040話 間話 天才の策略
ネイ女王の行動を察知することは出来なかった。
演説の内容も別のありきたりなものが用意されていたし、まさか自分の地位と命を賭けて一発勝負の演説で、国民を扇動し一気に形勢逆転なんて可能とは思わないだろう
一発勝負に負ければネイだけが酷い拷問と人としても女性としても尊厳を奪われてまともな死に方さえできないのだから普通しない。というか成功するヴィジョンがほぼ見えないありえない可能性だろう。
それでもネイが行動して成功したのだから四公爵の泣き言である。
王都では勝ち目がないと四公爵は自らの領地に一目散に逃げたことで脱出に成功した。
雇い主をネイ女王として、冒険者は四公爵家を罰するまでの護衛、協力という内容で募集した。その集まった戦力で四公爵を攻めなければならない。
近衛騎士団長は1人の金額を決めて集まった金額に応じて雇う人数が増えるようにしたのだ。もちろん冒険者ランクに応じて一人当たりの取り分は増えるし、金が尽きるまでは延長料金も支払われる。このあたりの契約は冒険者ギルドの受付嬢も協力した。
そこに王都の民の資金が大量に流れ込んだのだ。勝ち戦はネイ女王側となれば冒険者はよほど高くても勝ち目ない四公爵側には着かない。誰も負け戦で死にたくなどない。
シバル王国に滞在している最強のランクパーティーが一番に参加したのだから雪崩れのごとく受注されたのだ。Aランクは単独で戦術兵器ような実力で数名のパーティーとなれば、死ぬ可能性があがる上に寡兵では殺される。
戦力差が圧倒的なら戦いが起こらない可能性もある、しかも受注して生き残れば報酬は出る。
冒険者にはうまうまな仕事である。
そして、冒険者以上に気を使いネイ女王陛下は民に演説を行っている。もちろん守りの条件で雇った冒険者を攻めさせるための演説でもある。
「皆さんのおかげで、シバル王国の未来を明るく出来そうです。こんな兄を見殺しにした私についてきてありがとうございます」
「「「「「「オオー!!」」」」」」
「しかし四公爵家は罪を問われることから逃げました。彼の裁判は本来必要ですが逃げたということは認め反論はないもと見なしここでシバル王国、女王ネイ シバルの名の元に判決を下します」
「「「「「「オバカ陛下の死を無駄にするな!!悪には罰を!!」」」」」」
民はネイの味方についている。
「当主は極刑、公爵家は爵位を剥奪し男爵とします。また領地の大半を没収し王家の直轄地とします。公爵家の罰を執行が終われば、私は退位し公爵達も罪人とはいえ王家の親族であり、手にかけた私も極刑とします」
「「「「「「ネイ女王陛下に栄光を!」」」」」」
これは罪人としてネイ女王陛下を扱いシバル王国の歴史に身内殺しとして残すなという民の声である。
栄光のシバル王国の王家一員として認めると事情を知りながら言っているのだ。事実は暗殺も事前に知って放置した。だが演説では、病と思い即位する時に暗殺を知ったために黙っていたと変えている。この筋書きの方が良いとネイ女王は判断したのだ。
「「「「「「ネイ女王陛下に栄光を!」」」」」」
何十回と叫び声が枯れるほど繰り返される間ネイ女王は黙って聞き、静かになるとまた声を張り上げる。
こうして同情と共に国民自身に罰を消させ、屁理屈でいちゃもんを付けられなくし、だまされた女王ではなく、覚悟を持って自らを罰せられる王のあり方を示したのだ。いかに強権的な王といえど恐怖政治でもしなければ国民を完全に無視は出来ない。外交は別に対応すれば良い。
「分かりました。私の極刑を辞めましょう。優れた王女である妹のレイナに王位を譲り、私は王位継承権を放棄します。私がシバル王国に尽くすことを私の償いとします」
こうして国民をまとめあげ、武力で抵抗した公爵家を数ヶ月で全て滅ぼし、貴族達に王家の力を見せつけ、いろいろと整理してネイは退位したのである。
妹のレイナには貴族から善意として(ネイ女王と次のレイナ女王に逆らいませんという賄賂であったが)王家に多額の資金が集まり国庫は数年分の税収分もの余裕があり、民の忠誠心は最高で、権力は完成された中央集権と貴族の弱体化済み、他国との問題も粗方解決という状態で即位したのだ。
ほぼ全て冒険者は数ヶ月ネイ女王に雇われ、内戦をしていたので優姫のダンジョンに人が来るわけないのである。
冒険者ギルドも内戦への対応に追われてダンジョンは後回しになっていた。オバカ即位からの騒動が一年で終結したのだからネイの優秀さが分かろうという物だ。
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さすがに内乱と兄殺しの見逃しの引責で退位した女王がそのまま政権内に居るわけにいかず、しかし幽閉は民が納得しない。王侯貴族の理論と盛り上がった民意の折衷案でレイナの政権が安定するまで一時国外追放になったのだ。
