第7話

 金髪で雑草の様なツンツン頭の川島拳太かわしまけんた、前髪の左側が完全に隠れていて黒髪ショートヘアーの妖艶美女、支倉はせくら美夜美みやび、そして黒髪ツインテールで中学一年生ぐらいにしか見えない美少女(年齢は二一歳)の山本やまもと奈々美ななみの三人はとりあえず拳太けんたの家に帰って来た。


 「雅司まさしの予想通り、ただの親父狩り事件じゃなかったな。」


 拳太けんたが言った。


 「あのスーパーじいさん、名前も教えてくれなかったわね。」


 美夜美みやびが言った。


 「日本刀買ったつもりがバナナのぬいぐるみだったってのはウケたな。」


 奈々美ななみが言った。


 時刻は午前四時。残暑が厳しくまだ暑いのでエアコンが点いている拳太けんたの家で三人はくつろいでいた。


 「ねぇ拳太けんた、風呂借りていい?」


 美夜美みやび拳太けんたに質問した。


 「いいぞ、入って来い。」

 「サンキュー。」

 「後で奈々美ななみも入っていいぞ。」

 「うん、そうするよ。あとさ、今日の夜までここに居てもいい?」

 「ん?ああ、いいぞ別に。俺は暇だし。それに、お前さんも疲れたろ?時間が許す限りゆっくりしてけよ。」

 「うん、ありがとう。(やっぱり拳太けんたは優しいんだよね。)」


 美夜美みやび奈々美ななみ拳太けんたの順に風呂に入った後は三人で少々雑談をしていたのだが、


 「ねみーな、そろそろ寝るか。」


 と、拳太けんたが言うと、


 「今夜はどっちと寝る?」


 と、美夜美みやびが言った。


 「アホか。布団はあるからよ、お前らはこのリビングでも使ってくれよ。」

 「あんたはどこで寝るの?」

 「俺はいっつも屋根裏部屋で寝てるんだよ。天井は低いけど、エアコンもあるし電源もあるし、快適だぜ。」

 「何か秘密基地みたいだなぁ。」


 奈々美ななみがそう言うと、


 「んじゃ、お休み!」


 拳太けんたはそう言って、屋根裏部屋へと上がって行った。


 一方、コンビニ強盗とコンビニのアルバイト店員をやっつけた田中善蔵たなかぜんぞう片桐かたぎり弥宵やよいも自分達のアパートに帰っていた。


 「弥宵やよいさん、お疲れ様でした。」

 「おっつー!そうだ、ぜんちゃん、今日の夕方一緒に買い物行かない?」

 「んー、いいっすね、行きましょうか。」

 「ほんじゃ、午後三時に出発しよう。」

 「了解です、お休みなさい。」

 「うん、お休み。」


 二人はそれぞれの部屋に入って行った。

 本日の『うんぽこ』の活動は無事終了。いち日で二つの任務をこなすのはとても珍しい。何故なら毎日暴力事件に遭遇するわけではないからだ。そんなに頻繁に事件に遭遇していたらただの疫病神やくびょうがみになってしまう。


 午後二時、善蔵ぜんぞうが起床したころ、昨日さくじつ善蔵ぜんぞうの組み手の相手をしてくれた宮下みやした豪輝ごうきは自宅で格闘ゲームをしていた。プレイヤー同士のオンライン対戦である。


 ゲームに疲れてしばらく休憩していると、刑事で姉の宮下みやした小春こはるが帰って来た。

 小春こはるはもうマジ疲れたって感じで、

 「ただいまぁー.........。」

 

 と、言った。


 「お帰り姉ちゃん。随分と遅かったね。」


 豪輝ごうきは姉に対しては普通に話す事が出来るらしい。


 「もうくったくたよ。書類仕事サボってたら当然溜まっちゃってさあ、全部片付けて来た。なんかごはん無い?」

 「丁度今から中華丼でも作ろうと思ってたところだよ。」

 「おう!食べる食べるー!」

 「なら、風呂でも入って待っててよ。」

 「風呂は後だ!今はゴロゴロしたいの!」

 「じゃあゴロゴロして待ってて。」

 「おう、任せろ。」


 ゴロゴロゴロゴロ.........。


 小春は布団を敷いて本当にゴロゴロし出した。


 「あ、弟よ、そういえば善蔵ぜんぞうに会ったよ。」

 「なに!?どこで!?」

 「結構前に『うんぽこ』の話はしたよね?」

 「うんぽこ?なんだそれ?」

 「あれだよぉ、戦隊ヒーローみたいな、悪者を倒す格闘集団。」

 「ああ、覚えてるよ。彼らは凄い。決して見返りを求めずに他人の為に命懸けで戦うなんて、なかなか出来る事じゃない。けど何であんな間抜けな組織名そしきめいにしたんだろうな.........?」

