135話 間話 劇薬の護送

 エマーシュ side


 

 正直なところ割に合わないです。冒険者としてウレナイ商会の雑用で雇われて、ミュウニー様にこき使われています。今なんて夜の寝ずの番として焚き火を眺めてます。護衛?近衛騎士団が完璧ですよ。私は火が消えたり、引火したりしないように番です。必要性を感じませんけど。

 

 どのくらい辛いかというと、本職の冒険者としてやってないのに見張りさせられたり、寝ずの番をさせられたり、魔物からの盾にされたり、給料に対して仕事がきつすぎると思います。

 

 ご飯は美味しいけど、移動も馬車だけど、確かに雑用だけど、エリート揃いで私浮いてるし、帰りたい。

 

 ユウキ様が暴走しては、仕事が増えてます。例えば魔物に突撃したら身を盾にしなさいとミュウニー様に引っ張られて戦闘させられ、池で泳ぐから安全確認来いと池に投げ込まれ、店を見ると言えば荷物持ちさせられて、何も買わない。そして自分でぶっ壊した街の側で爆睡してて起こしに行かされるけど起きなくて、諦めたら怒られる。

 

 後の2つ以外は雑用を超えてませんかね?しかもユウキ様だから文句も言えないし泣きたい。

 

 荷物持ちは男の仕事じゃないかって?カイ様は興味なくて店をすぐ出てサイオンはカイについて行くし、メイド達は別に仕事があるし、近衛騎士団の方が強いから私が荷物持ちになるのよ。

 

 護衛の仕事の邪魔になるって言われたら、頼めないでしょ。

 

 役得は、たまにカイ様と話せることくらい。妾なんてだいそれた事は狙わないで愛人くらいでちょうど良い。身の丈に合った範囲を超えるとろくな事にならないし。

 

 でもつらい。会う機会が少ないカイ様と話せる今はチャンス。そう思わないとやってられない。だって眠いけど居眠りしてたら、どんなお仕置きをミュウニー様にされるか想像しただけで、恐ろしい。

 

 ダンジョンのナンバーツーのサブマスターにして最強戦力、止められるのはユウキ様だけ、ダンジョンの中ならそこらの貴族の愛人より遥かに安全だ。稼ぎこそ少ないけど、裏の人間も表の人間も恐れなくて良い。たまにネイ様とかウレナイ商会から無茶振りされるだけで生活は悪くない。

 

 カイ様が気に入れば確実に今の生活は保証されるのよ。

 

「なんか夜食あるか?」

 

 不意に声がかかる。珍しいがカイ様だ。

 

「夜勤用の保存食しかありませんよ」

 

 カイ様とユウキ様、なぜかサイオンは本格的な料理を食べているけど私は賄い。料理人?メイド?のキアリーが上手いからめちゃくちゃ美味しいけどね。


 もちろん近衛騎士団の夜勤はそんな料理が食べられないからそれなりの食事になる。

 

 交代制なのだけど、いつも以上に文句が多いらしい。誰だって旨いものが食べたいよ。

 

「味とか気にしないから大丈夫だ。小腹が空いたけどサイオンもキアリーも寝てて、ここしかなくてな」

 

「料理しながら侍女副長にしごかれて、良くやるわ。そりゃ睡魔族でも起きてられないか、温かいだけですがどうぞ」

 

 ここで起こさないのがカイ様の優しさですよ。気まぐれな貴族は平気で叩き起こして来るからね。

 

「ありがとな」

 

 女性関係を聞くのはナンセンスですが、雑談で二人っきりを逃すのはありえませんね。アプローチは全力で行きましょう。

 

「カイ様は良く食べますね。私も食べますか?ハードなのは得意ですよ」

 

「そっちは夜食には重いな」

 

「あら、残念」

 

「でもエマーシュは打たれ強すぎじゃないか?」

 

「それ、聞いちゃいます?カイ様なら教えちゃいますよ」

 

「気にはなるな」

 

「分かりました、私もカイ様の避け方のコツは聞きたいですね」

 

「だいたいの奴は遅いし、ワンパターンだし簡単だぞ」

 

「まじ!?才能の差か。私は生まれがスラム街で、弱い立場だったので子供達で集まってたけど、大人から食料や物資の奪い合いでたくさん暴力を受けてた」

 

「保護する大人は居なかったのか?」

 

「スラム街の生まれなのか、捨てられたのか両親が死んだのかは分からないわ。とにかく身寄りのない子供達のグループは一番弱い立場なの。でも私は飛び抜けて可愛かった」

 

「今も見た目はまぁいいな」

 

「なんか微妙な評価ね、男達の視線から暴力以外の身の危険を感じて、マフィアに入ったわ」

 

「なんでそうなる?」

 

「マフィアとか裏の人間は仲間だけは守るのよ。もちろん犯罪はするし殺しもするから仲間の結束は強いし裏切らない。組織の人間だけは無条件で味方なんだよ。こっちから裏切らない限りね」

 

「そういえばマフィアから派遣とか言ってたな」

 

「子供で、小さくても仕事をして稼がないといけない。まぁスラムの人間からしたら仕事を斡旋してくれて守って貰える数少ない組織なのよ。マフィアに入るハードルは高いけど私は見た目でクリア出来た」

 

 ここまではよくある話で気にすることはない。私も思い出すと辛い時期の話になる。

 

「暫くして、すっごく稼ぎのいい仕事の話がきたわ。ネイ女王陛下が整理した貴族の一人の元で相手をするだけ」

 

 相手をするだけだが内容が問題だった。

 

「そいつの趣味が少女の拷問でね。ありとあらゆる責めを受けたわ。それこそ焼鏝、水責め、鞭打ち、魔法、斬撃にアイアンメイデン、死なないようにかつ傷跡が残らないように回復魔法まで使うし自殺させないために見張りも付く。おかげで防御スキルと耐性スキル、防御力だけは高くなったわ。その後成長して、趣味の年齢を超えて開放されたわ。その後は別の貴族の愛人とかハニトラ要員とかして今にいたるわ」

 

「そうか、よく耐えたな」

 

 カイ様はそう言ってそっと私の頭を撫でる。

 

 同情されてもあの苦痛が体験していない人間に理解出来るとは思えない。形だけの同情なんてもういらない。私にとっては思い出したくはないけど、乗り越えた過去にすぎない。たまたまだとしても、褒められてこの気持ちを理解してくれた気がして話して良かったと思う。

 

 コテンと彼の肩に頭を乗せて焚火を静かに眺めたのでした。

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