039話 間話 今度は斜め右上

 四公爵達は現状を完璧だとおもっている。それは、騎士団は将軍が押さており、近衛騎士団の兵のみで公爵家と騎士団すべて潰せば国家戦力がほぼ消滅するため武力では難しい。その状態は他国に蹂躪してくれと言ってるのと同じだ。ネイ女王がとれる手段ではない。

 

 大半の戦力が冒険者とはいえ、騎士団がある国とない国どちらの味方になるか、勝ち戦はどちらかくらい冒険者も考える。

 

 国王の身辺警護の近衛騎士団長はネイの味方になるか不透明で土壇場までどちらにつくかわからない。ネイから見れば近衛騎士団長すら味方か怪しいのだ。そうなるように揺さぶったのはネイ自身である。

 

 金で締め上げるのも財務大臣が敵だから不可能だ。無理をすれば可能だろうが事前にチェックしている以上致命傷はない。

 

 内政で法律を作るにも宰相も味方である。誤魔化せる範囲ならダメージなんて無視出来るだろう。

 

 他国とは外務大臣の方がパイプが太いだろうし足元を見られるので他国に味方になって貰うには代償が高すぎるだろう。内政干渉なんてされる方が悪いのだ。ネイ女王が理解していないなどありえない。

 

 もし、ネイ陛下のおかしな動きを察知すれば暗殺すると、再度言えば脅しに屈するだろう。

 

 公爵達はそう判断し金のなる木である新しいダンジョンの情報に興味が移っていた。

 

 

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 その頃ネイは公爵達への反撃実行しようとしていた。

 

 その日は王都の民にネイ女王が就任パレードを行うのである。公爵達は王城に騎士団といるが問題はない。どこにいても関係ないが王城なら上出来だろう。

 

 近衛騎士団とネイ女王によるパレードが終わり、ネイの演説となる。

 

 ざわざわとしているなかネイは声を張り上げる。

 

「シバル王国の14代王に即位したネイ・シバルです。私が王としてやるべき仕事はたった1つしかありません!!」

 

 新たな女王の言葉はカリスマ性を持って群衆が静かにききいるのだった。

 

「それはシバル王国の発展でもなければ戦争でもありません」

 

 群衆はお互いに顔を見合せる。ネイ女王はざわつく直前の前絶妙なタイミングを見極める。

 

「私が命をかけて行わなければならないこと、それは償いです!!先王のオバカの命を奪ったという罪を償わなければなりません!!」

 

 ざわつくが数分でネイ女王の手での静まれという動作に言葉の続きを聞こう聴衆は静まる。たったこれだけでネイ女王は民の心を釘付けにしている。これこそ本物のカリスマであろう。

 

「四公爵家はオバカ前国王陛下の施政能力がシバル王国に悪影響だと暗殺を実行しました!!彼らの私に民を、未来、国家を、託すとの思いに私は感化され、見逃しました!!実の兄の死を偽り即位式典を行った事を、私は間違っていたと、後悔しています。私は兄の死を咎めず王位に目が眩んだのです」

 

 民達の戸惑いが少しずつ方向性をもち始める。

 

「そんな王はシバル王国に、民にとってもふさわしくないのです。私は罪を償い自らを死刑とします」

 

 聴衆達は一気に泡が弾けたように思い叫ぶがネイの堂々とした姿と代表して意見を言おうとする近衛騎士団長の迫力に静まる。

 

「ネイ陛下の罪ではありません。手を下した公爵達が償えばよいのです。それにオバカ陛下が亡くなってから知ったのでありませんか!!」

 

「私の仕事は死ぬことではありません。償いです。償いは親族を手にかける四公爵家に罪を問い必要な罰を与え、この国を元の思いやりのある王家と貴族達に戻すことなのです。そこに兄を見殺しにした私は王位に居ることも、貴族としても生きていてはいけないのです。私は命を賭けてこの国を元の姿に戻すのです。そして自らの罪を裁く結果の極刑なのです!!」

 

「我が近衛騎士団はネイ陛下に絶対の忠誠を誓い先王オバカ陛下の死を無駄にいたしません。公爵の討伐をご命令ください」

 

 王家の剣であり盾であり、王に忠誠を誓う近衛兵は護衛すべき先王を守れなかったという思いとネイ女王の覚悟にその力を振るおうと宣言する。

 

「ならば私の最初で最後の命令です」

 

 群衆は物音すらたてず静かに聞き入る。大きな声ではないがネイの言葉は不思議と群衆にも聞き取れる。

 

「近衛騎士団の全力全兵力で次期女王レイナを四公爵家から守り抜きなさい。兄を手にかける四公爵家は私もレイナも躊躇なく殺すでしょう。シバル王国の未来が殺されることは許しません。近衛騎士団はこのシバル王国の防衛の主力なのです。討伐戦で失えません」

 

 近衛騎士団の中には涙を流す者もいる。高潔な女王と共に居られないこと、近衛騎士団でありながら今使える王を守れないこと、前王も守れなかったこと、そして命令が正しく力不足を痛感しての悔しさと無力感そして忠誠心と相反することへの涙だ。涙を流さなくとも近衛騎士団の想いは同じだろう。どこまで身体を律したかの差でしかない。

 

「それでは公爵家と戦えません!将軍は騎士団を押えているのです。財務大臣は冒険者を雇うでしょう。我々が戦うしかありません!」

 

 近衛騎士団長が玉砕を覚悟して進言する。間違いは分かっている。それでも近衛騎士団が参加しなければ勝ち目はないと思っている。

 

「私は戦争をするのではありません。彼らに罪を問い裁き罰するだけです。兄を見殺しにした私よりレイナを守りなさい」

 

「分かりました。責めても私個人の資金でネイ女王陛下の護衛として冒険者を雇うことをお許し下さい」

 

 近衛騎士団長は、自ら必死になって考え出来ることをやろうとする。プライドより実利を選べる頭の柔らかい人物である。だからこそ近衛騎士団長なのだ。

 

「個人の資金の使い道は自由です。護衛の手配に感謝します。生活に困るほど資金を出さないで下さい」

 

「我々もネイ女王陛下のために冒険者手配を手伝いします!!」

 

 近衛騎士団も意思を固める。

 

 聴衆達は1つの意思で行動を始める。自分に出来るネイ女王陛下への協力すなわちより優秀でより多くの冒険者を雇い護衛とするべく資金提供を僅かでも行ったのだ。

 

 そしてこの話しを伝えてネイ女王陛下のために、戦力に民もなるべく武具をもってネイ女王の元に集まる。

 

 王都の民が金を出し合えば国中の冒険者を雇い国外から集められるほどの金額となる。その和は国内に広がり稼ぎ時と冒険者が集まるだろう。

 

 こうしてネイは命をかけることで、演説のみで冒険者全てと士気の高い民兵という大戦力を手にいれたのだ。

 

 もちろん国民にもこの話は広がり悪の四公爵を滅ぼすべきと、公爵の味方までも減らし取り込むことに成功した。

 

 冒険者は闇陣営では、主要戦力で魔物狩りで実力を着けた傭兵という立場で騎士団は最低限の治安維持、警備、金にならない魔物の狩りという仕事だ。

 

 つまりほぼ全ての冒険者を味方にした時点で騎士団や領主の私兵ではネイ女王に勝ち目はないということである。

 

 たった一度の演説でネイ女王陛下は状況をひっくり返してしまったのだ。

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