208話 大切なのはドリンク?いえドクトリンです

 もうお外の戦闘とか興味が無くなって来てる優姫だよ。

 

 

 敵が歩兵で横列陣形で前進してきている。そして迎えるゴブリンは準備を終えて、塹壕でじっとして静かに待機して引き付けていた。

 

 塹壕の500メートルまで前衛の1万が来たところで、2キロほど後方に布陣していた部隊で爆発が起こる。

 

「びっくりした~!?」

 

 海くんの開いてるダンジョンメニューから連続した爆発音がいきなり一斉に鳴り響き爆音がしたよ。

 

 ゴブリンが開始したのは、迫撃砲による塹壕内からの攻撃だよ。

 

 迫撃砲は地面に立てて、上に向いてる砲口から砲弾を滑り込ませると発射される、前装式の武器だよ。

 

 滑り落ちた衝撃で装薬を点火して発射されるよ。

 

 銃とか大砲が弾の運動エネルギーで攻撃するなら、迫撃砲は爆弾を飛ばす武器なんだって。

 

 中には弾に炸薬詰める榴弾とかあるから曖昧なんだけど、爆弾を飛ばすって発想か、弾を爆発させて威力を上げるのかっていう違いらしいね。

 

 迫撃砲はライフリングも無くて、高く打ち上げる曲射弾道だから命中精度も悪いらしいよ。射程も短いし意外と殺傷範囲も狭いし、見た目よりは貫通力も低いらしいよ。

 

 その短所と引き換えに連射しやすくて、何より簡素な構造だから砲身が軽くてメンテナンスも楽だし、操作が簡単で扱い易い。なので破壊力のある爆弾を比較的簡単に安く大量に降らせられるよ。

 

 砲身の材料も少ないし加工制度もそれなり、弾も改造した爆弾だし、生産のDP消費が少なくて経済的だよ。

 

 そしてかなり角度をつけて上方向に撃ち出すから完全に塹壕に隠れてる。反撃されないし敵からは見えないね。

 

 射手のゴブリンからも見えないけど、観測してるゴブリンとダンジョンメニューで海くんは正確に認識してるよ。

 

 安全圏と思ってた敵の本陣に爆弾の雨がゴブリンにより加えられて混乱したところで、前衛の前進も止まる。

 

 想定外の本陣への攻撃に驚いたのかな?

 

 そこへ容赦なく30ミリガトリング砲が起動する。狙いは、1万の前衛かな?射撃はゴブリンだから命中率は海くんの遠隔操作とはいえ落ちてるとは思うよ。

 

 でも敵が多くて何より近いから適当に撃っても当たりそうだけどね。

 

 土嚢で隠れてて、たぶん敵からは撃ってるのがゴブリンなのか兵士なのか、それすら確認出来てないと思うよ。

 

「あっ始まってる!!カイこれは全滅せるつもり??」

 

 ほんの1分くらいの猛攻で圧倒的な実力差を見せつけてるよ。

  

 30ミリガトリング砲は正面でなければ、戦車も貫くし装甲車とか余裕らしいよ。ところでステータスって、戦車の正面の分厚くて計算され尽くした装甲よりも強いのかな?

 

 戦車の正面装甲もダンジョン仕様の魔法冷却と弾丸補充による無限連射に、どこまで耐えられるのかは知らないけどね。

 

「ヤバッ、海くんの命令が多くてダンジョンが落ちる!!サブコア追加しなきゃ!!」

 

 パソコンが処理落ちするのにクリック速度が早すぎるようなものでしょ?海くんヤバくない?

 

「カイの本気にダンジョンも耐えられないの!?」

 

 敵兵は迫撃砲なら爆弾の直撃を受けないと死な無いみたいです。生身で至近距離に降ってきた爆弾でも耐えてるよ。

 

 前衛は30ミリガトリング砲には耐えられなくて、ミンチになってる。そりゃ戦車の正面装甲よりはステータスでも弱いよね。

 

「勇者に使ったときも思ったけど、人に向けて使う武器じゃないよね?」

 

 サイオンでも、そう思うんだね。

 

「勇者は消し飛んだし、ミンチ量産してるし、そこまで威力要らない気がするよね」

 

「だよねー」

 

 ガトリング砲の一部が、奥に布陣している敵軍にも襲いかかる。そりゃ30ミリより口径も小さくて、弾も小さいアンチマテリアルライフルが届くのだから当然30ミリガトリング砲は有効だよ。

 

 前衛への射撃が薄くなるけど、小銃(人が持ち運んで使える銃)でゴブリンが制圧射撃を加えることで、完全に足止めしており、立ってる人がどんどん減ってるよ。

 

「カイのドクトリンは反撃をさせない。攻撃を当てさせない。一方的に攻撃を加えるだけど、こうして軍で実行してるのを見ると凄い差だね」

 

「そのための、情報収集と長射程武器と命中精度の向上だけどさ。えげつないね」

 

 後は隠れるのも攻撃を受けない、させないため、見つけさせないため、だもんね。

 

「集団突撃のドクトリン相手にすると、的当てになってるね」

 

 サイオンは色々と勉強してるね。

 

「的当てだけど、ゴブリンの無駄のない動きは芸術だよ」

 

 指先まで無駄のない個別の動きと、全体としては給弾や射撃、観測などの役割分担が完璧で、機能美も極めると芸術的な美しさがあるよ。

 

「目指す軍隊の在り方だよ。完璧な統率と完璧に仕事をこなす兵士達、そして必要な物資が揃ってるもん」

 

「その差があってこそなんだと思うけどさ、これは弱いものいじめだよね?」

 

「戦争だから弱い方が悪いんじゃない?」

 

 女子トークに参加してないキアリーさんは、統率のとれたゴブリンと操る海くんに見とれてるよ。

 

「火力不足だ。前衛の全滅と後退させるので精一杯だ」

 

 ここで海くんが口を開いたよ。

 

「ここまで有利でも全滅は無理なんだね」

 

「兵力差が、大きすぎだ。それに無理をすると奥の奴らに蹂躙されそうだ」

 

 海くんは思ったよりも戦況を厳しいと、敵は強いと見積もってるみたいでした。

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