野菜くずのスープ
母はミニマリストだ。昔から「家具を置きたくないから」と言って、15畳の居間にはテレビと座卓しか置かれていない。雑多になりがちな台所にもフライパンとやかん、それから最低限の調理器具しかなかった。おまけに家族にも、個室に余計なものを置くなとお達しが出るほどだ。まあ、みんなあまり聞いていなかったけれど。
だから友達の家に遊びに行くたび、「いろいろあっていいなぁ」と思った。けっして悪い意味じゃない。我が家の殺風景さを再認識させられて、少し気が重くなっていた。
さらにいうと、母は潔癖症だ。友達を家に呼ぼうものなら、帰ったあとに大掃除が始まってしまう。こたつの時期なら布団カバーなどを交換。それからその部屋はもちろん、すべての部屋に掃除機をかけていく。これは私は友達の家から帰ってきたあとも行われていた。
そんな母はいつもブツブツと愚痴をこぼしていて、子ども心に「だったら掃除なんてしなきゃいいのに」と思っていた。でもいつしか母に掃除をさせるのが辛くなって、なるべく友達を家に呼ばないようになっていた。
母は、家から出るゴミも少なくなるよう工夫していた。とくに食べものから出る生ゴミを。なかでもいちばんよく見ていたのは、野菜の皮を活用するということだった。大根や人参の皮は、細かく切ってスープに。ブロッコリーの茎もよく炒めて、きんぴらになって食卓にのぼる。
小さいころの私は「なんだかみみっちいな」と思っていたけれど、掃除みたいにブツブツ言われるのが嫌で、ぐっと飲み込んでいた。
私も大人になって一人暮らしを始め、気付いたことがある。それはものの少ない生活を維持するのはなかなか大変だし、料理をしていると山のように生ゴミが出てしまうということだ。
まあ、ものを減らすのはおいおいするとして、いまできるのは……。母のように、野菜くずを活用して生ゴミを減らすことだろう。
三角コーナーを覗いてみると、キャベツの芯や厚く剥いた大根の皮など、工夫次第ではまだ活用できそうなものが多い。
そんなときちょうど見ていたSNSで、知人が投稿していたものが目に入った。最初に「残菜ミネストローネ」と書かれたその文章には、「しなびたニンジン」や「ゲンナリしたキャベツ」という言葉。私が持て余しているものとは少し違うけれど、普通に使えない野菜を冷凍庫にストックし、ある程度溜まったら刻んでスープにするという。
そうか……まだ使える。私もさっそくやってみよう。
★材料★
野菜くず
ベーコン
にんにく
コンソメ
塩、コショウ
水
★手順★
1.冷凍庫から出した野菜くずを、食べやすい大きさに切る
2.油を引いた鍋で薄切りにしたにんにくを入れ、香りが立ってきたらベーコンも炒める
3.切った野菜くずを鍋に入れ、しんなりするまで炒める
4.ひたひたになるくらいの水とコンソメを入れ、コトコト煮込む
5.塩、コショウで味を整える
・このときはにんじん、きゃべつ、大根の皮、カブの皮、ブロッコリーの茎、ルタバガ(西洋カブ)の皮とヘタを使用
野菜くずのスープは、なんだか懐かしい味がした。寒い冬、母が作ってくれたような味で。ミニマリストは無理だけれど、生ゴミを減らす努力はしてみよう。
ちなみに母は、還暦を過ぎたらミニマリストも潔癖症もだいぶ落ち着いた。兄が犬を飼い始め、孫のように可愛がるようになったからだ。ベロベロ舐められても気にしないし、床に粗相をしても「あらあら」で片付ける。おまけに、犬のおもちゃをどっさりと買ったり……。人は変わるというけど、「もっと早くこうなってくれていたら」なんて思ってしまった。
#飯テロ 文月八千代 @yumeiro_candy
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