192話 間話 戦勝条件がない

 ぜースト side

 

 

「この度の戦争事実上の勝利ですがー♪敵は使者を送ってきましたー♪戦争継続するからと無条件降伏を要求してきましたー♪」

 

 ネイ様は帰還したカイ様、そしてゴブリン軍の指揮官に任命された私、ゼーストに報告する。

 

 エレンティア様は精神的に疲れたのか、即刻部屋に帰り魔法の研究をしています。それで休めるのか謎ですが、気にしては生きていけないでしょう。

 

 ミレーナ姫様はカイ様が五月蝿いと外でマテをさせている。扱いがあまりにも酷いがミレーナ姫様は嬉しそうなので、見ないことにした。あんなのは理解できない。

 

「最低でも数年は戦争なんて出来ない損害を与えたはずだが?」

 

 カイ様はそう言うが、それで敗北を認められないのだろう。

 

「やはり神託の影響でしょう。彼等も引くに引けないのです。そして交渉の余地もない。つめり我らをを殺し尽くすまでやめられないのでは?」

 

 勝てと上司というかダンジョンマスターに命令された以上は戦うし、相手に負けを認めさせるか、支配下に事実上おくかしなければならない。

 

「現実的に民が従いませんからー♪支配は武力を持ってしても不可能ですー♪あとは停戦なりー♪降伏なりー♪させるしかないですがー♪交渉する気が相手にはー♪ありませんー♪」

 

「おいおい、マジか?民間人の殲滅戦なんて面倒くさい事をするしかないのか?成功例を知らないぞ」

 

 カイ様が何やら物騒な事を言ってますが、乗り気ではなさそうですな。

 

「軍事能力を破壊し尽くせば、魔物によって滅びるとは思いますが・・・それはやり過ぎかと思います」

 

 そりゃ戦える冒険者を減らせば魔物の間引きや、対魔王戦線が維持できず魔物に飲み込まれ人間は壊滅するだろう。

 

 そうなれば我々とて無事では済まないし、魔物まで殺しまくるのは、いくらなんでも殺り過ぎだろう。

 

「敵を殺し尽くして土地を奪っても管理できなければ要らないからな。降伏させて賠償させる方が儲かるしね。基本的には戦略上の要所の占領と敗北を認めさ、軍事的な脅威排除、利権の奪取が大きな軍事行動の目的なんだが、これでは戦争の意味ないよな?」

 

「そうですねー♪不毛な土地なんてゴミ以下のー♪価値しかないですからねー♪利権もなにかもぶっ壊しては手に入りませんー♪でも交渉してくれないのですー♪」

 

「脅威の排除は達成できるのではないですか?」

 

「変わりに魔物に囲まれて暮らしますか?ー♪」

 

 なるほど、敵の排除はそれこそ魔物と人間を全て絶滅とかですか。それは絶対に無理な相談でしょう。

 

 強力なトラップでダンジョンの防衛なら出来ても外の魔物と魔王の排除を我々だけでするなど負担が大き過ぎる。何より頭の上に魔王がいるなど、安心して眠れない。

 

 慣れましたがいまだに、あの魔物達が上の階層に居ると思うとゾッとしますし。

 

「それは嫌すぎますよ。はぁ最悪の事態なんですな」

 

「そうですー♪どうしましょうかねー♪しかも神託だから無条件降伏と武装解除しろとか言う使者はー♪人の話をー♪全く聞きませんー♪マジでぶっ殺すぞって思いましたー♪」

 

 ミレーナ姫様も恐怖で止めるし、支配してるダンジョン相手によくやりますな。

 

 いや、ミレーナ姫様は理解不能ですからな。常識で考えてはいけませんか。あれで最近は恋に生きてるらしいですが、明らかに扱いは雑だしあれで何が楽しいのか理解に苦しみますな。

 

 本人は口では不満を言ってますが、行動はむしろ雑に扱われるようにしている。そんなミレーナ姫様を解き放っても、魔物を狩りつくすのはMP的にも体力的にも無理か。

 

「キャハハハ、愛しのダーリンを見つけたぞ!!おかえりなさいなのだ!敵をぶっ殺したぞ!!褒めて!キャハハハ」

 

 噂をすればなんとやらノックもなしに転移してくるミレーナ姫様ですが、これは折檻されますぞ。

 

「五月蝿い黙れ。戦果は良くやった。これは俺からのお土産だ。ヨシが待てなかった分は引いといてやる」

 

「うげッ」

 

 カイ様は小さな何かの肉の燻製を取り出す。

 

「ユウキ様いわくー♪食べられるレベルの味らしいですよー♪」

 

「そういう問題ですか?それを持ってる方も受け取る方もおかしくないですか?」

 

「カイ様は普通に食べますからー♪携帯食料を持って行ったのですー♪それを知ったー♪エレンティアが食料と調味料をたんまり持って行ってましたー♪」

 

「なるほど、それで余りというわけですか。お土産ですらないですなぁ」


 だって外で手に入れてすらない。古いくて不味いここの食べ物だ。

 

 ミレーナ姫様は嬉しそうだし、カイ様も満更でもない様子なので本人達は良いのでしょうな。常人の感性では理解できない世界ですよ。

 

「キャハハハ、これは普通に食えるな!愛を感じるぞ!キャハハハ」

 

 ミレーナ姫様の味覚は不味いものを食べすぎて下方修正されてる様子ですな。正常に食べられるのに、味覚にトラウマを植え付けてくる。しかも匂いでも見た目でも判断不能ですからなぁ。


 しばらくは贅沢品を食べる気がしなかった。まさにテロ的な味でしたなぁ。しかしながらどうやってあんな味が出来るのか興味はありますが、知らぬ方が幸せでしょうな。


「敵が攻撃続行してくる以上は反撃するしかないか。どこかで暗黙の了解的な停戦になるだろ」


「そうですねー♪無限に戦争は出来ませんからー♪そうなりますねー♪もう大きな攻撃してくる力はないはずですー♪精々攻略目的の冒険者を送り込む程度かと思いますー♪」


 こうしてとりあえず勝利はしてないが、戦勝といえる状況には出来たと、確認されたのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る