030話 間話  キアリーの1日目

 キアリー side

 

「ユウキ様おはようございます。朝食の準備は出来ておりますのでもう少しお待ち下さい。」

 

「ありがとうございます。一緒にご飯食べよ!」

 

 子供ですが受け答えはしっかりしています。本来のメイドは食事のお世話をするのですが、メイドとして働くとは決まってないので食事を一緒に食べます。

 

 朝食の食材はほぼオーク肉とキラーフィッシュでしたので普通の味付けになったと思います。

 

 昨日のスープは生臭くもないのに、味がとてつもなく不味い状態を作るのは至難の技ではないでしょうか?スパイスに塩と他にも調味料らしき物がありまともよりも贅沢なほどの品揃えで、完成品は不味い。

 

 料理系のスキルがないのでしょうが酷すぎます。

 

「美味しい!スッゴく美味しい!最高!お願いずっとずっとお料理してくだい!美味しいよー!絶対に出ていかないでずっとお料理してください!!お願いします」

 

 ユウキ様は泣くほど喜んで食べ初めます。味覚が崩壊する不味い料理を食べてきたのなら最高の朝食でしょう。

 

 おかわりまでして満腹に食べる子供の姿は見た目が良いエルフということを除いてもとても可愛らしいです。

 

 わざわざ料理を作ったかいがあります。二度とあの味を食べたくないから作ったですが、ずっと作るのも悪くないかもしれません。

 

 カイ様も朝食を普通にたくさん食べているので一安心です。味覚がおかしくてあれが美味しくて、普通がまずいとかじゃ無かった様です。

 

「ごちそうさまでした」

 

「こちらこそお粗末様でした」

 

「お話は海くんから聞いたよね?返事はまだ先でいいよ、いくら魔物を支配出来て外には出せないとしても、ダンジョン側につくなんてすぐに決められないだろうしね」

 

「いえ、ここに就職させていただきます。給料をいただけて、安全な仕事場はなかなかありません。付与師が夢なので練習させていただければ十分です。」

 

 ダンジョン破壊をするのはよほど危険か国家間の戦争などに限られます。戦闘に参加しなければダンジョン内は安全でしょう。

 

 私達が歯が立たないほどの実力者のカイ様がいるなら現時点でもAランク相当の冒険者パーティーを必要とするでしょう。それほどの実力者は少ないのでカイ様の突破は難しいでしょう。

 

 仕事も料理だけでこの味で良いなら楽なものです。

 

「給料というかDPだけどね。付与師ってことはアイテムに精霊とか効果上昇とか出来るのかな?ダンジョンの宝物とかにしていいなら買い取るよ」

 

「私は障壁魔法を付与して装備に防御力や属性耐性の向上をするのです。ダンジョン産装備は付与されてる物は高性能も多いと聞きます。不要ではないですか?」

 

 セイレイ?何かの間違いでしょう。いくら大人びていても子供です。

 

「アイテムに付与するとDPが必要だから宝箱に入れる装備品の節約になるかなってね」

 

「ダンジョン産のレベルには及びませんがよろしいのでしょうか?」

 

 よほど腕が良くないと付与士よりダンジョン産の装備品の方が優秀です。もちろんレベルの低い付与装備がダンジョン産のこともありますが、外れ品です。

 

「付与されてないアイテムよりは付与がある方がいいでしょ。このダンジョン稼ぎが少なくて宝物の用意も出来ないくらいだからね」

 

「承知しました。練習した物で良ければお譲りします」


 スキルは使えば上がります。もちろん才能がなければ上がりませんがこればかりは使い続けるしかないのです。

 

「交渉成立ね!フロアマスターに任命しますが権限は譲渡DPによる、アイテム交換のみです。ダンジョンの稼ぎが増えたらDPの増額しますね。今は月に5,000DPです。ダンジョンメニューから使えるのでお願いします。食費とか光熱費とか家賃は取らないからね。ダンジョンメニューと唱えるとダンジョン内のみDP交換一覧表が見えるようにしますね。それでは承認して確認して下さい」

 

 目の前に承認という意思確認が表れ承認するとDP交換の一覧が目の前に現れます。魔物から装備品に食材まで大量にありますが手持ちのDPで交換出来るものは多くありません。


 ダンジョンの稼ぎが増えたらDPも増えるので私は自分の仕事をやりましょう。

 

 掃除や整理整頓、手入れなど雑用はしっかりカイ様がやっていたようで、キッチンが私の担当でカイ様が手空きなら掃除片付けもやって下さいます。

 

自室はそれぞれが管理することになり私も鍵こそありませんが個室をいただきました。個室なんて豪商か貴族以上でないと持てない贅沢品です。もちろんメイドなら狭い寝るだけの相部屋です。

