ご馳走になった大将にも恩返しして、就職先を見つけて努力すれば良いものの、そこはぐうたら林田浩。またいつもの生活に戻っていた。


〜10年後〜


上京して何を成し遂げたのか。


三十路を過ぎてもうだつの上がらない生活。

行きつけだったあの居酒屋の大将も天国へ旅立ち閉店。

たまにベースは触るもののバンドどころかライブハウスへも行く事すらなく、のんべんたらりとその日暮らし。

何ならこの生活が満更嫌ではなくなってきてさえいる。

このままでいいのか?とも考えない。


そして3年後38歳になってとある朝を迎えた。


現状の朝は穏やかでいつもと何変わりない景色。

万年寝床の、、夜万年寝床、では、ない。


心地よい日差しが刺してきてワインレッドのカーテンを勢いよく開けるとそこには都内が一望できるタワーマンションの最上階。愚民共が下界で一生懸命に働いている。

俺はいつもの夢を見て目が覚めた。


そう、仕事の出来ないサラリーマンの夢から上京してパンクロッカーを目指し断念する夢を。

よく同じ夢を見るものだと、特注サイズのクロムハーツのベットへ戻りもう一眠りするかと。

そしてゆっくり目を閉じて、、、


その全てが夢だったことに


また今日も気付く。。。


林田浩って、


誰?



       終

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