148話 間話 やれば出来る

 バンパ・ブナイツケ side

 

 

 木を隠すなら森の中、灯台下暗し、あえて人の多い王都に留まり機会を窺っていた。

 

 想定外の魔物の出現という事態に情報を集め終えた頃には夜が明けていた。魔物がいつの間にか消えて最低限の安全は確保出来るだろうと王城に舞い戻る途中、貴族街の壊滅に驚き、損壊こそしているが、無事に建っている王城へとなんとか戻った。

 

 もちろん手勢は連れているが、多くはない。

 

「さて、この破壊の様子からして、王城を奪うつもりは無さそうか」

 

「そうでしょうか?完全に城を奪われた様に見えます」

 

 手勢の1人が怖れもあるのだろが、撤退向けての意見だろう。そんな判断を言う。

 

「権威や地位が欲しいなら誇示するが何もしていない。兵も居ないとなればすでに目的を達成して撤退したと考えるべきだ。もし制圧し奪うつもりなら我々は見通しの良い貴族街を歩いて来たのだ。もう襲われている」


 廃墟して視界を遮る建物が破壊しつくされているのだ。しかも日が昇り明るい中だ。見つからない方がおかしいだろう。

 

「そうですか、では城のどこに向かいますか?」

 

 帰りたいとこそ言わないが、かなり帰りたそうだな。

 

「ダンジョンマスターが居るのは、おそらく賓客用の応接室だ。そこに向かい真意を聞き出すしかあるまい」

 

「命に変えましても陛下をお護りいたします」

 

 半分は自分への暗示だろう。しかしセルファナスを継ぐ者として俺は死ねないのは確かだ。

 

「有り難く忠誠を受け取ろう」

 

 そして阻まれることもなくたどり着く。ここまで何もないとすでにダンジョンマスターもいないのではと思える。

 

 ノックすると返事があり入室を許可される。室内には真紅の軽鎧の男と普通のメイドがいるだけだ。

 

「ダンジョンマスターはここにいないのか?」

 

 メイドが男に耳打ちをして下がる。

 

「暫く待ってば帰ってくるさ、今行くとマジギレされるぞ」

 

 男の発言にたかが護衛がこちらを軽くみていると、手勢が苛つくので手振りで抑えつつこの男を吟味する。護衛なら側を離れないはずだ。それなのに主があてがわれた部屋でティータイムなのは、護衛を超えているのではないか?

 

「なるほど、この状況でついて行かなくてよいのですかな?」

 

「すでに無力化された城で、しかも殺戮を尽くした後だぞ?護衛が見た目に居ないからと襲うか?」


 そりゃ襲う勇気はないし、どこかしらに護衛がいるのは当然だろう。

 

「理解した。申し遅れたが、バンパ・ブナイツケ、元国王だ」

 

「はぁ、政治には絡みたくないのだが・・・」

 

 メイドが私に紅茶を用意して席を勧める。彼の飲み干した空のカップにもおかわりを注ぐ。メイドがまたしても耳打ちをする。

 

「サブマスター兼ラスボスのマキリ・カイだ」

 

 カイの名乗った役職に手勢の者達は明らかに動揺する。まさかの超大物だ。キレていたら交渉どころでは無くなる相手とは思わなかったのだ。

 

「カイ様はサブマスターだったのですか!?てっきり同じフロアマスターかと思っておりました。」

 

 メイドが驚きの声をあげるが、こちらには威圧だ。どの程度の力に差があるかは分からないが、ダンジョンマスターと同等と考えておくべきだろう。サブマスターとフロアマスターのメイドなど、とんでもない者達をあのバカ弟は呼び付けたものだ。

 

「ユウキに全部頼むだけだからな。サブマスターである意味は薄い。さてこの国の元国王が何の用事だ?」

 

 サブマスターである以外でも地位が高いもしくは権限があるのだろう。ラスボスと名乗ったこと、政治には絡みたくないとの発言を考えれば武官タイプか。武官タイプでも、戦闘しか出来ない脳筋ではなく、単純に腹芸を嫌ってるだけか?

 

 実際目の前サブマスターのカイ感情を読み取れない。仕草や表情、声のトーンから緊張や焦りなど全く無いのでは無いかと思わせられる。

 

「これだけ派手な事をすれば、ダンジョンマスターに会おうとするだろう?王家の人間だからと、無意味に殺されたくはないからな」

 

「これだから政治家は面倒くさい。死にたくないなら逃げるだろ?乗り込んだところで俺に勝てるつもりか?この状況でその手勢むりだな。なら要件は別だろう?暗躍する奴よりは、幾分まともだろうから本当の話くらいは聞くけどな」

 

 なるほど頭もかなり良いのか。なら彼が参謀だろう。


 そしてダンジョンマスターの最大戦力の自信もあるのか。少なくともこのままバンパ王国を武力で支配をしようとしても、上手く行かないことも理解している気配がある。

 

「そうだな。だがバンパ王家はセルファナスの血族であり吸血種の希望であり象徴だ。そう簡単に違う種族に負ける事は許されん。少なくとも王座は譲れんのだ」

 

「王になりたいなら成ればいい。俺には他国のトップが誰でも関係ない。敵なら戦うそれだけだ」

 

 これはヤバい奴だ。子供の単純な正義と悪、敵と味方その二次元論ではない。一兵卒としての覚悟を持った発言だ。すなわち勝てるか生き残れるかよりも、戦う必要があれば戦う。その中で全力で泥臭く汚れ仕事も厭わず勝利を狙う。最も危険な忠誠心を感じる。


 やはり本質的に武官タイプなのだろう。

 

 参謀ではなくダンジョンマスターの最狂の切り札だったか。

 

「弟、現在の王が生きているか分かるか?それで俺の対応も変わる」

 

「姿形は一致してる奴は間違いなくして殺してる。よほどお前の弟王が慕われており、素早く全力で偽装しながら逃亡して完璧な身代りを用意しめいれば逃げおおせているかもな」

 

「クーデターで王になり日も浅い。出来た弟でもないなら死んでいるだろう」

 

 調子に乗りやすく進言も素直には聞けないタイプだ。指揮をとり劣勢になってから逃げただろう。なら殺されたのは確実に弟だろう。

 

 そこでノックもなしに扉が開く。

 

「海くん!!酷いよ!もう!!洗うの手伝ってくれてもいいじゃん!!あれ?お客さん?」

 

 エルフの凄まじくかわいい女の子とドレスアーマーの美少女が入って来たのだった。

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