109話 間話 苦労人?

 スライムは弱く知性は無い存在である。だが身体を食べるには向いていないため天敵は少ない。


 基本的に死肉、腐葉などあらゆる有機物を食べて生きている。スライムの死体は肥料になるので人間に掃除屋兼肥料製造屋として家畜として飼われることは多くある。


 だがペットになることは滅多にない。なぜなら分裂して増えるので元の個体がわからなくなるし、見分けもつかないし、知性が無いからなつくこともないからだ。


 そんな常識を超えたスライムが海くんのペットである、うみである。さすがにダンジョンの力をもってしても言葉として意志疎通は不可能だが、空気を読んだり、ゲーヘル戦では起死回生に役立ったポーションを海くんに渡したりと知性が高い並の人間より高いことは確定だ。


 そんなうみの住みかはラスボスがヤバいダンジョンのラスボス部屋とその周辺の安全地帯である。


 ダンジョン初のネームドで強そうだが戦闘力はスライムなので持っていない。


 彼?彼女?の日課はいろいろとあり忙しいのだが一番大切なのは、海くんから食事を貰う事である。


 海くんとサイオンを見つけてぽちゃんとラスボス部屋の水から出る。


「今日もしっかり食えよ」


 バケツからスライムにとってのご馳走が出される。


「ゴー!」


 海くんがエサを掛け声と共に投げる。初めてなのだが、うみは瞬時に飼い主の意図を読み取り、ポヨンと投げられたエサを追いかける。


「ホントにそこらへんの犬山より頭良いよね」


 スライムは遅い生き物なのでキャッチは不可能だが落ちた場所に移動して食する。このときにちゃっかり汚れた床もキレイにする当たりにうみの頭の良さが伺える。


 そしてスライムなりの全速力で海くんの元に戻り尻尾の変わりに褒めて褒めてと震える。


 海くんに撫でて貰いご満悦なので震えて表現する。


「ちょっと頭が良すぎて気になるよな」


「だね、ほら相棒たんとお食べ」


 サイオンも食事をくれるので受けとる。さりげなく、手に汚れを残さないように全て取込みながらスライムなりに素早く引くのがコツのようでこんなところにまで気遣いが行き届いている。


 サイオンも撫でてくれたので反応を返す。


「うみは良く分かってる。僕の相棒は自称大賢者とは違うね」


 うみはこいつのヤバい癖が出てると海くんに半ば助けを求めて近寄ります。


「やっぱりカイが一番だよな」


 飼い主にこいつヤバくないと訴えるが海くんが食事をくれたので美味しくいただきます。空気を読みすぎて海くんが良いならと諦めたのでしょう。


 海くんとサイオンからの食事が終わると、うみはラスボス部屋の掃除を開始する。やり方は貯まってる水の有機物を食べて、抜けた髪の毛とか床にある有機物ごみを全部食べていきます。繊維だろうが毒物だろうが有機物なら食べるあたり魔物なのは間違いない。


 うみが満足するレベルの掃除が終わると、ラスボス部屋を出て少し上の階層に向かいます。


 弱い分スライムは繁殖力が高く分裂は多いので子供?分身?を生きやすい上の階層で放つ為だ。


 スライムにとって生き物が少ない最深部は有機物が少なくて生きにくい環境なのだ。こんなところまで気にかける無駄に知性を活用するスライムそれがうみである。


 うみが分裂しても知能が継承れたり、分割されたりはしない。


 関係ないがタランクト種とゴブリン種が殺し合いをしている隔離された場所のスライムは細々と食べ残しやら有機物を食べいて、死因は戦闘の巻き添えで、死ねば肥料になり草が生え、草が弱い魔物のエサになると生態系を支えている


 もちろんダンジョン全体の掃除屋でもある。


 今日の分裂を終えるとダンジョンの最下層に帰ってくる。1日で掃除が出来る広さではないが昨日の続きをする。


 自ら課したノルマをやっていると海くんがやってくる。


「今日はこのあたりか?手伝いはいるか?」


 全力で発言の意味を考え空気を読んだ結果、海くんは遊びに来たと判断して海くんに突撃を敢行する。スライムなのになぜか、今日は犬扱いなのだが飼い主の気紛れなんだし、犬を飼った方が良いなんて野暮な事は気にしない。


 もちろんスライムなので遅いのだが、たどり着いたら持ち上げられる。


 深夜じゃなくてお昼の時間帯に来たから何かあった?とジェスチャーしてみる。ぷるぷるしてるだけだが海くんには伝わったのか、勝手にしゃべってるのかは不明だが、教えてくれる。


「ヴィシリアにせっかくパンを作ったのに食べてるところを見損ねたから、もう一度作ろうとしたら優姫とキアリーに止められてな、変わりに二人で遊び倒して来たから相手がいなくなってな」


 それは優姫ちゃんとキアリーの判断が正しいが、変わりに二人をいじり倒して、ぐったりさせてもまだ遊び足りないからここに来たようだ。わりとうみは、ドン引きしつつも素直に撫でられる。


 サイオンとエレンティアはゲーヘルのガトリングを改造してて、ネイはシバル王国とかエルフとか政治の仕事が忙しいのだろう。


「見た目はねばねばしてそうなのに、ひんやりしてツルツルで触り心地いいよな」


 ねばねばしてて、通った後が分かるようでは、凶悪な魔物から隠れたり出来ないから当たり前の生態である。


 悪食でエルフもスライムも踊り食いする魔物もいたりするのだ。黒光りカサカサ悪魔も食糧がなければ、スライムを食べることもある。弱い者は早く増えるか、隠れるか、搦手かである。スライムは隠れて増える、黒光りカサカサ悪魔は増えまくるである。


 そんな事より誉められ嬉しいのでぷるぷるする。


「かわいいなー、やっぱりペットは癒し系にかぎる」


 猫の方がスライムより癒し系な気がしたうみだが、猫だとこの飼い主と同族嫌悪でケンカしそうだなと思い直す。この飼い主には犬系しかないのだろう。ちょっと放置時間が長いがそこはスライムだから問題ない。


 今日のノルマは残り最下層が少しとコアルームの排水浄化なので、深夜に飼い主がイチャラブしてる時にしようと決めて、飼い主の気が済むまで撫でられながら付き合う、うみなのであった。

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