145話 間話 劇薬の威力

 バンパ・オオチイ side

 

 

 騒がしくなっていたが記録を漁っていた。しかしありえない音と揺れがした。

 

 ここで何か起こっていると、資料を手早く片付けて機密文書を納めた書庫を出る。

 

「宰相閣下!!複数のゴブリンエンペラーに率いられたゴブリンと変異アークタランクトが複数体現れ攻撃されております!!」

 

「なんだと!いくらなんでもそれは・・・」

 

 いかにダンジョンマスターとはいえ、バンパ王国もAランク相当の猛者は複数雇用している。兵も強いものならBランク相当はある。猛者たちを念の為、王都に集めていた。

 

 それでもこれほどの戦力を瞬時に中枢の王城に投入されては上手く対処出来ない。そもそもこんな事態が想定されていないから当然ではある。

 

「近衛騎士団に各個撃破での討伐を命じろ!残りは足止めして時間を稼がせろ」

 

 直ぐに驚きから立て直し命令を出す。

 

「それがゴブリンは城内に突如出現しておりまして数の把握すら出来ておりません。伝令も混乱しており城内の正確な状態も不明です」

 

「くっ、脱出する!!出来る範囲で良い撤退を命じろ」

 

 こうなれば兵を集め時間をかけてでも命令系統を回復させなければ反撃もままならないとの判断だ。散発的な反撃は各個撃破されるだけだからだ。

 

 しかし兵士達の上司は宰相だけではない。現代の軍のように細かい階級もないし、権限も明確化されていない。他の大臣や貴族、隊長格や団長などなどバラバラに命令し統一感のある作戦は実行不可能に陥っていた。命令を出す人間すらパニックなのだから、組織として機能しなくて当然だ。


 現代の軍隊はきっちりとした、統率力と奇襲などへの対応も含めて訓練されており、その対応力の差が練度の差である。

 

 それでも魔物が転移しただけなら、それが強いだけなら、どうにかなっただろう。ゴブリンとタランクトはお互いに捕食する関係だ。ゴブリンはより高度な作戦を使い、連携を高めなければ食われる。


 タランクトは共食いをするが、最後の手段だ。タランクト同士もゴブリンほどではなくとも知恵を使い協力した。

 

 弱肉強食、歪められた摂理の中で生き残り強者となった魔物が弱いはずがない。ランク詐欺ほどではないが精強な魔物である。

 

 バンパ王国の兵士にしてみれば明らかに強い魔物が連携してくるのだ。数のアドバンテージも奇襲されて薄れている。そんな状況は悪夢でしかない。


 職務を全うするよりも逃亡を選ぶ者が増えており、無抵抗で降伏すれば殺されないという情報も混乱を助長していた。ダンジョンマスターは狙っていないので勝手に崩壊してるだけなのだが。

 

 貴族の私兵も混じっているのだから収集が付くわけがなかったのだ。それを理解出来ない所が宰相の中途半端な才能なのだった。

 

「閣下、魔物が少なく安全を確保している所まで案内します」

 

「ああ、頼む」

 

 部屋の外は怒号、悲鳴、生き物が破戒される音、血の匂いそれらが戦場それも最前線だと、証明している。

 

 移動していると部屋の扉が破壊されているが全てではない。破壊を諦めたというより最初から見向きもしていない。

 

 本能ままに暴れた結果ではなく目的を持って統率された集団の戦闘結果なのだ。

 

「なぜ全ての部屋が襲われていないのだ?」

 

「なぜか人がいる部屋か無人かが分かるようです。人がいると破壊してでも侵入し徹底的に襲っているようです」

 

「食らうためならそこまでするか?」

 

「さぁ?そこまでは分かりかねますが、メイドなどを1箇所に集めてもいますのでなにか目的があるのでしょうが、魔物の思考など理解不能でしょう?」

 

「この場合はダンジョンマスターの小娘だろうな。兵は殺せても女子供は躊躇したのだろう」

 

「なるほど、納得です」

 

 なぜか魔物と遭遇することなく城内を移動できている。

 

「魔物共は後方の確保をしていないのか?なぜだ?数に余力が無いのならよいのだがな」

 

 その理由はダンジョン化しており監視をやりたい放題でDPも落とすなら放置で今抵抗している敵を優先しているだけだ。宰相にそんな事がわかるはずもない。

 

 近くの侵入者のいない部屋にゴブリンを転移して奇襲だって可能なのだ。チート能力を備えたダンジョンを使いこなすダンジョンマスターとダンジョン内で戦って勝てるわけがない。DPがある限りやりたい放題なのだ。

 

「小娘なら戦場を知らないのでしょう。それこそ力に溺れて前の敵ばかり攻撃しているのではないですか?」

 

「もっともだな、相手も我と同じレベルとと考えてしまうのは悪い癖だ」

 

「宰相閣下と同じレベルの小娘などいないでしょう」

 

 確かに優姫ちゃんは感情論で攻撃しているが、圧倒的に情報において有利に立っている。それはダンジョンの力であり、優姫ちゃんと共にいた海くんが重要視していたことだ。

 

 同じ土俵ならバンパ・オオチイが勝てるだろう。だが現実に全く同じ条件など存在しない。手持ちの兵力と情報で戦争は行われる。

 

 指揮官の能力差も圧倒的戦力差と情報差でひっくり返されていることに気が付かない。

 

「閣下ここで・・・」

 

 その部屋に集まっていた騎士達と貴族は全滅していた。それも騎士同士は殺し合いをしていたようだ。

 

「なんなんだこれは・・・」

 

 真相はダンジョンマスターが送り込んだヴェノムハイタランクトとイリュージョンハイタランクトにより壊滅していた。いくらDPになるとはいえ、殺る気まんまんの集団は放置したりしない。

 

 イリュージョンハイタランクトか敵味方を惑わして、相打ちをさせる。更にヴェノハイムタランクトの猛毒により壊滅した。ヴェノムハイタランクトは目立つ体色だがイリュージョンハイタランクトの幻覚毒により発見されにくくなっている。そして糸により逃走すら許されなかったのだ。

 

 そして死地にたどり着いた宰相と太鼓持ち部下の2人がこれ以上言葉を発することは無かった。

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