172話 間話 死ねと言われて死ねの?

 ブナイツケ side

 

 

 ダンジョンの新造都市ににシバル王国の王都は事実上は移転しており、ダンジョンが攻略されない限りシバル王家が陥落する事はない。

 

 ダンジョンとして地下都市となる新都に他国が攻め寄せるには難しく、守りやすい。難攻不落の都市であるが、神託は別問題だった。

 

 シバル王国とバンパ王国、そしてラスボスがヤバいダンジョンは教義に反しているため滅ぼせ。

 

 同じ内容が同じ日に全ての神から下された。

 

 中には自害した者もいる。緊急事態にバンパ王国のブナイツケ王と、シバル王国のレイナ女王は会談をしている。

 

 場所はダンジョン内のシバル王城である。バンパ王国のブナイツケ王は事実上の亡命である。

 

「この度の神託に対して、シバル王家は無視するのは正気ですか?」

 

 バンパ王国の人間もラスボスがヤバいダンジョンへ移動している者は多い。ダンジョンマスターの計らいで、多数の地下通路がバンパ王国の複数の都市に現れて避難出来たのだ。

 

「ええ、シバル王国の貴族層は信仰が少ないですし、ダンジョンマスターの力は教団を、すでに全ての国を相手にしても上回っていると判断しています。いずれ魔王に滅ぼされる運命から逃れるにはダンジョンマスターの力は必要でしょう?」

 

 レイナ女王から聞いていたが、バンパ王国の地下に巨大ダンジョンが完成していると目の当たりにすると、やはり戦慄を覚える。

 

 シバル王国の方が地方の避難は遅れているが今も地下通路はどんどん完成しており、避難で困ることは無さそうだ。

 

「これほどの力を見せ付けられては、無下に断るとこはしませんが、神と決別して生きていける自信があるので?」

 

 宗教は心の支えでありステータス、スキルは神の奇跡なのだ。ステータスなしに魔物から身を守ることも、生産も何もかも不可能だ。

 

「ステータス魔法よりも強い武器も凶悪な魔物もダンジョンマスターは使えますよ。少なくともシバル王国の国宝で固めた近衛騎士団長が、勝てないほどです」

 

 それにはバンパ王国の護衛も含めて驚きを隠せない。

 

「それで大軍を消し飛ばしたり出来ると?」

 

「姉の報告が正しければ、複数体の魔王も滅ぼせる戦力を保有しているのは間違いありません。Sランクの大量の魔物とそれらが一撃で葬れる武器を装備して奥深くにいて、魔王殺しのミレーナや勇者が生還しないダンジョンです。我らシバル王家は命運をダンジョンマスターに賭けたのです」

 

「吸血種は神託に従えば、生き残れたとしても奴隷としてしか生きていけないだろう。それが負ければ歴史からも消し去られ、生きる事すら許されない。負けられない戦いへの判断はしかねるのです」

 

「ダンジョンマスターの好意によって、ここには最終防衛の武器があります。持ち運びこそ出来ませんが、デモンストレーションくらいは許可をいただいております」

 

 見張り塔の最上階、まさに洋風の城の円柱の石造りの窓から76ミリ速射砲の砲口が城の外を狙っている。オーバーバースト弾こそ配備されていないが、DPで弾が補充される悪魔の無限攻撃仕様だ。こんなもの撃ち込まれたら勇者も耐えられないのは実証済みだ。

 

「それでは外をご覧下さい。これで勇者が滅んだそうですよ」

 

 76ミリ速射砲の射程は15キロメートルを超えており、魔法で反撃とか出来ない。これに歩兵が隊列を組んで行進して侵攻するとか自殺行為でしかない。

 

 そんな無人攻撃砲が10キロほど先の城にたどり着くための入口に砲撃を連射で撃ち込む。音速を超えた砲弾は、避けられない死をもたらすと見ただけで理解させる破壊を現実にする。

 

「「「・・・」」」

 

 これを初めて見たレイナを始めとしたシバル王国の貴族達も固まり、今もまでの常識が崩壊した。

 

 そして個人技では無く、完成された道具なのだ。道具さえ使いこなせば、誰でも同じ結果を得られる。それはステータスの否定であり、新たな可能性であった。

 

「これは凄まじいですな」

 

「・・・えぇ、この威力を出せるのはダンジョン内限定らしいですが、携行用の小型武器(アサルトライフル)を、使えば誰でもAランク冒険者くらいを、倒せる攻撃力と軽く400メートル程の射程を得られるそうですよ」

 

 Aランクといえば戦場の勝敗に影響する程の実力者だ。倒すために本来ならかなりの消耗を覚悟しなければなならない。


 被害の甚大さに士気が持たない可能性もあるのだが、一方的に攻撃して殺せるなら圧倒的、それこそSランク級の成果だろう。魔法で強化された異世界版アサルトライフルはステータスを持つ相手に対しても、凶悪な性能をしているのだ。

 

「それが本当なら戦いは変えられるかも知れないが、神に見放されて生きていけるとは思えない」

 

「神託によってステータスを失っていないでしょう?まだ許される可能性もあると思います」

 

 レイナ自身、宗教と全面戦争になった場合、統治方法が手探りのために、まだ完全に切り離すわけにはいかない。

 

「そうか・・・今のところは戦争に備え乗り越えたときに、教団と話し合う。それしかあるまい。それでもバンパ王国としては戦争に協力はやはり出来ない」

 

 レイナは邪魔されなければそれで良いと、ネイ姉様に言われているし、敵軍を通すつもりは無いらしいとも聞いていた。

 

「自身の身の振り方にまで、このレイナ・シバルは要求しませんし、ダンジョンマスターの好意で安全な場所が提供されていますから、シバル王国がなにかバンパ王国に求めることもしません」

 

 居るだけでダンジョンマスターは満足らしく、バンパ王国の民と、シバル王国の民も別々の場所に住んでおり不満はない。バンパ王国側は家もなくとにかく生活の再建に追われて居るらしい。

 

 敬虔な信者や、ダンジョンに住めない、代々住んできた土地は離れないと拒むものは多いが、莫大な農地と安定した水の供給は魅力的だ。

 

 死ぬよりは戦禍逃れるためにダンジョンに一時的に入ることを選ぶ者が多い。実際シバル王国も家こそあるが状況は大差ない。貴族の反発が少ないから幾分避難割合が高い程度となっている。

 

「我々はとにかくダンジョンマスターの戦いを、見守りましょう」

 

「そうですな」

 

 全面に立てば後々の話し合いに支障をきたすからこうするしかない。後はダンジョンが突破されない事を願うのみだった。

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