108話 間話 好奇心は冒険者を殺す

 ナーシャ side

 

 少し時は遡りヴィシリアに依頼が出されたときになる。

 

 ダンジョンで稼ぐ冒険者が増えて冒険者ギルドの人員も増強されました。最古参の私は肩書こそ受付嬢ですがギルドマスターが使い者にならないので私がギルドマスターみたいなものです。

 

 期待されたダンジョンマスターとの交渉は会うことすら出来ないんです。左遷されない方が不思議なくらいダメなギルドマスターです。

 

 まぁダンジョンにシバル王国のエルフ達を受け入れたし、ギルドマスターはダンジョンマスターを怒らせた時に謝ると効果がありそうという感じで役職がついてるお飾りだと思ってます。

 

 つまり私は優秀なんだということなのです。人間なんてみんな自分が優秀だと思いたい生き物で、自らが優秀な証拠を探す生き物なんですよね。無けれはば下を見つけて貶して、苛めて自分が優秀だと思いたいほどなのです。

 

 そんな事をしなくていい私は本物という事なの。

 

「あのー、ナーシャ先輩窓口対応をお願い出来ますか?チップがたくさん貰えるからお願いします」

 

 私の至福の考え事を後輩が中断させてくれました。チップが安かったら覚えてなさいよ。口に出さないけど。

 

「おや?珍しいこともありますね。直ぐに行きますよ」

 

 そして案内された窓口にはコービニがガチガチに緊張しています。

 

「えっと、わざわざありがとうございます。これは気持ち?です」

 

 おっと銀貨ですか、呼び出した気持ちにしては高いですね。

 

「ありがとうございます?何かお困りごとですか?」

 

「えっと、・・・指名依頼を出したくてお願いしたいんです」

 

 完全に机の死角になる手元のメモ見て言ってます。ふむ、これは商人依頼あるあるですね。

 

「指名依頼は手数料がかかりますし、冒険者が断っても手数料はお返し出来ませんがよろしいですか?」

 

「か、かまいません。お願いよろくしたいんです」

 

 言葉遣いおかしくなってるし噛んでますね。

 

「誰に依頼されますか?」

 

「Bランクのヴィシリアさんでふ。必ず受けて貰えるように手数料と、ほ、ほ、ほんの気持ちです。あっ冒険者ギルドに気持ちなんです」

 

 あー、やっぱり商人あるあるですね。豪商などの商人が弱小領主などに取り入るために手助けする。

 

 結果として取引を増やしたり新規に取引をしたいときに、手助けを直接やると露骨な要求になるからと、多額のお金を渡して小さな商人を依頼主にして、違和感を出して調べさせるやつです。

 

 本当の依頼主を調べて会いに行くと、大商人で善意だからお礼なんていらないのにわざわざ出向かせて申し訳ないとなり、そんなことは言わずにと渡そうとしたお礼の品も断って、そんなにお礼がしたいなら、仲良くするだけで良いですよ。となるわけだ。

 

 商人なんだから貴方と商売するのが仲良くだから、そのための工作です。有望なだけど金欠な冒険者とか、弱小領主相手に良く使われます。

 

 無視しても大丈夫なのですが、今後その商人が仲良くはしてくれない、場合によっては敵になるというだけです。

 

 コービニもそれなりの手間賃を貰ってるでしょう。コービニを使う豪商なんてウレナイ商会しかありませんね。あそこは物流系なのでそりゃエルフの輸出入の品物を運びたいでしょうよ。

 

 それでとんでもない金額を持ってるからコービニはガチガチなんですね。分かります。

 

「確かに冒険者ギルドとして手数料と気持ちを頂きました。少し数えますのでお待ちください?」

 

 ざっくり手数料の3倍はありますね。コービニさん間違えてません?

