0章 プロローグ チート勇者VS最凶ダンジョン

001話 よくある転移と勇者認定

 三流大学に通う【頭琉ナナト】はオタクで、大学ではいつもマンガか小説をスマホで読んでいる。

 

 名字の発音が(ずる)ということで子供の頃からイジメられ、年齢が上がっても名前を自虐ネタにして笑いを取ることなど出来ない彼は友達もいない。もし自虐ネタを使いこなすことが出来ていたらイジられキャラとして最強のムードメーカーに君臨しただろう。

 

 彼の趣味は異世界転生や異世界転移でチート能力で活躍するもので、特にざまぁ系が好物な20歳大学2年生の太ましい運動が嫌いな男だ。

 

 なぜざまぁ系が好きなのか?それは自分が楽に成功者に成った気分を味わえるからだ。そして今の不遇な自分が周囲にやり返せた気分にも成れて努力なしに、全能感が得られる。それが彼の望む自身の姿なのだ。

 

 自らのコミュニケーション能力や学力の向上で、自らの評価を上げるわけでなく、肉体を鍛えることも無く、与えられたもしくは自分の行動による環境なのに心にあるのは不満ばかりで現状を認めない。

 

 そうして今の環境を変化させて評価を求める結果、努力しなくして合格出来るのは三流大学だった。

 

 自らの努力不足を認められない、そんな普通なちょっと向上心の薄いありふれた学生だ。

 

 一流大学に通うために、親に金がなかったから、出会った学校の先生が悪いから、クラスメートが虐めてきたから勉強が出来ない。

 

 幼なじみがいないから彼女が出来ない。三流大学にはまともな女の子がいないから彼女が出来ない。そんなふうに考えるているのだ。

 

 ある程度の努力をすればもっと良い大学に合格しただろうし、彼女が欲しければコミュニケーション能力を磨き、清潔感を上げ、さらに身体を鍛えれば完璧だろう。何せ最強のムードメーカーになれる素質があるのだから。

 

 そんな事も認められないという性格なのだ。バイトもなしに大学へ通える金が親にあるのだから幸せなのだが気が付くこともない。

 

 午前の講義(マンガを読む時間)が終わり、お昼休みに大学の食堂で昼食を食べながら、スマホでマンガの続きを読んでいる。行儀悪いが友達は誰もいないから周囲の目なんて気にしない。もちろんスマホ代金もマンガの代金も親持ちである。

 

 読んでいるマンガは高校生がクラスメートごと転移して、鑑定されたら無能と思われる、節約スキルでステータスも最弱以下で仲間として使えない。

 

 そう言われてクラスメートから追放された。主人公は最弱の節約スキルによって、必要経験値が節約されまくり、少ない経験値でレベルとステータスを爆上げした。強くなりクラスメートへの復讐に成功して、現地美少女と恋仲になり、クラスの美少女とも恋仲になり、ついに勇者認定されて読者歓喜のハーレム達成場面だ。後はラスボスをボコって世界に名を轟かせるだけだ。

 

 ところで勇者は勇ましい者、物事を恐れない者であって最強とかチートなら英雄と呼ぶ方がふさわしいと思わないだろうか?勇気だけではチートと呼べるほどに強くないし、最強でもない。困難に立ち向かい、乗り越え続けて結果を出して、自己の向上をし続ける。

 

 そのなかで人並みを超えた成功をして英雄になるものは、僅か一握りではないだろうか?それに勇気を出して命を賭けて戦う者達はみな勇者だ。

 

 しかし勇者と呼ばれる者は主人公のみで、主人公のために世界があるようにマンガや小説では描かれている。現実はそんなに甘くないが、それを知るには社会に出て切磋琢磨し、改善し続けて成長し、他社を押し退け、生き残る企業の厳しさを体験するしかないだろう。

 

 そんな勇者という言葉の意味も、現実の厳しさを教えてくれる人なんて頭流ナナトにはいなかった。

 

 もし少しでも現実の厳しさへの知識があれば、勇者が困難に立ち向かい勝ったとき英雄となれることを知っていれば、彼は運命を変えられたかもしれない。

 

 スマホに夢中で現実逃避している彼は、社会の厳しさに触れる前の状態なのに、今まさに足元がぼんやりと光ると多重の円と幾何学模様か文字のようなものがあるのに気が付いていない。

 

 こうして頭琉ナナトの異世界への転移がはじまったのだ。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 勇者候補頭琉ナナト side

 

 

 マンガを読んでいると不思議で耳で聞いていないのに聞こえるという声が聞こえてきた。

 

『貴方はその読み物の様に、魔法と剣の世界で勇者になりたいですか?』

 

「勇者?成れたら最高だね。是非とも異世界で勇者になりたいさ」

 

『同意を得られたので転移させます』

 

「えっ!?」

 

