146話 間話 劇薬への対処

 冒険者ギルドマスター side

 

 

 戦場はすでに城から貴族街へと拡大していた。魔物の襲撃ではない。明らかに統率の取れた軍団による攻撃だ。

 

 そして貴族街に隠れて入ったのに、あっさりゴブリンに見つかり囲まれた。

 

「見つかる要素はあったか?」

 

「ゴブリンジェネラルがいるとはいえ、ゴブリンごときに簡単に見付かるはずはない」

 

 ゴブリン達は襲って来ることはなく、ジェネラルが身振り手振りで、まるでお帰り下さいとボディランゲージをする。

 

「帰っていいのか?」

 

 ゴブリンはうなずく。こちらの言葉は理解しているのだろう。ゴブリンだから喋れないだろうが、これは異常だ。つまりダンジョンの関与しか説明がつかない。

 

「俺は冒険者ギルドのギルドマスターだ。ダンジョンマスターと話がしたい」

 

 ゴブリンジェネラルが待てのジェスチャーをして、少し待つと丸のジェスチャー、そして少し待てのジェスチャーをする。

 

「少し待てば良いのだな?」

 

 ゴブリンジェネラルがうなずき、他の低ランクのゴブリンは離れて貴族の屋敷への攻撃に参加する。

 

「凄まじい支配力だな」

 

 無双の咆哮のリーダーが言う。

 

「それだけならまだマシだろうな。この索敵能力と転移を前提に軍として運用しているなら・・・」

 

 無双の咆哮のメンバーは顔を見合わせて『まさか!?』という顔をする。

 

「軍としての弱点を克服しているかもしれんな」

 

 食料が足りない、士気が低い、団結力不足、移動が遅い、命令系統が明確化していない、など問題が多く、集団のコントロールは難しいが、その問題がない軍は最強だろう。

 

「なんにしてもダンジョンマスターは格上ということだな」

 

 ゴブリンエンプレス、ゴブリンキング2匹、アサシンハイタランクト2匹、がやってくる。

 

「Aランクこそ1匹だが、この構成はきついな」

 

 ゴブリンジェネラルを含めて6匹、アサシンハイタランクトを見失えば、奇襲が襲ってくるために簡単には倒せないだろうし、勝てても無傷は不可能だろう。もし追加で援護を呼ばれたらアウトだ。

 

 ゴブリンエンプレスがついてこいとジェスチャーをしたので、黙って追いかけるために歩き出す。

 

 道中では立てこもっている貴族の屋敷にデスアークタランクトが投入されて壁を破壊・・・屋敷が大破したが・・・屋敷にゴブリンが突入していたり、捕虜?を歩かせて移動していたり、逃げようとした貴族が食われたりしている。そんな地獄絵図な貴族街を抜けて、バンパ王城に入る。

 

 もちろん城門は破壊されている。完全にダンジョンマスターが制圧したのか、戦闘音や悲鳴などは城からはしない。ただ血の跡が戦闘があったことを物語っている。魔物の死体の数的に戦闘ではなく虐殺かもしれない。

 

 魔物に連れられて、ズンズン進むと賓客用の応接室の前まで来た。

 

 ゴブリンエンペラー、ゴブリンエンプレスが恐らく護衛としている。すぐそこの庭にはパワードアークタランクトまで待機している。これはダンジョンマスターに逆らえば命はないだろう。

 

 応接室の扉がゴブリンエンペラーによって開かれる。

 

 そこには子供の滅茶苦茶に可愛いエルフとドレスアーマーの美少女がいる。

 

「こんばんは、でいいのかな?」

 

「こんばんはってどうなんだろう?たぶんはじめましてがいいよ」

 

 呑気な会話をしているが、この状況を作り出し魔物を支配しているのは彼女達だろう。

 

「はじめまして、冒険者ギルドマスターと俺の護衛だ」

 

 おっと緊張からか、名前を名乗り忘れたが向こうも名乗ってないし良いか。

 

「なるほど、それでお話しってなにかな?私のダンジョンから冒険者ギルドが撤退されたら困るんだよね」

 

 そんなことをすれば資源も資金もシバル王国の総取りで冒険者ギルドには意味がない。冒険者ギルドはあくまで営利組織なのだ。

 

「そんな事は俺には出来ないから安心してくれ、ただ街の罪の無いの人々に攻撃をしないで欲しいだけだ」

 

「ん?それだけ?無抵抗な人とか、降伏した人とかも連れて行っていいよ。貴族以外の街までは時間が足りないし攻撃しないよ」

 

「悪いのは貴族とかバンパ家だよね」

 

「そうそう!サイオンを物扱いとか許さないからね!」

 

 それで貴族は逃げても魔物に食われてたのか。しかし女の子が服でも選ぶような雰囲気でこれほどの惨劇を引き起こすとは・・・こんな奴らに関わりたくないな。

 

「何があったのかは聞かないし興味もないが、なにか安全を確約出来ないだろうか?俺が安全だと言ったところで、不安で明日から眠れないはずだ」

 

「襲わないって約束しか出来ないよ、でも魔物が逃げ出したらごめんね」

 

「なら逃げた魔物かどうかは分からないのか?」

 

 万能ではないだろうし、会話や雰囲気からダンジョンマスターの頭がそこまで良いわけでもないだろう。しかし甘く見ていい相手ではない。こういうタイプは参謀か、ナンバーツーが切れ者の事が多い。トップが完璧である必要はないのだ。

 

「んーサイオンはアイディアある?」

 

「魔物に命令出来ないところでは使えなくなる魔道具とかないの?」

 

「そんなの出来たかな、あーー宰相がこんなところに居た!死ね!よし!!これで殺るべきターゲットは全部殺ったよっと。何だけ??えーと、そうそうエリア外で使えなくなる魔道具だったね。魔道具んー・・・たぶんこれでなんとかなるや、はい、それあげる」

 

 物騒な事を言っていたがスルーだ。長生きのコツは知らないことだ。そして俺の目の前に普通の明かりの魔道具が置かれている。

 

「これは?」

 

「普通の魔道具だよ。でも魔石なしで光る場所は魔物を支配出来てる場所だよ」

 

「つまり光らない場所は危険なのだな?1つでは足りないから多めに欲しいのだが無理か?」

 

 貴族以外には攻撃するつもりが無いなら、もう少し協力は引き出せるだろう。ダンジョンマスターは冒険者ギルドと仲良くしたいようだしな。1つではほぼ無いのとおなじなんだ。

 

「んー後で貴族街と平民街の間にたくさん置くのでそれでいいかな?なるべく早くゴブリンに門まで持って行かせるよ」

 

「分かった。それで問題ない。わざわざすまなかったな」


 たぶん冒険者ギルドマスターでも、敵対的と思われたら殺される。だから早く帰りたい。それに宰相殺ってる奴の相手は荷が重過ぎる。

 

「帰りも案内するから街はよろしくね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る