138話 間話 劇薬を放置

 サイオン side


 

 めちゃくちゃな話し合いというか、あれじゃ、ただ交渉し難い相手と思われただけじゃないかな?

 

 僕はバンパ王国とか興味無いしユウキが不利な条約を結ばなければ気にしない。

 

 晩餐会の食事がキアリーの作る料理より美味しいって事は無さそうだし、ユウキじゃないけど帰りたい気分に浸っていると、見覚えのある貴族に声をかけられる。

 

「お久しぶりです。ダンジョンでは非常識な出来事とダンジョンマスターのお力に驚き失礼な態度をとったことを謝罪いたします」

 

 アシ宰相だっけ?バンパ王国との交渉はユウキに任せて黙ってよ。

 

「えーと、あ!!偽物宰相さん!?」

 

「ははは、あの時は本物でしたが、今は引退したので偽物になりましたな」

 

「あれ?切れやすいお爺さんじゃなくて、こんなに面白いお爺さんだったけ?」


 ユウキは滅茶苦茶な事を言うなぁ。元とはいえ一国のナンバーツーなんだけどね。僕も興味は無いけど。

 

「言葉の謝罪だけでなく協力しましょう。少しお話し出来ませんかな?」

 

「えっ!?やだ」

 

 ユウキってこんなに自由人だったけ?カイをパパって呼んでるし、親子なら納得か。カイも自由人だし親子だなぁ。

 

「ははは、納得の嫌われ方ですな。しかしユウキ様方はこのバンパ王国を支配する切り札をお持ちだ。強力なだけに使い方が難しい。違いますかな?」

 

「ん?なにそれ?分かる?」

 

 ユウキが僕達に確認してくるけどみんな首を振る。あっカイは聞いてないね。というか聞いてるけど関わる気が無いが正しいな。

 

「切り札の話もありますし、少し応接室にお邪魔させていただけませんかな?」

 

「むぅ、なんか気になるし話しだけなら、いいよ」

 

 これはユウキの交渉のテクニックなのかな?いや知らないふりで相手に情報を渡さないというよりは、本当に知らないだけで、素の反応ぽいか。

 

 この爺さんは老練な政治家で、長年政争を生き抜いてきた貴族ぽいし、ユウキが不利な条約を結ばないように気を付けないとね。

 

 僕達は割り当てられていた応接室にアシ元宰相と戻って来くる。

 

 ユウキとアシ元宰相が席に付くと、人払いをしたアシ元宰相が話し始める。

 

「さて、バンパ王家はセルファナス家の血統だから王家なのです。だからこそ、セルファナス家の人間が当然優先されます。セルファナス・サイオン様、セルファナス帝国の皇女様の御前で、バンパ王国など名乗れません。サイオン様に皇位継承して頂きバンパ王国全体がセルファナス帝国に戻れるのです。どうかサイオン様、我々吸血種を導いて下さいませんか?」

 

 うげぇ、そんな話になるの?重いなぁ。礼儀作法とかめんどいし嫌いだし、セルファナス家とか半ば追い出されたようなモノだし、何よりカイの役に立たないよ。返事はしないとダメか。

 

「断るよ。僕が皇帝とかありえないでしょ」

 

「セルファナス家の血統である事は否定しないのですな。私は吸血種が頭を垂れるべきなのはセルファナス家の偉業である吸血種の開放と思っております。セルファナス帝の血統は吸血種にとって最も尊きモノであり誇りなのです」

 

 はい、はい、血筋ね。そりゃ初代セルファナス帝がいなければまだ日陰者だったかもしれないのが、吸血種だから分かるけどさ。僕には価値がない評価だよ。だってご先祖様への評価で僕じゃなくても誰でもいいんでしょ?

 

「知ってるけど、僕はセルファナスとして生きるつもりはないよ。僕として僕自身を認めてくれるカイと生きる。セルファナス家からは半ば絶縁されたし、皇帝には不十分だよ」

 

「確かに我々はセルファナス家の直系血族としてサイオン様を見ております。ですが民に取っては未だ開放象徴であり希望になります。どうか、どうか、魔王と魔物の恐怖に怯える民たちの希望になって下さい」

 

 血族押しから今度は責任感攻めか、これだから政治家はめんどくさいんだよ。断るけどさ。

 

 ユウキなんて、ポカンとしてよく分かってなさげだし、本当にまともな条約結べるのかな?それより、このオファーの対応を間違えるとヤバい事になるよ。

 

 バンパ王国の貴族をアシ元宰相が説得して勝手に、御輿として担がれたらたまらない。

 

「サイオンって亡国のお姫様だと思ってたけどバンパ王国と関係あるの?」

 

「ユウキはそこから知らないの?」

 

「なるほど、私から説明しましょう。バンパ家は元々セルファナス帝国の侯爵でした。初代バンパ王国の国王は暗殺と政争、戦争を駆使してセルファナス家とライバルの貴族を次々に滅ぼしました。そして、セルファナス家から嫁を貰っていることを理由にセルファナスの後継者を名乗り、バンパ王国を作り上げたのです。つまりバンパ家の正当性はセルファナス家の後継者であり、他を滅ぼしたからなのです。滅ぼしきれておらず、セルファナス家が存続しているならバンパ家の正当性は失われます」

 

「つまり、サイオンはバンパ王国の王様より偉い?」

 

「そうなります」

 

「それは良いとして、サイオンがどうしたいかだよね?サイオンが嫌なら私は王様なんて成らないように味方するよ」

 

「カイはどう思う?私が皇帝になって欲しい?」

 

 本当は悪手だけどカイの意思が僕には一番大切だから仕方ない。

 

「皇帝か・・・権力者に関わるとろくなことにならないだろうし近寄りたくないな」

 

 僕の行動は完全に決定した。

 

「僕は絶対に皇帝とかならない。断固断るよ」

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