 俺の視界は真っ白な光で見えなくなるも眩しくない不思議な感覚になる。椅子に座っているはずが浮遊感に変わっていく。まるで重力が無くなったみたいだ。

 

 なにが起こっているのか初めての感覚に混乱していると浮遊感が治まってくる。

 

 暫くして浮遊感が完全に治まって冷たくはない床に着地?して真っ白で神秘的な空間に着いたようだ。

 

「なんだ?病気?」

 

 眩暈かと思い病気を疑い声に出しながら、自分の健康を疑う。

 

「違いますよ。異世界転移です。私は太陽神オーです。最高神である私が貴方を見込んで先ずは神界に召喚しました」

 

 声の方に視線を向けると、まさに神聖な雰囲気の真っ白な服を着た女性がいる。

 

「異世界転移キターーーーーー!!!俺がチート能力を貰えるのか!?」

 

 病気ではなく、不思議空間と太陽神オーと名乗る女性いる。さっき読んでいたマンガのオープニングのようだ。しかしクラスごとか一人かは違っている。

 

 クラスごとか一人でとかいろいろ違っているが一人で転移も多く読んでいて違和感は無い、一人での召喚なら読んできたマンガと全く同じかもしれない。とにかく異世界でする無双に期待に胸がいっぱいになる。

 

「貴方の魂がこの私の世界に向いているのです。魔王達から世界を救って欲しいのです」

 

「日本でいじめられて友達がいない、勉強も出来なかったが俺が魔法がない地球に向かなかったからか?」

 

「私から見れば貴方の魂は素晴らしく優秀です。ですから、貴方の世界の者達が見る目がないと思います。さっきも言った通りに世界最強の勇者として世界を救って欲しいのです」

 

 太陽神オーは俺が優秀と認めてくれた。今の世界つまり、地球、日本なら剣と魔法の世界に才能がある俺はこのまま卒業してしがないサラリーマンになる。

 

 異世界なら神が認めた能力を発揮して無双して感謝される自分に成れる。なら自身の能力を発揮出来るのは異世界しかないと思えた。

 

 実は太陽神オーの選定は彼の知識も現在の能力も人間性も考慮されていない。魂のみで選ばれていることなんて分かるはずがない。

 

「分かった。ここでする準備はあるのか?」

 

 必死に今まで読んだラノベ、マンガと見たアニメからどうすべきか思い出し準備について聞いてみた。チート能力を授けられたり装備を貰えるものや、チートスキルを選ぶも物もあれば、強制的に転移したら能力が高いものまである。

 

 最弱のままチートなしで努力により成り上がる作品や理不尽に耐えて耐えて、なんとか生き残るような作品は避けていたのでそんな事は考えにない。というか知識として、残っていない。

 

「ここでの準備は貴方が勇者であると知って貰うことだけです。勇者召喚が行われることは、聖女に神託をしてあるので、貴方が成長するまで守ってくれるでしょう」

 

 俺のために味方まで手配されているらしい。聖女が可愛いといいな、ババァはキツイから、ババァならまだロリッ娘がいいと思いながら話を聞いていく。

 

「勇者専用スキルとして双剣技と収納魔法が使えます。貴方は光、風、火の3種魔法適正が極めて高いでしょう。また戦闘スキルも使いこなせるでしょう」

 

「双剣技は強いのですか?収納魔法とは?近接や魔法職と比べて器用貧乏なのではないですか?」

 

 勇者が最初だけはそれほど強くないという可能性もあるのでそれによっては安全に行動しなくてはならない。クール系の主人公に多いパターンだ。またざまぁ系は見た目だけ弱いことは多い。

 

「勇者は人類の頂点の実力でその代名詞である双剣技は最強です。収納魔法はアイテムボックスで時間経過はありますが手で持てる重さで生き物以外なら何でも収納出来ます。勇者が荷物を運ぶ事で疲れたりしないための専用魔法です。ステータスは最初は低いですが貴方の頑張りで人類の頂点まで簡単に上がるはずです。戦闘スキルは他にもたくさん持つと思いますが、聖女に聞いてください」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

「それではこの世界を救って下さい」

 

 俺は勇者専用スキルのチートで無双してモテまくる未来にワクワクしながらまた目の前が真っ白なのに眩しくない不思議な視界と浮遊感が始まるのに身を任せた。

 

 太陽神オーは人間の若い間にステータスとスキルが上がるように調整もしたので、瞬く間に現地民を追い抜き、上限が圧倒的に高い勇者が最強に君臨するようにしていた。

 

 しかし人類最強のステータスを持つ勇者を瞬殺するほどのダンジョンがほぼ完成していて、彼の死が2年先に迫っていることに気が付いていなかった。

 

 これが【頭琉ナナト】の終わりの始まりであり神にすら影響する大戦争のきっかけに必要な最後のピースであった。

 

 太陽神オーは自らの行いに満足すると勇者が成果を出すのを見守ることにするのだった。

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