061話 間話 不思議な村1

 エマーシュ side



 危険すぎる依頼を受けたかな?とも思うが前金を貰って国外に逃げるという手もあるのだし、ダンジョンでちょっと稼いで、バックレるのが一番とラスボスがヤバいダンジョンにやって来ました。


 私はマフィアに所属しているから逃げることは出来るだろう。


 貴族相手に契約不履行はまずいからいろいろと面倒なことになりそうだけど。この手の暗殺は失敗が付き物だし時間もかかるものだ。


 年単位で準備すらあり得る。ある程度ごまかしのノウハウがファミリーにはあるだろう。


「ファミリーに前金の大半を渡せばどうにかしてくれるしょ」


 そう自分に言い聞かせて、見ないふりをしている。


 洞窟の中に拠点があるらしいく、その奥からダンジョンに入るらしい。


 砂浜から入ると洞窟とは思えない明るさで、大量の照明が天井についている。


 入り口そばに宿兼レストランがあるので、そこで情報収集と腹ごしらえすると決めて暖簾をくぐる。


「いらっしゃいませー、お泊まりですか?お食事ですか?」


 シバル王国なので当然だが鳥人の女の子が元気にカウンターごしに接客してくれる。種族差別こそ少ないがホワイト職、管理職には鳥人族が多いのは当然だ。


 レストランに人は食事時じゃないこともあり客はいない。


「食事が美味しかったら泊まるわ」


「それはコックさんが休憩で出掛けてるので、頑張って美味しく作らないとですね」


「お客少ないみたいだしお話大事かしら?」


 ちいさな店なのにコックが雇えるとはかなり儲けてるようね。ダンジョンのために冒険者が来るなら宿も食事処も儲かるか。


「大半のお客さんが冒険者ですから、今なら暇なのでいいですよ」


「野菜定食をちょうだい」


「野菜定食ですね、調理しますのでお待ち下さいね」


 カウンターで女の子が手際よく料理を始める。小さな店なら職人のコックではなく料理スキルがある者が料理することは多い。彼女もスキル持ちなのだろう。それなら優秀な人材だと思う。


 これなら問題ない。私はカウンター席に腰掛けて情報収集に入りましょう。


「洞窟なのに昼間みたいに明るいとは魔道具の無駄よね?」


「違いますよ、村長のムサク様が交渉して外と同じ明るさになるようにして貰ったんらしいですよ。薄暗くなって夜は暗くなるし朝方は明るくなっていくんですよ。もちろん夕日の時間も赤くなって薄暗くなります」


