062話 間話 不思議な村2

 エマーシュ side



 ネイ元女王陛下の暗殺とか問題しかないので現実逃避に村の情報収集という名目で観光しましょう。


 ざっくり村を見てみると、鍛治屋、道具屋、肉兼素材屋、と店が人口に対して少ないようだ。これは商人ギルドの力が強くて商売を独占しているとみていいでしょう。


 後は簡素な教会に冒険者ギルドと村長屋敷と民家、畑がある。


 とりあえずダンジョンに入る為の許可証はトオイノナンデ家に準備してもらったので、必要な武器の手入れをしようと鍛治屋に行きます。


 カーン「イッテー!」カーン「アイタ!」カーン「イッテテ!」


 新人が練習してるのかな?それにしても酷い辞めた方が身のためじゃない?と思いつつ鍛治屋に入る。


「こんにちはー」


 カーン「イッテー!」カーン「ノォー!」カーン「アイタ!完成だな」


 どうやらハンマーの音と痛そうな叫び声で聞こえてないようなのでもう一度声をかけます。


「こんにちはー!」


「おや?お客かい、すまない」


 奥から若いドワーフの男が出て来ました。


 左手が真っ赤に腫れ上がって大きさが5倍はあるのが印象的です。


「ここまで旅してきたので、武具のメンテナンスと必要なら買い換えをしようと思いまして・・・手は大丈夫です?」


 がまん出来なくて聞いてしまったけど仕方ないでしょ。


「ノーヒッツ鍛治屋で買うならコービニ道具屋に行った方が種類がありますよ、大半の商品はコービニ道具屋に卸してまして数がないです。それともオーダーメイドですか?」


 手の事スルーされたけど気になりすぎて話が入ってこない。


「はぁ、それで手はなんでそんなことに?」


 私の美人が台無しな、返事だけどしかたない。


「なぜか鍛冶作業するとハンマーで叩こうとすると手を叩いてしまうんです。不思議ですよね?」


「不思議って聞かれても、手を避ければいいのでは?それより鍛治屋にむいてないのではないですか?」


 思わず新人ぽいし言ってしまった。転職した方がいいよ。


「これが師匠にラスボスのヤバいダンジョンで出店するための試験で俺が一番良いものを作ったんです。剣に一発もハンマーが当たらずに手しか叩いてないのに本当に不思議ですよ」


「ん?えーーー!おかしいでしょ」


「ハンマーは手に当たるように振らないとダメダメな鍛治なるので本当に摩訶不思議なんです。あのときは全部手にクリーンヒットしましたよ。ハハハ」


「貴方が凄いことだけはワカリマシタ」


 笑いごとだけどこいつヤベェ。こいつ薬やってるよね?


「おおーありがとうございます。これでもドワーフ鍛治師の至宝と言われてるですが、なかなか信じて貰えないんですよ。ここの出店は審査で師匠も参加してたから師匠が勝ってここに出店する出来レースだったんですよ」


「師匠に勝ったんですか?」


「勝っちゃいました。師匠は名工の一人なんで勝負なんて無駄なことしたくなかったんですが、作品を出せって言うからてきとーに作ったんです」


「それで何を作ったんです?」


「そのとき使った金属が鍛治場の角にあった金色のゴミみたいなクズで剣を作ったんです。それがオ リ ハ ル コ ン・ ・ ・ ・ ・ ・だったんです」


「マジデスカ?」


 オリハルコンって最高硬度で加工なんてできない金属でしょ?スキルレベル10でも工具の強度が足りなくて加工不能って聞いたけど?


「マジです。まさかの純粋なオリハルコンで総オリハルコン製ナイフを鍛えてしまいました。いやーダンジョン産のオリハルコンが鍛冶場の隅に転がってるなんて思いませんよ」


「・・・・・」


 絶句してフリーズからなんとか再起動します。


「オリハルコンの武具ってダンジョン産だけで、作れないはずでしょ?」


「なぜか出来ちゃうんです。手を叩くのがコツなんでしょうか?」


「そうなんじゃないですか?それはドワーフ鍛治師の至宝デスネ」


 こいつヤベェよ。違う意味でヤベェよ。すごいけどバカでしょ。


「おっと話し込んでしまいましたね。金属製の物ならなんでもメンテナンスしますよ」


「あ、はい、お願いします」


 短剣と胸当てを渡します。


 ノーヒッツは短剣の柄を持つと小さなハンマーで刃を叩こうとしてなぜか左手を強打する。


「イッテーー!突き刺して使ってますね?刃は大丈夫そうですが柄にガタがきてますから治すなら銀貨5枚です。胸当ては革の手入れで十分です。見た感じご自身で出来るようですがどうします?僕は金属専門なんですが、手入れくらいならしますよ?」


「短剣の手入れだけお願いします」


 銀貨5枚は少し高めだが腕か本物なら安いのだけどね。本物かなぁ?オリハルコンナイフ詐欺っぽくない?


 なんか見るから総オリハルコンナイフが飾ってあるけどさ。


「少しお待ちください」


 工具であっさり柄を分解すると、新しい木材を凄い勢いで削り刃をはめ込むためにハンマーで左手を強打する。「ギャァオ!」うるさいけど柄の最終仕上げの研磨をして、布を巻き付けて固定する。そこから刃を見て何故か左手を強打する「イッタ!」そして油を塗り込む。


 それだけの作業が10分ほどの早さで完成する。


「出来ましたよ。銀貨5枚になります。」


 短剣を持って驚く、手に馴染むし持ちやすく私の使い方にぴったり合うようになっている。刃も驚くほどキレイで使っている過程でついた歪みなども無くなっている。


「凄いですね。銀貨5枚どうぞ」


 これなら安い。この村はダンジョン中にあるし変な鍛冶屋はあるしで、暇つぶしには困らなそうね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る