妹のレイナ女王とネイ元女王が二人のみで最後の話しをしている。
「なぜ姉上は王位を手放したのですか?あれだけの演説をしたのです。兄を殺してませんし問題ないですし、他国の追求なんていくらでも躱せるでしょう?」
「ふふふっ、伴侶くらい自分の好きな人を選びたいでしょうー♪権力に溺れないー♪いい男を捕まえたら帰って来て優雅な余生って良いでしょうー♪」
「なんですか!?そんな理由で私はどこぞの貴族から夫を選ぶというか、家柄とか考えたらあのデブしかいませんのよ!!」
「知ってますよー♪貴族はお爺様の意思と計画を継いでをほぼ私が掃除してー♪辺境伯爵の長男しか釣り合う夫が残ってませんからねー♪性格は良いですがあんなデブと子作りとかお断りですー♪」
「私が男なら国外から姫を引っ張って来れるものを!!女王では基本男系に王位継承権があるシバル王国だと国内しか選べないのに!まさか分かってて王位継承直前に暗殺を知っていたなんて嘘をついたのですか?」
「暗殺は殺される前から知ってましたー♪先の先まで予測して最善手を打つに決まってるでしょー♪あの演説だって想定どおりですー♪誰がデブと子作りを好き好んでするものですか(笑)ー♪」
「近衛騎士団を全て私に派遣したのも万全で私にあのデブを押し付けるためか!?」
レイナがキレる一歩手前である。
「あれは民に金を出ささせるためが大半ですよー♪近衛騎士団長が言い出さなければ私が冒険者を雇ってねー♪と民に願っただけですよー♪結果として好感度が高くて助けてもらえますしねー♪近衛騎士団のレイナへの忠誠心もカンストですー♪元より全てはシナリオ通りー♪レイナはまだまだ甘いですー♪」
ネイはレイナをからかう。
「ネイ姉上には勝てませね。ところで事態は予測の範囲内で悪い方でしょう?」
レイナが諦めて少しでも勉強する事にしたようだ。
「今回は良い方の想定でしたねー♪一番ヤバい想定は私達を国外に嫁に出してオバカから公爵の誰かが譲位されるシナリオですねー♪手出しが難しくなりますからねー♪お爺様ともこれがヤバいといろいろ手を考えましたー♪」
「それでも王位を奪還しそうな姉上は恐ろしいです」
「ふふふっ、もちろん想定して対策は練ってましたよー♪もう少し公爵達の頭良ければオバカの軟禁くらいはしたでしょうー♪そうなると反乱を起こしてオバカを助けたのにオバカが公爵に殺されてるというシナリオが最有力でしたよー♪」
「どうやって公爵にオバカを殺させるのです?」
「サクッと私の部下が暗殺ですー♪」
「ネイ姉上は本当にえげつない、最悪のシナリオはどうする予定でした?もう少し細くお願いします」
「お爺様の密偵は優秀ですからー♪民に噂とかを流し誘導して内乱中に公爵も含めて国内の王位継承者を皆殺しにますー♪内乱でなら暗殺しても私達には国外というアリバイがありますからねー♪」
「後は祖国の危機なので離婚して女王に君臨ですー♪内乱に介入されるまでに暗殺完了して離婚も完了というなかなか厳しい条件ですよー♪王家も減るので子供はたくさんいるし人生ハードモード(笑)ー♪」
「その時の女王は誰です?」
「私の相手が良ければレイナで、悪ければ私ですよー♪」
「・・・もしあのままオバカが暗殺されないで王だとどうしました?」
「全く今回と同じシナリオですよー♪暗殺を私のタイミングでするだけですー♪お爺様ともそれで決まってましたー♪」
「よく分かりました。姉上には国外追放のときは償いですから、部下も資金も持たせられませんね」
「血を分けたかわいい姉になんて非道な行為をするのですかー♪?レイナは商売と政治の才能があるからいい国を作りますよー♪」
「泣く泣く姉上を罰するのです。それに非道なのは姉上でしょ?姉上だけいい男を捕まえるうえに、オバカを殺す気満々だったのですから諦めてください。私を褒めても無駄ですよ。権力闘争では姉上が最強でしょう?」
レイナは何とできるでしょと姉を煽る。
「あら、あなたも逆ハーレムでしょー♪」
「囲う男いませんよね?」
女王の子供は王位継承権を持つので国外から婿をとれば他国からの乗っ取りがあり得る。対策を考えると国内の有力貴族となり、大半は没落したのだから選択肢は少ない。子不足は王位継承者が、いなくなるという国家の大問題だ。それでも子供の父親が誰であれ王位継承権があると言い切れる身分が必要なのだ。DNA検査なんてないのだから相手の男を絞るしかない。
「そうね・・・無一文で国外追放が妥当ー♪?」
こうして元女王ネイは妹に白旗をあげてみせるも、予想外に実行されてダンジョンの前で生き倒れてスライムという肥料を食すのである。
この事件で国民は冒険者を雇う金の分損をし、貴族達は命まで多くが奪われ没落もしたが、最大の被害者はレイナの結婚相手である辺境伯爵の長男の尊厳かも知れない。
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