 

「えっと、あー・・・あっ!この手紙もヴィシリアさんに必ず読んで秘密にしないとなのでその分もありますです」

 

 口止め料ですか、なら少し多過ぎですがありでしょう。無理やりヴィシリアに受けさせましょう。

 

「かしこまりました」

 

 数えるとBランクの手数料のきっちり3倍です。慣れた商人の仕業ですね。絶対、店舗が1つのコービニには知らない事です。様子からして初めてのお遣いですけどね。

 

 好奇心にかられて手紙読んだりすると後日、豪商の部下や場合によっては豪商を動かした権力者の配下にこの世から消されたり、取り返しつかない不幸にさせられたり、するやつです。触らぬ秘密に祟りなしってね。

 

「依頼内容をお願いします」

 

「ちょっとまって、えっと、ラスヤバエルフ借領の増えすぎている黒光りカサカサ悪魔の間引き?ですか?」

 

 聞かれても知りませんよ。妥当な内容の手助けなので合ってるでしょう。

 

 今は開拓してるし爵位が男爵のエルフには移住準備と最低限の生活物資を仕入れるので限界で、他に余力がありませんからね。ウレナイ商会がよっぽど無理難題を言わない限り受け入れるしかありませんね。

 

「はい、それでは冒険者への報酬ともしあれば期限もお願いします」

 

「期限はありません。報酬はこ、これれでお願いします」

 

 カミカミですけど、そりゃこの金額はビビりますよ。Bランクパーティーがそれなりの期間雇えます。コービニの年収超えてるかもしれません。エルフにこれくらいの戦力は簡単に用意出来ますよアピールですか。金の使い方が豪商は違いますね。

 

「こちらの箱も報酬ですか?」

 

「ヴィシリアが泣いて喜ぶそうです」

 

 そうですってあなたが依頼主でしょ?完全にウレナイ商会がお金出してますけどね。

 

「分かりました。他にありますか?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 後日仕事を終えたヴィシリアはファーレンは冒険者ギルドに報酬を受け取りに来た。

 

「依頼を達成したのじゃ、ジャス男爵のサインもあるのじゃ」

 

「確認いたしました。それでは報酬になります」

 

「この箱はなんじゃ?」

 

「依頼主様からは泣いて喜ぶ品の報酬と聞いております」

 

「・・・わかったのじゃ」

 

 ヴィシリアはファーレンに1日分の報酬金額を渡して、箱を開けました。それでもかなりヴィシリアは儲けたはずです。

 

「パンですか?柔らかくて良い匂いがして美味しそうですね」

 

「・・・ファーレンとナーシャも少し食べてよいのじゃ」

 

「ヴィシリアの報酬だが味は気になるし、少しいただくぞ」

 

「・・・そうじゃな、・・・ナーシャにもお裾分けじゃ」

 

 ヴィシリアが少しパンをちぎってくれました。私のは一口あるかないかなのでちょっと不満ですが受付嬢ですし、これだけでラッキーでしょう。

 

「「いただきます」」

 

「ぐぁはっぐ」ばたん 「み、水」きゅう

 

 多めに食べたファーレンは一撃ノックアウト、量の少ない私も致命傷を受けました。柔らかくて素晴らしい食感と史上最悪最強の不味さが同時に襲って来て、不味さが口を支配しメンタルをゴリゴリ削ります。さらには飲み込んでも消えない後味で追加スリップダメージで追撃してきます。

 

「・・なんだ不味さのレベルが上がっとるのじゃ」

 

 これで泣いて喜ぶってヴィシリアの頭大丈夫ですか?

 

「なんだBランク様は軟弱だな、パンも食えないのかよ」

 

 冒険者が妬み増し増しでからんでますが、止める体力が私にはありません。

 

「そうじゃな、お主が残り全部食べられたらワシが昇格を推薦してやるのじゃ」

 

「約束は守れよやってやるぜ、パクッ、ふぎょぉえぇおぇくゅめぉ」ガクッ・・・シーン

 

「マジかよ」「やっべぇな」「逆に気になるぜ」「ヴィシリアの推薦なら試す価値あるか?」

 

 少しして、ざわざわと相談しそれぞれの理由で食し「ぼぁっ」バタン「うりゅしくゎ」ガクッ「やめてく、はっひゅーひゅー・・・」シーン「ぎゅりぬしょ」きゅう「多いだろ・・・」白目「マジかよ、ちょおま、ぐぇにゅ」その日、冒険者ギルドは全滅した。

 

 最後の残りは復活したファーレンにヴィシリアが取り押さえられ無理やり食べさせてました。

 

「ノォォォォーガハッノォォォォー」きゅう「ノォォォォー」失神しても口に入れたら不味さで目が覚めるってやばすぎです。

 

 コービニの股間は後日濡らしておきましょう。きゅう。

 

 優姫ちゃんとキアリーはこの様子を見て大爆笑し、元凶の海くんは見損ねてもう一度やろうとしたので、優姫ちゃんとキアリーが身体を張って止めた事で惨事は防がれましたとさ。

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