「そんな高度な魔道具をだ出せるシバル王国は儲けてるのね」


 実際には優姫ちゃんが気を利かせて設定したのだが5年前の詳細なんて適当である。光熱費削減で夜は真っ暗だったりする。


「ムサク様が交渉したのはネイ元女王様ですよ。ネイ元女王陛下がダンジョンマスターとの連絡役なんですよ。ここはダンジョンの一階層目なのです」


 これも微妙に違っている。ムサクはネイ公爵閣下とレイナ女王陛下の手紙を運んでいるだけで、王家の指示を村に伝えているだけだ。


 住んでいる者たちには詳細な事実より村長が優秀で伝があると思いたいのだから、そう見えるし噂も自然とそうなるのだ。


 別に密偵を通したりと他の連絡手段もあるが公には村長が窓口で交渉役という事である。


「えっ、それって危ないでしょ?トラップとか魔物とかいつ出てもおかしくないでしよ?」


「ネイ元女王陛下が安全を確保して下さってますから大丈夫ですよ。私はもう何年も住んでますが、魔物もトラップも一度もないですよ」


 いきなりネイ元女王陛下の有力情報を手に入れられそうだし、しっかり怪しくない質問をしますか。流れを戻しましょう。


「ネイ元女王陛下はダンジョンとの窓口をされてるの?」


「村では見かけないのでダンジョン側の交渉役みたいですよ。村長が要望をネイ元女王陛下にお伝えしてるみたいです」


 村に居なくてダンジョン側・・・ということは、魔物だらけのダンジョンの奥にいるとなると厄介な。


「それじゃここは魔物の心配もないいいところだね」


「ここはまだ安全ですが、最近は森のエルフの村がオークに襲われてほとんど移住してるらしいですよ。噂ではオークの魔王が現れたとか」


「それでここまで森を抜ける街道を、使わなくなったのね」


「森の奥はオークが多くて進めないらしいですよ。村長が新しい街道とここの防衛をネイ元女王陛下に交渉してるので上手く行けば安全になりそうです」


 この状況でネイ元女王陛下の暗殺は非常に危険で王国にファミリーからでも突き出されかねないわね。


 ファミリーも昇り調子のシバル王国と正面切って争うならファミリーの末端の私を切るだろうし。


「それは凄いわ!どんなことになるのかしらね」


「レイナ女王陛下にも新街道の話は通さないといけないからと村長が死にかけるほど仕事してますよ」


 レイナ女王陛下とがっつり繋がってるじゃない、何が兄を見殺しよ!?暗殺なんて無理じゃない、これは適当にバックレるしかないわね。


 実際に森を通らないと未整備で危険なために物資輸送が滞り気味になるほどの、海沿い道なのでシバル王国が整備を計画しており資金やら街道の利権やらで大変なのだ。


 それらはネイよりもレイナの管轄である。ダンジョントンネルという荒業での解決が本命が提案されているが、村長は現場で調整に奮闘しているのだ。


「防衛力を強化して欲しいわね」


「私もですよ。ここが一番初めにオークに襲われてしまうでしょうし、外に対して防衛力強化して欲しいですよ。レイナ女王陛下は海沿い街道推進らいいのですが村民はオークからの防衛力を望むしエルフとの摩擦もあるって村長が愚痴ってましたよ。それではご注文の野菜定食です」


 事実は異なり、エルフ達はシバル王国に支配されているがシバル王国の力で魔物から守られていた。オークに森を奪われたなら服従する意味はなくなるのだから、街道の奪還つまりは、森の奪還すべしと訴えている。


 地方の少数派だが一応貴族にエルフはいるし無視はしにくい。街道の奪還はダンジョンの利益を輸送するためなのだからエルフはダンジョントンネルと新街道どちらにも反対するわけだ。


 森を抜ける街道を使い人族の多い光陣営と細々と貿易もしているがダンジョンの方が利益は大きい。トンネルや海沿い街道があれば森と今の街道の奪還に本気出さないだろうという思い込みがエルフ達にはありトンネル反対!、海沿いの街道整備反対!で交渉は難航している。


 そのうち優姫ちゃんが空気読まずにトンネル開通させてしまいそうとの報告があり、レイナ女王がエルフ達を何とかしろ、オークに対処しろと現場にプレッシャーがかけられている。権力で押し通して内乱を起こされては意味がないのだが時間もない。


 そりゃ全ての対応はしないにしてもラスボスがヤバいダンジョン村の村長も秘密を誤魔化しながら若い娘の居るレストランで愚痴る。


「貴族様の考えることは難しくて分からないわね」


 野菜炒めに、野菜と肉たっぷりのスープ、柔らかいパンと値段に対して良い定食が出てくる。味も優しくて美味しい。


「そうですね。街道の整備と森のオーク駆除両方してくれたら解決なんですけどね」


「どうしてそうしないのかしら?金の問題じゃないのでしょ?」


「ダンジョンマスターがエルフらしのでそれが問題なのでは?エルフ達の街道反対無視できないけども、オークを全て出来るほど冒険者は確保は時間がかかるのでまだ森のオーク駆除は出来ないらしいですよ」


 これも間違いである。エルフ達はダンジョンマスターと話しをしたいとレイナ女王に訴えているが、そこはオリハルコンメンタルの優姫ちゃん、もちろんトンネルの方がDP収入が増えるし、貴族とか話すだけで面倒だしトンネルを作っちゃた方が良くない?とシカトを決め込んでいる。


 実際にシバル王国の都合を粉砕し適当にトンネルを作ろうとした。


 ネイが何と止めなければ優姫ちゃんとの交渉の末に、トンネル位置をのシバル王国が決めるまで待って貰うことには成功したのだった。


 エルフ達が問題なのではなく無駄に急かしている優姫ちゃんが問題なのだった。


「へぇ、ダンジョンマスターはどんな奴なのかしら?」


「ダンジョンマスターに会ったことないですね。それでダンジョンの最奥にいるらしいですよ。後は女エルフくらいしか情報が無いですよ。冒険者でダンジョンマスターとラスボスに詳しい人って自慢してた人がいますよ。今は住み着いて村人として家買ってるので最近は会ってないで、紹介は出来ないですけどね」


 ネイ元女王陛下もダンジョンの最奥にいたら暗殺とかどうこうよりもそもそもどうにも出来ないぽいわ。


 私は戦闘系の暗殺者じゃなくてハニートラップ系の暗殺者だしさ。


「いろいろ詳しくありがとう。食事も美味しいし、しばらく泊まるわ。お釣りは要らないから取っておいてね」


 食事代と宿賃に気持ちと情報料として多めにチップを渡す。


「毎度ありがとうございます」


 こうしてダンジョン攻略拠点に寝床を確保したのだった。

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