129話 間話 バンパの政変

 バンパ王国 side



 今回の失態でアシ宰相は解任され左遷した。それもあり長年王家に使えた老人に魔が差したのだろう。一つの策を思いついてしまった。


 ダンジョンマスターとサイオンそして、王弟つまり新王の弟を使った方法だ。


 まずはダンジョンの利権を得るチャンスを失った新王に対して、クーデターを起こす。ダンジョン利権を貴族に分配するなら賛同を得られるだろう。大義名分などどうにでもなる。


 御輿は王弟だ。彼にはダンジョンの利益を貴族や王国に提供させることで、まだ勢力が固まっていない新王勢力を次々に寝返らさせる。


 武力で上回ればクーデターはあっさり成功するだろう。そしてサイオンを無理やりダンジョンマスターに提供させ、セルファナスの血族をアシ家に取り込むのだ。


 セルファナス家と名乗り実質はのっとるのが正しいだろう。


 王弟にはダンジョンマスターの少女を口説かせればサイオンに気がつかないだろうし、何よりセルファナスの血族と気が付く可能性はほぼないはずだ。


 エルフではあるが外見は驚くほどの可愛さだ。王弟も満足し喜んで妾にするたろう。


 計画が遂行されれば、一国の王に息子か孫かが成れるのだ。


 そして王弟が今クーデターを起こしている。宰相として国に貢献して来たアシ家と利権をバラ撒く王弟、対するは強権的に纏めようとする新王、なら王弟が良いと思うのが貴族だろう。若干前王の死が不信なため、王弟派につかない中立派の者達がいるが大勢に影響はないだろう。



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 その頃クーデターの情報を掴んだ新国王と新宰相は対応を考えていた。


「陛下、このままではクーデターを抑えきれません。特に周辺国への根回しがすでになされており孤立無援です。要の兵達も離反が増えております」


「父上の死に作為的なものを感じてはいたが、クーデターを起こしてまでなぜ弟が王位を欲しがるのかが、分からん」


「確かに手順としても不自然ですが何か今はクーデターに対応すべきでしょう」


「そうなのだが、狙いが分からねば対応出来まい?なぜこのタイミングでクーデターなのだ?我を父上より先に殺した方がスマートなはずだ。他国への根回しも楽だろうしこのクーデターの利点はなんだ?」


「ダンジョンの利益が目的なのでは?」


「ならば父上の死が説明できん。父上は利益をバンパに無理やり取り込もうとしていたのだ」


「セルファナスの時代よりは国力は落ちたとはいえまだまだ強国のバンパ王国に暗殺を仕掛ける国はないでしょうし確かに理由が分かりません」


「それぞれ別に三人がいて別々に行動したとは思えないな。イレギュラーがあったと考えても、暗殺をするほどだ。行き当たりばったりではあるまい」


「暗殺の証拠はありませんが、そこまでの確信がなぜおありですか?」


「持病もない強国の王がある日突然死ぬなど暗殺意外であり得るか?犯人は分からんがな」


「素直に急病による病死とは思えません。それでも暗殺はハードルが高過ぎるのではないでしょうか?」


「仮に父上が病死なら弟を捕らえればクーデターの処理は済む。かなりの粛清は必要だろうがな。しかし計画をした奴がいるなら、クーデター失敗してもそちらも計画しているだろう?なら敵の計画通りに我が行動していては、このまま後手に回り続ける。それこそ正体不明の敵の思うつぼになるぞ」


「なるほど、計画通りに行動するのは癪です。しかしクーデターを成功させるわけにもいきません」


「だから狙いを考えて手を打たねばならん」


「それはそうですが、狙いは何かお考えがおありですか?」


「あったら指示を出している!!皆目見当もつかん。それを考えて具申するのが宰相の仕事だろ?」


「前王の暗殺を成功させた敵を予測するとは無理難題ですよ。怨恨なら王家の潰し合いが狙いでしょうし、他国の介入なら可能性はいくらでも、そうなると陛下の支援者とて信じられなくなります」


「王の権限が弱いこの国で暗殺はリターンが少なすぎるな、なら怨恨か?しかしならクーデターなどせずとも暗殺を続ければ良いと思わないか?王家を暗殺出来て、理由が怨恨ならな」


 セルファナス家は吸血種にとって偉大な存在だが、後継のバンパ王家はその頃の強権はない。あくまで違う家系なのだ。


「確かに貴族も暗殺などせずとも、金と政争を駆使すれば目的はかなり安全に達成できますか。なら本格的に暗殺は無いと思いたいですがタイミングが絶妙に意味不明です。何者かがバンパの乗っ取りを狙っているとかですか?」


「セルファナス家の血族であるバンパ家を乗っ取りか?ムチャをすると吸血種の離反で失敗するぞ」


 部屋の外から大きな声がする。


「陛下!!陛下!!失礼します!!大変です!!ノタリン殿下が武力蜂起しました!!既に城下町と城の大半を制圧されました!!」


「なっ!?いくら弟とはいえ早すぎる!!」


「このまま陛下が捕まれば終わりです。お逃げ下さい」


「・・・仕方あるまい、この場は任せる。死ぬなよ」


「畏まりました」



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 このクーデターは成功したが王であるブナイツケの影武者を捕らえた。ブナイツケ本人には重症を負わせたとの情報もあるが、生死不明となり弟のノタリンが即位した。


 ブナイツケを逃がした大罪人として宰相は公開処刑するもブナイツケは現れず、王冠の所有者はまた変わったのであった。


 こうしてノタリンは国内のクーデターに協力した貴族に利権を提供するためにシバル王国からダンジョンの権益を奪わねばならなくなった。

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