090話 間話 数秒

 エレンティア side

 

 

 エマーシュという兎人の女性冒険者に、険者ギルドから呼び出されて向かって今はウレナイ商会の裏にいる。

 

 それにしても、いろいろとタイミングが良すぎる。追い剥ぎの情報も光陣営からなのに、それなりに精度が高いみたいだし、冒険者ギルドの情報収集能力を超えてる気がする。国家ぐるみなら権力争いの匂いがするのよね。

 

 元女王陛下の復権争いとかに巻き込まれたら逃げるけど、ステータスハッキングがバレてて、油断させる茶番の可能性もある。出入口が限られたこの村で、出入口を固められたらまずい。大魔法でぶっ飛ばすけど、教団に追われると、前世より隠れる難易度は高くなりそう。

 

 負けることはないからこその面倒な対面なのだ。

 

 ウレナイ商会の裏口でシバル王国の中心である鳥人族の男が待っている。

 

「わざわざご足労すんませんな、わい、ウレナイ商会の会長のウレナイです。ネイ元女王陛下とダンジョンマスター様がお待ちです。エレンティアさん、それでは案内します。エマーシュこれはちょっとの気持ちや、また頼んますで」

 

 じゃらじゃらと銀貨をエマーシュに渡して、エマーシュを帰してしまう。そして流れるように建物内に案内される。

 

「気前がいいのね?」

 

「必要経費と特急料金をたんまりダンジョンマスターにもろてますから稼ぎはまだ十分なんですわ。商売はがめつ過ぎても上手くいきまへん。上手いバランスがコツですわ。おいしい思いをしたら、次に無茶振りしても頑張ってやるのが人間ですからなぁ。おっと会談場所はここですわ、ほなどうぞ」

 

 マシンガントークを聞きながらエマーシュにウレナイさんが無茶振りするのは確定したし、逃げたのは許そう。

 

 ドアを開けると、「アーリィちゃん!?」思わず声を出してしまうほど驚く大きくなっても、とても可愛いアーリィちゃんがいる。

 

「っ!?」

 

 次の言葉は違う驚きで続かない。あの男はなに!?魂が複数あり、おそらく一つ大きいのが彼の魂で他の魂はゆっくり破壊されている。そして彼の魂は非常にゆっくりだけど大きくなっている。

 

 大賢者として魔法の研究過程で魂と呼ぶべき存在を知り探知出来るようになった。それは必要な技術だったからだ。

 

 彼は異常だ。魂は生まれてから死ぬまで大きさ変わらない。魂が魔力の入れ物であり、スキルとステータスを記録する媒体なのだ。それが転生魔法とステータス魔法の研究結果だ。

 

 だから才能は魂の大きさで決まる。高いステータスとスキルに使用する莫大な量の魔力をストックしなければならないからだ。さらには魂は記録媒体として使用した部分は魔力をストックできない。

 

 つまり、魂は魔力貯蔵と魔法記録はどちらかしか出来ない。魂の何割かを魔力貯蔵、残りを魔法の記録、ステータスとスキル情報の記録に使うわけだ。魔法の記録を弄くって自身の記憶を魂に保管し、ステータス魔法を弄くり、魂を保護したのが転生魔法の正体だ。

 

 そして魂と生命は強く結び付いている。この仕組みは解析が出来ていない。それでも魂がなければ長く生きられないのは、動物実験で確かだ。そして魂が一定割合以上変容しても死ぬ。魔法を記録しすぎても魂が変わりすぎて死ぬのだ。魔力のストックを減らしてステータス値を上げるなんて出来ないのだ。

 

 だから才能の限界は越えられない。越えた先は死が待っているからだ。

 

 魔力貯蔵は無理やり詰め込め過ぎなければ、徐々に漏れ出すから大丈夫なようだ。無理に大量に押し込むと砕け散る。ステータス魔法が上限に達すると魂に貯めるのを止めるようだから、心配はいらない。

 

 おそらく、あの男は魂を奪い、自らの魂としている。悪魔と言われても納得する。あれは他人の魂を食らっているのだ。神は会ったことはないが彼なら殺せるかもしれない。魂を持つ存在なら喰らい尽くせるだろ。

 

 今なら魂の大きさは自分が勝っている。転生しても魂をそのまま維持している大賢者だ。ありとあらゆる魔法スキルを最大レベルで記録出来る魂はかなりの大きさなのだ。

 

 だが魂への介入は難しい。テータスとスキルのシステムを利用して構築した魔法を自らの魂に記録し発動させるのが限界なのだ。手あたり次第に魔法陣を構築して修正をして望む結果を得るられるように調整しただけだ。それも似たような機能があったから出来たことだ。

 

 本来、魔力と魂は大きさ以外にもそれぞれ質が異なる。魂の形とか魔力の源である感情の違いなどからくると思われるがこれも解析が出来ない。

 

 魂にアクセスする方法がそれぞれ違ってしまうのだ。神のシステムとも考えられる魂ステータスとスキルは個々の魔力の違いを調整し、発動するときには質を揃え同じ結果を得られるようにする事と、本人の意思がスキルに影響出来るように魂と接続している。

 

 この接続が全く異なるためには他人の魂へのハッキングは出来ない。魔力の質が違うと根本的にアクセス出来ないからだ。

 

 ましてや魂を奪うなど不可能だろう。死ねば魂は砕け散る。死ぬときや生命が生まれる時などは少し身体とズレが出て抜け出る可能性がなくはないが極々希だ。

 

 何千とか、何百年単位で探さなければならないだろう。私もこの現象を利用して、魂を保管し魂が抜け出た身体に転生したのだ。

 

 だから複数の魂をたまたま抜け出しただけで集められるわけがない。ならあの男は魂を奪えるだろう。俺自身も転生し肉体の死から逃れても魂の死からは逃れていない。

 

 もし 即奪い殺せるなら、危険すぎる。今、今世で最も死を感じているほどだ。

 

 魂は本来感知出来ないから彼以外はその事に気が付いていないし、魂についてだって知らないだろう。

 

 とにかく生まれてから死ぬまで大きく変わらない、変えられない魂をゆっくりとではあるが変容させている。そんなことをすれば死ぬはずだ。

 

 興味以上に恐怖が勝る。

 

 生き物として異形、あり得ない。信じられない。

 

 とにかく本能的な恐怖で私は動けなくなっている。

 

 例えるなら、目の前で人肉を食べている人がいるようなものだ。

 

「アーリィって誰?」

 

 アーリィちゃんの発言で我にかえったのです。

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