006話 勇者がダンジョンで・・・

 召喚されて2年で初めて魔王を倒した。思ったよりも弱かったオークの魔王から占領された森を解放したら、近くの海辺、闇陣営の領域にダンジョンが出来ていると情報を得た。


 闇陣営からはアクセス出来たが、光陣営側からはオークの魔王領域が邪魔で行くことが出来なかったのである。それで情報は多くない。


 ダンジョンは素材だけでなく宝物や装備があることがある。凄まじく優秀な装備もあるので、それだけで魔王討伐のための戦力向上になる。


 さらにダンジョンは貴重な資源が定期的に獲れるのでダンジョンは国家の財源にもなるのだ。ただしダンジョンはモンスターの巣窟なので大軍が溢れだす危険もある。


 安全に管理するには敵対している闇陣営の国家の領土にあるので奪う必要がある。そのためには戦争しかない。


 もしくはダンジョンを攻略して最奥のダンジョンコアを破壊して機能停止させる。


 奪えないし管理出来なくて危険なら無くしてしまえということである。それは建前で本音は闇陣営の国家に光陣営側に寝返りを打診して断るなら破壊する。要は改宗を迫るわけだ。


 当たり前のことながら寝返りは断られた。そのためダンジョンを攻略して装備の回収とコア破壊して闇陣営を弱体化する。


 そして光陣営の支配地となった森にダンジョンの魔物が溢れないようにする。それが俺達の攻略理由で準備は雑用係ウサミミのラヴィが整えてくれた。


 すっかり光陣営の一員だが本当に太陽神オーには感謝しているので後悔はない。


 魔王戦の疲れを癒してダンジョンアタックをするのだった。



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 ダンジョン内でもスティーの探知は宝物を的確に見つけて魔物は確実に先手がとれる。宝物は上層だけだったけど。


 ロリィが雑魚は瞬殺し、ラヴィが俺の収納魔法の回収を手伝い的確に最短ルートで進んで行く。


 予想外にダンジョンは深く50階層まで来ていた。


「オーソドックスな洞窟型ですがトラップなしで、魔物だけというのは不思議ですね」


「休憩場所も細かくあるわよ。魔物の襲撃がほとんどないからだけどね」


「収納魔法がなければ長すぎて食料がつきそうじゃ」


 最短経路でもすでに半月を超えているのだからあり得ない深さだろう。そしてスティーのダンジョン探知スキルでも最奥のラスボス部屋は見付かっていない。


「新しい20年以下のダンジョンなのは確かですから残り僅かのはずです」


「そうじゃの、ダンジョンは年月ともに深くなり魔物が強くなって難易度を上げていくからの」


「魔物はそこまで強くないから深さだけのダンジョンのようね」


 この時は油断しているつもりはなかった。魔物はゴブリンが多く少し進化した個体が多いがそれだけだ。食糧にはならないが、安いが魔石はそれなりに回収できて順調だ。しかしこのダンジョンの本気はここからだったのだ。


 ダンジョンの恐ろしさに気がつかないまま次の階層へ階段を下りて行くと、すぐに直角の曲がり角がありその先は、かなり細長く二人で並んで歩くのがギリギリ程度の通路になっている。


 上の階層のような迷路ではなく一本道で魔物の気配もない。終わりが近いのだろうと15分ほど歩くと再び曲がり角がある。


「ただの通路ね」


 スティーが曲がる手前で確認してくれて安心して進む。俺の探知スキルも反応はない。


 ほぼ同じ構造の細長い通路なのだが奥の壁は何か置かれてている。


 こちらに円筒形の細長い筒つまり砲身を向けているそれが、現代で言うところの76ミリ速射砲とは思いもよらない。しかも異世界のダンジョンなので凶悪な改良が施されている。それがよく分からなくても日本出身とはいえ大砲でヤバい武器とは分かる。


 ズドドドドドドドドドーン!!!


 音速を軽く超越し、音を置き去りにした砲弾が連射で放たれる。


 発射前に知識でヤバいと判断しとっさに角の奥へ後ろの仲間ごと押して戻ることで、回避に成功するも砲弾は容赦なくダンジョンの壁を爆発して破壊し、壁と砲弾の破片さらに爆発の衝撃波が俺達にダメージを与えてくる。


 俺の横を前衛として歩いていた聖騎士ムツナは俺が押し戻せず、結果として片手盾で防御を選んだようだが、音速を上回る砲撃の前に粉々に消し飛び姿は無かった。


「回復します!」


 爆音で耳が聞こえないがそう言ったと思う。聖女シーナが回復魔法を唱えようとした時に、上の階層側の角から黒髪黒目の20代の髪の長い女が現れ、30ミリガトリング砲を2門設置して、銃撃するほうが早かった。


 ドゥルルルルルルルルルル!!!

