149話 間話 ヤバい人達じゃん

 バンパ・ブナイツケ side

 

 

 これは暴君か?世間知らずか?と一瞬思ったがどうやらマジギレする原因がサブマスターのカイで、彼に文句言うために我らに気が付いていなかったらしく、バツ悪そうにしている。

 

「アポ無しで訪問した我々が悪いのだ気にしないでかまわない」

 

 とはいえこのカオスでも俺は仕事をやらねばならない。

 

「この国の元国王のバンパ・ブナイツケらしいぞ。後は任せた」

 

「ゲッ、やっぱり私なの?」

 

 残りの紅茶を飲み干して立ち上がるとメイドが空のティーカップを回収して、新しいカップを準備しエルフの少女を座らせる。

 

「ユウキ様こちらへどうぞ。」

 

「パパ、大丈夫だよね?困ったら助けてね、お願いだよ」

 

「その時はな、とりあえず彼の用事があるのは優姫らしいぞ」

 

「えっと、ダンジョンマスターの優姫です。よろしくお願いします」

 

 まるで緊張した平民のようだが、彼女がダンジョンでの最高権力者なのは様子からして間違いない。

 

 パパとも名前でも呼んだところと、ダンジョンの年数と彼女の年齢からサブマスターは育ての親だろう。我が子のための献身なら死ぬまで戦う忠誠も理解出来る。ならば彼の懐柔など不可能だろう。

 

 ダンジョンマスターを人質に取れば、言う事を聞かせられるだろうが、そのダンジョンマスターが危険過ぎる。この惨状を引き起こせるのに人質にするなど不可能ではなかろうか?

 

「改めてバンパ王国の元国王のバンパ・ブナイツケだ。有意義な話し合いを望んでいる」

 

「えっと、サイオンを物扱いしたから、国王の影武者と本物、宰相さんに元宰相のお爺さん、後貴族をたくさん殺したけど、怒ってる?」

 

 怒るとかそういう次元の話ではない。国家の存亡の危機なんだが?彼女はいろいろズレた感性の持ち主のようだ。

 

「いや、かまわない。もともと大義なくクーデターを起こし支持した裏切り者たちだ」

 

 仲間を売らないのは好感が持てるが、身内をモノ扱いとはいえ反撃で皆殺し、彼女の逆鱗に触れれば殺されかねない。

 

「やっぱりやりすぎで僕達、怒られない?吸血種にとってはセルファナスの直系の僕は皇帝にしたい存在なんだよ?僕はなりたくないけどさ」

 

 世の中知らない方が良いことはある。そういう事は知らないフリをするものだが、これは知りたくなかった。王家の正統性が揺らぐ大問題だ。

 

 彼女は王位に興味がなくとも周囲の人間や彼女の子供は分からない。そこに対応しようとしたらこの惨事・・・知りたくなかった。大事なことだから何度も言うが知りたくなかった。最悪だ。

 

「これは困りましたな。王位返上しましょうか?」

 

「カイに嫌われるから絶対いらない」

 

 ですよね。知ってた。王位欲しいなら城こんな状態にしない。血みどろですぐに使えないから。もう投げ出したい。やだ、かえりたい。幼児退行しても解決しないか。

 

「さて、どのような解決をお望みで?」

 

 もうさ。ダンジョンマスターが決めてくれ。

 

「私はシバル王国と戦争しなくて、ダンジョンに手出しをしないって条約を結んでくれたらいいかな。それでいいよね?」

 

 サイオンと呼ばれた美少女もカイも頷く。

 

 内容とすれば破格だろう。逆に恩を売られすぎている。後日にこのことで要求を追加されたり、セルファナスの血統で脅される事も考えられる。ここで完全に解決をしたいが要求が出来るか?いや、先ずはこちらから譲歩してからだろうな。

 

「では、確実にするために子供が成長すればシバル王国に留学させよう」

 

「なんで留学なんですか?」

 

 ダンジョンマスターは教養も頭の回転もよくはないのか。これは別に参謀がいるのは間違いない。つまりはその参謀が納得する成果を持ち帰らせねば、ここで完全解は無理だろう。

 

「名目はな、実質人質であり、シバル王国に知人、友人が増えるほど戦争を起こし難くなるだろう?もちろん留学なのだ、滞在費も我々もちだ。そしてバンパ王国に帰り王になる。シバル王国は次代の王まで確実に安泰だろう?」

 

「うーん、私では判断しかねます。ネイ、えっとシバル王国と交渉して下さい」

 

 弱小国か属国が大国に対して服従の意味と勉強のために使う手段なのだ断る理由はなんだ?やはりセルファナスの血統の有効活用か?それとも参謀、この場合ネイ公爵か?に本気で相談する気か?

 

 いや目の前の少女は本気で判断が付かないのか。ならば後ろのサブマスターの事を思えば、素直にいうべきだな。

 

「その件はそうしましょう。なぜこんな提案をするのかといえばそれだけセルファナスの直系は我らバンパ王家には脅威なのです。吸血種にはセルファナスの直系に王位を戻す事を目指す者達は多い」

 

「はぁ、その気になればまた魔物を送り込んで制圧出来るので、そんな問題無視できます。私は国の支配なんて興味ないからしません。なのでセルファナス家とか私には興味がありませんし、セルファナスを持ち出したのもバンパ王国ですよ?それで勝手にサイオンをモノ扱いしたので対応しただけです」

 

 これはサブマスターもヤバいが彼女はもっとにヤバい。彼女の価値観は身内が非常に高く、それ以外にはどうなろうと興味がない。

 

 つまり、身内のためならダンジョンマスターの力で守るが、それ以外は殺して滅ぼしても殺してもかまわない。これは他人を人とみなしていない。

 

 交渉は身内の利益かどうか、それが判断基準ならば権力や権益など彼女には身内が欲しない限り無価値だろう。自分自身の欲望もあるのだろうが、ダンジョンマスターの力で十分に満足しているようだ。

 

 更に武力を高いレベルで持っており、好きに使えるのだから権益など好きなほど武力で得られる。交渉はあくまでシバル王国を守るため。戦争をしたくないと頼み込まれたと見るべきだな。

 

 好き勝手決めて身内を困らせてもいけないし、武力行使でどうにでも出来るバンパ王国にセルファナスの血統などつ使う必要もない。確かにこの魔物を使役する力に勝てなければ交渉にすらならないか。

 

「弟がしたこととはいえ、悪かったと思う。ひとまずダンジョンマスターと我でシバル王国と平和条約とダンジョンの帰属はシバル王国であるとの内容で条約を結ぶと契約しよう」

 

 とりあえず素直に折れたら許してくれそうだ。殺戮を楽しむ奴よりはマシだからな。

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