142話 間話 暗躍した者達 簒奪王編
バンパ・オオチイ side
親の差は子供にはどうしょうもない。バンパ・オオチイの母親は愛人だった。故に王位継承権はないに等しく、しかしバンパの血族、つまりはセルファナスの血族として王国に縛られる人生が確定していた。
野心があり、なにより才能が中途半端にあってしまい強い野心を実行に移すことが出来た。それでも越えられない壁である自分の人生を支配している父親を憎んだ。
だから父親つまりはバンパ王国のバンパ・ヂイハタイを殺し、クーデターを起こして父親の決めたレールを破壊し尽くした。
そして宰相となり、偉そうなだけの腹違いの兄弟であるノタリンを支配する。そうしてバンパ王国を手中に収める事にしたのだ。
暗殺までは上手くいったが、ノタリンを王位に着けるためのクーデター計画は上手くいかなかった。大貴族はノタリンの兄ブナイツケについており、戦力も資金力も足りなかったのだ。だから実行に移せずくすぶっていた。
そんなときに、アシ侯爵家の隠居させられた元宰相が訪ねて来た。
前王の暗殺を見抜かれ、クーデター計画を予見された。しかし老人と利害は一致した。つまりは彼の家を取り立ててれば、老練な政治家であるアシ元宰相が味方になるのだ。
彼の交渉能力は高く、貴族達を的確に味方に引き入れた。賄賂、脅迫、共謀、まさに政争を知り、相手を知っているからこそだった。長年王国を支えたその手腕に差を痛感したものだ。そして周辺国までしっかりと根回しをした。
そして宰相になり、アシ家の息子は財務大臣にした。
次に賄賂の財源としてダンジョンの利益をシバル王国から奪おうとした。
シバル王国との交渉は非常に難航したが、ここでもアシ元宰相に相談しなんとか乗り切った。
ついにダンジョンマスターの呼び出しに成功し会談したが、ダンジョンマスターは失礼極まりない奴でブチギレそうになった。それでも少なくともAランクの魔物をダンジョン外に転移できるのは間違いない。
演技は下手そうなので本当に可能なのだろう。馬鹿に力があると本当にめんどくさい。ならば晩餐会で文化的、財政的な面で圧倒し力の差を見せ付けよう。そう決めたのだった。
圧倒される姿を期待したが興味は無さげだった。どうやら文化的な事を理解するほどの知能も足りない馬鹿なのだろう。
ダンジョンマスターはレベルが低すぎて難しいと考えているとここでトラブルが起きた。ノタリンの圧力のかけ方は完璧だったが、アシ元宰相の行動は予想外だった。
正確な証拠は調べないと分からないが、あの老人が嘘でこんなバクチを打たない。彼に多くを頼っただけに用意周到なのを知っているのだ。
実際、貴族の何割かはバンパ王家を見限りアシ元宰相派つまりはセルファナス・サイオンに仕えるだろう。国民とてサイオンに忠誠を誓うものが出るだろう。つまりは使えるはずの兵たちすら信用ならない。
ノタリンはサイオンを偽物と断じてアシ家もろとも潰す気だが、そんな事をすれば内乱、内戦になり泥沼化するだろう。
おそらくは、吸血種にとって長い時が流れた今もバンパ家の威光とセルファナス家の威光では圧倒的にセルファナス家だ。国民からの支持、ダンジョンというバックアップ、シバル王国の介入、それらをはね退けるには周辺国が全てバンパ家の味方をしなければ勝ち目はない。
勝てたとしても内戦で他国の介入を許せば、傀儡化、国力の弱体化を招く。
内戦はアシ元宰相から見ても悪手だ。外国を招き入れなくとも国力の低下は避けられない。大国としの地位が揺らげば、味方が減るのは間違いないだろう。
なによりも内戦になれば今宰相である自分が無事でいられるはずはない。暗殺にクーデターの弱みも握られている。それだけで極刑は免れない。
全てに勝たなければ死あるのみだ。勝てないのなら生き残るために、ノタリンを裏切りアシ元宰相に付くしかない。
ノタリンが事実を偽っていると宰相が言えば貴族の多くはサイオン派になるだろう。そうなればもう一度クーデターどころか、一気に政権交代が出来る。
こうなればシバル王国も介入できず当然周辺国の介入もない。ここまで予測したアシ元宰相の行動だったのだろう。
見事にハメられたわけだ。過信もしない。完全に敗北したのだ。
ダンジョンの恩恵とて、サイオンを通して得られるだろう。本当は控室や道中に密偵達が情報収集を出来ていれば、より簡単に交渉が可能だったはずだった。
情報が足りないのに余裕を崩さなかったアシ元宰相は始めから交渉出はなくサイオンの、取り込みを狙っていた。
防諜の対策は完璧にしていたが、サイオンがアシ元宰相に付けば、その能力もろともダンジョン利権手に入れられるだろう。
やはり、ノタリンを裏切るしかない。サイオンがセルファナスの血族である証拠を集めて、公表するための資料を探すために宰相権限でバンパ王国の最高機密文書が、保管されている書庫に籠もるのだった。
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現実は残酷なモノで資料を集めるなど後回しにすべきだった。なぜならこの時に劇薬が混ざり、臨界点を突破しようとしていたのだから。
そしてストッパーのネイはダンジョンに居残りしている。そしてこの異世界の軍事行動に詳しいエレンティアも居残りだ。
少なくともアシ元宰相のセルファナス家の後継者としてサイオンを指名されて、マジギレ寸前の優姫ちゃんかサイオンどちらかの機嫌を速やかに治さなければならない。
シバル王国の人間ではダンジョンマスターの優姫ちゃんを止められないし、海くんは優姫ちゃんの行動が優姫ちゃん自身を危険にさらさない限り止める事はない。キアリーさんは、オシャレしてカッコ良かった海くんのために全力で料理中だ。
策士策に溺れる、そんな事が現実になろうとしていた。
緻密で完璧な作戦ほど、何も考えない一手に弱いものなのだから。
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