デキ婚
すでおに
デキ婚
結婚願望などなかった。
結婚に向いていない自覚があったし、子どもも好きではない。
結婚したのは妊娠したからだ。
付き合い始めたばかりで妊娠した。正確に言えば正式に付き合い始める前。体裁のために前から付き合っていたことにした、というのが正しい。
前の彼とは5年も付き合った。自営で運送会社をしていて、それなりの収入もあって顔も良かったから結婚相手としては申し分なかったのに、プロポーズを断ったのは結婚不適合者の自覚が大いにあったから。
その彼と別れてすぐにデキ婚。
前の彼は家族の仲が良くなかった。うちも仲が悪かったから温かい家庭に憧れていた。夫の家族は温かく私に接してくれた。というのはただの言い訳で、実際は妊娠したから結婚した。それ以上でも以下でもない。
ろくに付き合ってもいないのに避妊しない。のどに刺さった小骨に気づかないふりをして、結婚式と披露宴を済ませた。
最初はそれなりに期待していた部分もある。自分の子供は可愛いものだと思っていたし。思い込もうとしていただけか。それでも女の子だった一人目はまだ可愛かった。
「イクメンでしょ」と義母が己の息子に目を細めていたが何をいう。当たり前のように自分は仕事を続け、こっちが休職。相談せずに復職を決めたら文句を言われた。なぜ了解を得る必要があるのか。有無を言わさぬ決断を迫ったのは誰なのか。
1歳になる前に二人目ができた。男の子だった。可愛く思えないのは、外見も中身も夫に似ているのもある。子ども好きではないのに、一度に二人の面倒を見なければならない。
責任感、計画性、想像力、全て欠落した男と、準備もままならないままの見切り発車の結婚生活など上手くいくはずがない。そんなことがわからなかったのか。なんの猶予も与えられなかった。
ひとり一人違うといっても同じ人間。ヒット映画が生まれたり、行列店に並んだり、共通点も多いからこそ消費社会が成り立つわけで、大学受験や就活は難しいと分かっているはずなのに、結婚生活はなぜか自分だけはうまくいくと思い込む。
セックスに快楽を植え付けたのと同様に、愛とは、神が与えた種の保存のための向精神作用なのかもしれない。やがて効き目が切れるもの。
のどに刺さった小骨の毒が全身を麻痺させていく。結婚生活に効く解毒剤は知らない。
デキ婚 すでおに @sudeoni
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
初詣いきますか?/すでおに
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
コンビニ多すぎませんか?/すでおに
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます