第15話 近づく影 ①
予選開始から二日で『幻想世界』は閉鎖になった。理由はあらゆる妨害に対して対策をするためだった。一週間の休止期間を経て、まず、セキュリティーの強化がされた。
そして初めてログインをしたときに新たな誓約書がウィンドウに表示された。誓約書の内容は大まかにこうだ。
——苦痛を伴う攻撃をするアバターが幻想世界内に存在することが確認された。白装束のアバターともし出会ってしまった場合、戦闘はせずに街へテレポートしてほしい……と。もし、攻撃を受けても運営側で責任は取れない——
といった旨を伝えるものだった。
誓約書に書いてある通り、街へテレポートできるようメニューウィンドウの外枠に新しく緊急テレポート用のボタンが追加された。
そのおかげか、一日の被害者数は激減した。だが、それでも休止期間含め、予選開始から二週間で約三万人がキルされている。つまり、もう一万人しかプレイヤーは残っていない。
俺と実乃莉は『幻想世界』の封鎖が解除されたその日に第一区画ボスを倒しに向かった。
戦闘中、最初の方は俺も参戦していたのだが、実乃莉が「独りで戦わせて」と言ったのを聞き、俺は後方で見守る形をとった。
すると、実乃莉は俺が特に手解きをした訳でもないのにキレのある強攻撃を次から次へと区画ボスに打ち込んだ。そして、呆気なく区画ボスを倒してしまった。
その光景を目の当たりにして俺は唖然とする他なかった。彼女の成長速度がまさかここまでとは思っていなかったのだ。実乃莉は俺の戦い方を近くで見て、それを吸収している。
立ち回り方が徐々に似てくる彼女を見てると、嬉しいようなこそばゆいような不思議な感情になる。
俺と一緒に攻略していることが功を奏したということなのだろうか……。対モンスター戦に関して言えば実乃莉は難なく予選を突破できる実力が既に身についていた。
実乃莉が急成長をする傍ら、淳は何をしていたのかというと、俺の代わりに情報収集にあたってくれた。街の中で多くの人に話しかけ、目撃情報を集めた。
それでわかったことは、白装束の連中は人通りの少ない通りにいるソロプレイヤー、あるいは低レベル帯のプレイヤーを主に襲うことだ。そして有力プレイヤーを避ける傾向にあること。
これが何の理由があっての行為なのかはわからないが、とりあえず、奴らを返り討ちにする実力が備わっていれば火の粉が飛んでくることはないのだ。
この時、有力プレイヤーのほとんどがそう思っていた。
***
『幻想世界』はどの街にも転移広場が設けてある。そこには転移盤という転移できる装置がいくつもはめられており、その装置に乗ることで他の区画の街にテレポートすることができる。
区画ボスを一度突破すると区画間の門は通れないようになるので、転移盤による移動が区画間を移動できる唯一の方法ということになる。
当然ながらテレポートできる街は区画ボスを突破し、入場を許された区画の街に限られる。
俺は、転移盤の上に乗り、目の前に現れたウィンドウに表示されている選択可能エリアから《弍ノ街》を選択した。ウィンドウが切り替わり、確認を促すメッセージが表示される。俺は『はい』を選択した。
すると、周りが白い光に包まれ、体がふわっと浮き上がる感覚がする。そう認識した時には周りの風景は別の街のものに切り替わっていた。足にずっしりとした重たさを感じ俺は反射的に踏ん張った。
毎年のことだが、転移するときに生じる無重力感に慣れるのにはある程度、時間が掛かる。
俺は
第二区画はフィールドのほとんどが森になっており、その端の方に洞窟のある岩山が区画両サイドに配置されている。
実乃莉と淳はログインして早々、《弐の街》の周辺へアイテムや経験値を集めに向かった。
その間、俺はレア武器を取りに行くことにしたのだが……。
俺は雑木林を歩きながら、考え事をしていた。
(予選開始から二週間以上経ったが、未だに第二区画の区画ボスを突破した人がいない。最近になって奴らは有力者にも接触するようになった。
そのことがたまたま功をそうし、実乃莉の指導に力を入れることができたが、なぜ俺たちの前に現れなくなったのだろう……)
襲撃者が俺の前に姿を現したのは、最初に接触してきた一度きり。何かを探っているのか……。周りの状況を考えるとこの平穏さがやけに不気味に思えてくる。
しばらく歩くと、赤褐色の岩壁が木々の隙間から目に映るようになった。マップの端にそびえる岩山だ。
歩を進めるにつれ岩壁の凹凸が明瞭に映し出されていく。麓までくると人一人通れそうなくらいの穴がぽっかりと口を開けていた。
中からはひんやりとした冷気を感じる。穴は光が届かない奥へと続いていた。
この穴の先には地下ダンジョンが広がり、リザードマンが住み着いている。その最深部にはレア武器の入ったボックスが設置されている。
俺はアイテム欄からランタンを具現化し手に持った。明かりを灯し、洞窟の中へ足を踏み入れる。
背中から誰かの気配を感じながら……。
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