 ドゥルルルルルルルルルル!!!

 ズドドドドドドドドドーン!!!


 挟み撃ち(クロスファイア)にさらされた俺達はあっさりと何があったのか理解する暇もなく即死全滅した。


 もしナナトがスキルを使いこなしていれば、思考停止せずにこの異世界を細やかに見ていれば、チートを過信せずダンジョンについて調べていれば、この結果は変えられただろう。少なくとも闇陣営ではこのダンジョンのヤバさは認識されていたのだから。


 環境が変わっても本質的には自分自身を成長させられなかった勇者には当然の結果だったがもう悔やむことも出来ない。


 世の中は厳しく、天才なんていくらでもいる。差が付くならそれはどれだけ、自己の向上に努めたか。


 他人の悪口やら貶める労力を自分の反省に使い改善出来たか、数日、一年ではほぼ差がなくても、何十年と積み重ねると人間性や技術に差が現れるものだ。彼にはそれが無かったことが敗因だろう。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 少し時は戻りダンジョン最深部97階層のコアルームにエルフの少女と理系細マッチョのイケメンのが50階層の勇者と51階層の女達を見ている。他にも3人が近くで勇者を監視している。


「サイオン作戦準備は問題ないか?」


 男がコアルームの画面?ごしに問いかける。


『準備完了。でも兵器を使わなくても僕達だけで勝つよ』


 女は階段すぐ横の隠し部屋から答える。


「倒しきれなければ2人に任せるが絶対死ぬなよ」


『了解しました!!僕は死ぬ前に逃るよ』


『ひゃほー、あれがダンジョンの先制攻撃を耐えたら遊んで貰うぜ』


 もう一人サイオンの隣に居るロリ体型の女が口調とは別に残忍な表情で言う。


「その時は頼んだ、では作戦開始まで待機」


 男が最終確認を終わらせる。


「72ミリ速射砲の最終動作確認も問題ないよ」


 エルフ少女が確認する。彼女の見ている画面は大量の兵器情報が数値化された羅列である。彼女以外には意味不明な情報である。各情報の種類を判別する名前はあるがそれがあっても意味不明だろう。隣の男は分かるかもしれないが興味は無さそうだ。


「あの勇者を殺していいのか?」


 男がエルフの少女に問いかける。


「ダンジョンマスターなんだから平穏を破壊する侵入者は殺すよ。たとえ前世の同郷者で日本人でもね。海くんこそいいの?」


「敵は排除するさ。同郷とか気にしないな」


「エヘヘ、パパありがと。それじゃ女は突貫よー!パパとの愛の巣に侵入する奴は消し飛ばしたるわ!!」


 海くんともパパともサブマスターとも呼ばれた男はエルフの少女の頭をそっと撫でるのであった。


「紅茶をお持ちしました。勇者はかなり強いらしいですが大丈夫なのですか?」


 メイドが紅茶を全員に配りながら質問している。


「キアリーさんありがとう。ラスボスまではたどり着かせないよ。ここで消し飛ばすしね」


「オークの魔王を滅ぼしただけでー♪ミレーナよりは弱そうですー♪」


 清楚な美人で背中に翼がある女性だが口調はバカっぽさを感じさせる。


「確かにミレーナの能力は反則だけどさ、なんとか勝ったんだし勇者級程度なら瞬殺じゃない?」


 最後の女性はエルフで、目元にはクマがある。


「ターゲットが迎撃ポイントに到着!先制攻撃行くよ!チート勇者なんかに負けないよ!!女は突貫あるのみ!!ファイア!!」


 こうしてダンジョンマスターの攻撃命令でチート勇者は木端微塵にされたのだった。


 勇者パーティーの全滅が神々との戦争の始まりであり世界の成長の始まりで最強ダンジョンの証明の時であった。


 少なくとも人類のトップランカーでも絶対に攻略不能を証明した瞬間であった。


 これは最強ダンジョンを作り上げ、ことごとく魔王を滅ぼしついでに神に喧嘩を売り世界を救った気がする。ダンジョンマスターの物語である。


 ダンジョンマスターのエルフの少女、優姫の産まれた20年前に物語は遡る。

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