 

 大きなスペースではありませんので料理に凝りすぎなければ、掃除をして、調理道具の細かい手入れを私1人で行っても時間が十分に余るほどです。


 ユウキ様が大変喜んだので、料理はできる限り丹精込めて作りましょう。

 

 カイ様は狩に行ったり掃除をしたりとなかなかのハードワークの合間にユウキ様をいじり倒していました。


 お二人は仲良さげですが、いじり倒すカイ様はガムイを奇行に走らせたので、敵に回すことに戦慄を覚えました。

 

 そして夜になりユウキ様は就寝されました。

 

 カイ様は魔法をするとのことで私もご一緒することにしました。私のMPが底をついたので休憩となりました。

 

「カイ様の就寝はいつ頃ですか?」

 

「俺は休息が必須だが眠る必要はないな」

 

「眠らない種族は聞いたことありませんが世の中広いのですね。カイ様はユウキ様と仲がとても良さそうですが、主従関係に見えませんでしたので、親子なのですか?」

 

「森でかわいい赤ちゃんがいたから拾ったら、魔物に襲われてたから助けんだ。親子ではないな」

 

「なるほど義理の親子ですか?」

 

 かわいいはちょっと嫉妬です。イケメンですがそれ以上に強く、守る力は最高の男の条件です。


 権力であれ魔術であれ腕力であれ方法は別として、魔物から守られ、安心した生活を送らさせて貰えるというのは最高の贅沢です。

 

 恋心とは違って羨ましい嫉妬です。

 

「俺は親がいないから親子かどうかはわからないな。優姫はまだまだ子供だけどな」

 

 微妙で困りますね。親子ともとれるし恋仲にもなれるとも考えられそうですね。魔物に親を殺された孤児なんて多いので、産みの親が分からないなんてよくあることです。


 私の立ち回りをどうするか、思ったより面倒かもしれませんね。恋仲なら邪魔せず嫉妬されないように空気になる必要がありますが親子なら母親的な役割も必要でしょう。


 ですが初日から探りすぎも悪手ですね。

 

「それは・・・悪いことを聞きました。申し訳ありません。」

 

「?辛いとか嫌とか俺は感じないからなそんな事はどうでもいい、楽しいかどうかだけだな」

 

 メイドをしていて身分が高くて快楽的な人の話を聞きましたが自制心というものがなく、目先のことばかりの人達とは違うと思うので聞いてみます。

 

「楽しいかですか?目先の楽しさばかり追いかける人とは違うとお見受けしますが?」

 

「今の楽しさのために後の楽しさを失うなら長く楽しめるようにはするさ」

 

「素晴らしいです。私はカイ様にとって良い人でしょうか?」

 

 自制心があるのならある程度はトラブルも回避しやすそうです。こういうタイプの人に私が気に入られるとより安心でしょう。楽しくないからなんて理由で酷いイジられ方をされたら堪りません。

 

 カイ様が初めて私を興味ある視線で上から下まで見ます。


「悪くはないな」

 

 なんでしょう。女性としてはプロポーションも自信がありますし、彼の目線的に悪くないというのは気に入らない・・・ちょっとムッとします。

 

「悪くないということは、私は魅力がないのでしょうか?」

 

「今を楽しめよ。相手が楽しい方が俺も楽しいからな。優姫やキアリーで出来ない遊びどうでもいい奴で遊べばいいし」

 

 ガムイはカイ様のおもちゃにされてパンツ一丁で公開プロポーズらしいですね。あれは怪我して無ければ爆笑でしょう。


 なるほど元メイドの私も一緒に遊ぶというか楽しむという発想はありませんでした。

 

 冒険者仲間は、スキルが上がるまでの繋ぎと良い男探しの手段でしたから楽しむというよりは仕事の付き合いでした。

 

「フフフッ、確かに遊びは人数が多い方が楽しいです。私もカイ様と遊んで貰えるようにしないとですね。まずはカイ様にも美味しい食事を作って笑顔にしてみせます。」

 

 ガムイを今、思い出すと笑えます。


 自分の仕事を楽しむために目標を持ってあらゆる料理を作りましょう。ユウキ様が泣くほど喜んで私も嬉しかったですし、楽しかったです。

 

「それは楽しみにしてるぞ」


 カイ様がさわさわと頭を撫でくれます。いきなりでドキッとしますが心地よいのでされるがままにします。


 耳まで真っ赤なので黙りますが明日からはカイ様とユウキ様と楽しい1日となるようにより仲良くなりましょう。

 

 ガムイのような犠牲者を爆笑しながら見れるのは最高の職場、楽しんで仕事をして過ごせそうです。

 

 こうして私のダンジョンのメイドとしての1日目は終わったのでした。

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