088話 間話 戦斧VS対物ライフル

 エレンティア side



 ダンジョン内で明らかに冒険者ではなく犯罪者を探知して、先制攻撃を仕掛けたのにまだ倒せていない。


 ダンジョンマスターを守るにしてもおかしい。斧技、投擲技、曲芸はMAXのレベル10、攻撃系のスキルも乗っているし、ステータスも攻撃力をかなり高くしてある。


 これで即殺出来ないなら戦闘力ならボス部屋に居るべきだと思う。


 となるとダンジョンの魔物ではなく、攻略者?それならこんな待ち伏せや攻撃なんてしない。ダンジョンの浅い階層では冒険者ならあえて鈴が鳴るようにして歩く。


 冒険者同士の出合い頭の殺し合いを回避するためだ。深くなると冒険者は少なくなるし、探知スキルもある。何より魔物が強くなるので、待ち伏せを防ぐために鈴は使わない。


 浅い層ではパーティー全員が隠密スキルなんて使えないからあえて目立つ方が、安全なのだ。


 このダンジョンも管理されているから、滅多にいないだろうけど、他の冒険者からお宝を奪おうとする奴もいる。


 山賊紛いの冒険者なら強さは納得出来るが、攻撃方法が分からない。


 私もトリッキーな自覚はある。でも変な筒を投げてくるし、音がやたら大きい武器か魔法を使ってるしどうするべきか判断に迷う。そもそも武器もスキルも判別出来ない。


 このままだと戦斧が壊れたら負けるだろう。それでも相手の姿くらいは見て冒険者ギルドに、報告しないと意味はないだろう。


 戦斧を先行させて俺も飛び出す。


「やっとの出てきやがったか、へぇーいい女じゃないか、やらせろよ」


 バン、バン、バン、バンと男の武器が何かを飛ばし来るが速度が早すぎて、それ以上分からない。


 そして襲われてる女の子の姿もある。攻撃から身を守るため以上に、男への生理的嫌悪感から角を戻ることにする。


 直撃こそ回避するがダンジョン通路壁の角で薄いところは男の攻撃が貫通してくる。


「痛っ~!」


 貫通したときに飛び散った壁の破片でダメージを受ける。


 前世の男としても今世の女としても、キモイ。あんなの相手は無理だが、強い。


 まともに戦うとあの女の子のようにされてしまうかもしれない。


 素早さに極振りにして、逃げられたら良いが攻撃で飛ばしてくる速度が速すぎて回避不能だろう。


 防御力を上げて耐えられても、逃げきれなくて、あいつだけが楽しい事をされたら最悪だ。


「厄介ね、大魔法で吹き飛ばしてもいいけど、ダンジョンをぶっ壊して巻き込まれても不味いし、ダンジョンマスターに敵視されそうだし、村にも敵対されそうだし、やっぱり一撃入れて逃走しかないか」


 ちなみに優姫ちゃんに相談すればダンジョンはDPで直せるから、ゲーヘルを女の子と葬れと言うだろう。殺せるならそれもありだ。そのくらいゲーヘルは嫌われている。もちろん女の子を助けられるなら、その方がいいけども。


 兎に角、助けるよりゲーヘル排除が優先なのだ。武器は発掘して解析出来ればいいし、見つからなくてもゲーヘルが倒せるなら諦めもつく。


 海くんが危険を犯さなくて良いのも理由にあるだろう。エレンティアはそんな事知らないので大魔法は諦めたのだ。


「本当に追い詰められたら大魔法をぶっぱなせばいいか、あいつとやるくらいなら死んだ方がましだ。それじゃいっけー!!」


 ジャグリングで旋回している戦斧5本全てをゲーヘルに飛ばす。


「早く諦めやがれ!!俺は最強だ!」


 相手は雄叫びを上げて、バン、バン、バン、バン、バンと戦斧を撃っている。


「助けてあげれなくてごめんね」


 捕まってる女の子に謝る。逃げるので精一杯なんだ。


「うがー、手間かけさせやがって!やってやってぶっ殺すぞ!!」


 男に戦斧がダメージを与えたのを確認すると一目散に撤退をするべく走り出した。


 ステータスにハッキングして、スキルと攻撃力を素早さと防御力に振りなおす。


「鳥肌が治まらない!あの叫びマジキモい」


 転生魔法の開発の過程でステータス魔法、いやステータスシステムと言うべき魔法をある程度理解した大賢者レントは、ステータスとスキルの新たな構築は出来ないし他人のステータスもいじれないが、自らのステータスやスキルを変えるくらいなら可能としていた。


 ゲーヘルはステータスを持たないために、全力で逃げるエレンティアに追い付くことは出来なかった。


「目の前に出て攻撃を選択しなくて良かった~」


 スキルの探知系を取得し、逃げられたことを確認したので、村の冒険者ギルドに直行して報告をすることにする。


「ダンジョン内で追い剥ぎに襲われたわ!」


「そんな!?最近は怪しい人どころか、常連冒険者以外ならエレンティアさんしか入ってませんよ!?」


「チラッとしか姿は見てないけど人間族かそれに近い見た目の男が攻撃してきて、同じく人間族ポイ女の子が捕まってたわ」


「そんな記録はありません。少し調べますのでお待ち下さい」


「構わないけど、ヤバい強さで逃げるので精一杯だったわ」


 最後の仕事でとんだトラブルに巻き込まれた。全部放り出して魔法研究のために雲隠れしてしまうかな。


 しばらくしてゲーヘルの情報がシバル王国(密偵)から持ち込まれて、冒険者ギルドは対応で大忙しになるのであった。

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