 「その理由はようわからんけど、その格闘集団に、昨日善蔵ぜんぞうが加入したんだよ。」

 「!!本当に!?」

 「うん。まさか善蔵ぜんぞうに会えるとは思わなかったなぁ.........。」

 「(さすがだよ善蔵ぜんぞう君、今度は他人の為にそのこぶしを奮うって事か。)」

 「豪輝ごうきも『うんぽこ』入ったら?」

 「冗談じゃない。僕には仕事があるんだ。プロゲーマーは年中無休なんだよ。」

 「その割には空手の試合には出てるよね。」

 「当然だよ。空手は僕の.........そうか!僕もパトロールすればいいんだ!」

 「え?何言ってんの?」

 「『うんぽこ』って組織は別に警察の組織じゃないよね?」

 「.........一応、トップシークレットって事で警視総監とあたししか知らない。だから公式には警察の協力者ってわけじゃないよ。」

 「つまり、ただの一般人ってわけだ。なら僕も彼らと同じ様に悪い奴をやっつけるんだ。」

 「ちょ、待ってよ!駄目だよそんな危ない事!せめて『うんぽこ』に加入してその中の誰かと一緒にパトロールしてよ!」

 「悪いけど群れて闘うのはあまり好きじゃない。」

 大きめのフライパンに入っている中華丼の具をおたまで混ぜながら豪輝ごうきは言った。さらに、姉に言う。


 「姉ちゃん、中華丼の具が出来たよ。あとは適当にごはんにぶっかけて食べてくれ。」

 「あ、ありがとう.........。豪輝ごうきも食べるでしょ?」

 「いや、僕はいいや。外で食べるよ。やりたいことが見つかったから。」

 そう言って、豪輝ごうきは出掛ける準備をした。

 「駄目だよ!行っちゃだめ!今日はお姉ちゃんを甘やかしなさい!」

 「そうしてあげたいけどもう決めたんだ。僕も善蔵ぜんぞう君みたいに新しい世界を見たいんだ。」

 「.........無理はだめよ.........。」

 「必ず帰ってくるさ。」


 宮下みやした豪輝ごうき。彼もまた、新しい戦いに身を投じたのだった。




 賑やかな商店街であった。別にお祭りをやっているわけではない。毎日栄えているのだ。


 今時珍しく、その商店街はどの店も閉業していない。駅から近いし、この商店街の周辺は住宅街になっていてるし、更にはこの商店街以外に買い物出来る様な場所が無いのだ。そしてこの商店街に来れば何でも揃う。スーパーマーケットも食堂もあるし、携帯電話ショップや靴屋などもある。


 この商店街は車やバイクは通れない。歩行者専用のアーケードになっている。そして約百メートル程の一本いっぽん道だ。因みにこの商店街、屋根があるため雨の日でも傘を閉じて買い物を楽しめる。


 「いっ回来てみたかったんだよねー、この商店街。あんまり都会ってわけじゃないけどさ、なんか楽しそうじゃん?」


 弥宵やよいが言った。


 「..................こ、こんな所、あったんだ。」


 善蔵ぜんぞうは驚いていた。ここは横浜市南区にある『紅明寺ぐみょうじ駅』の近くの商店街。駐車場がコインパーキングぐらいしか無いため電車で来るのが一番なのだが、善蔵ぜんぞうはそもそも普段から電車に乗らないため、こういった車で来ると不便な所には来ない。だから知らなかったのだ。


 「ぜんちゃん、ごはん食べよう!ここの海鮮丼屋さん、地域じゃ美味しいって有名なんだって!」


 善蔵ぜんぞうの左腕にしがみつきながら善蔵ぜんぞうを引っ張って海鮮丼屋さんに連れていく弥宵やよい。楽しそうに笑ってるその姿は武術戦闘集団のおさとは思えないくらいあどけない。


 「いいっすね、行きまひょ行きまひょ。」


 善蔵ぜんぞうも楽しそうだ。何より腹が減っている。


 「へい!いらっしゃいませー!お客さんいい時間に来たねー。いま中途半端な時間だから空いてるよ。好きな所座って下さいな!」


 元気な板前さんが二人を歓迎してくれた。


 「この特上海鮮丼を二つ下さいな!」


 弥宵やよいが元気に言った。


 「はいよ!」

 「今日はとことん付き合ってもらうぜぜんちゃん。」

 「また明日っから仕事ですからね。羽伸ばしときましょう。」

 「ああ!もう考えたくねーなー、仕事の事はよぉ!」

 

 テーブルにして弥宵やよいが嫌そうに言った。


 「弥宵やよいさん、明日は現場ですか?」

 「いや、あたしは建物調査よ。」

 「じゃあ良いじゃないですか。」

 「良くないよ~!いち日で六棟だよ?多すぎだよ。しかも全部場所離れてるし。」

 「そうですか。俺は山口さんと社長連れて現場ですわ。」

 「あのさぁ、山口さんってなんか凄くない?あたし達とそんなに歳変わらないのにさぁ、あの仕事の処理能力だよ。」

 「確かに。あの人何やらせても上手くやるんですよねー。」

 「かと思えば堅物かたぶつってわけでもないじゃん?あの人の話めちゃくちゃ楽しいし。」

 「そうなんですよ。何なら俺達の仕事手伝ってくれますからね。」


 どうやら二人の職場には『山口さん』という先輩がいるらしい。性別は男性、歳は24歳だという。仕事は何でも出来て性格も良い理想の先輩だ。


 先輩についての雑談をしていると、


 「お待たせー!特上海鮮丼二つです!」


 海鮮丼が来た。


 「「すげー!!」」


 思わず二人同時に叫んだのだった。

 夕方四時の出来事である。



 その頃、川島かわしま拳太けんたはまだ自宅の屋根裏部屋で眠っていた。


 「んー.........」


 拳太けんたはなんだか寝苦しそうにうめいていた。


 「(なんだ?.........この重みは.........体が、重てーぞ....。疲れが溜まってんだなぁ....。)」


 そう思いながら目を開けると..................己の左半身にはTシャツ一枚着たちっちゃい女の子が抱きついていて、右半身には下着姿の美女が抱きついていた。二人とも心地良さそうに眠っている。


 「何やってんだ?お前ら。」


 二人は爆睡している。


 「.........ったく、しょうがねーか.........。そっとしとこ。」


 無理に起こさなかった。こういう優しい所が二人の女の子から気に入られる理由なのだろう。


 しかし、拳太けんたが屋根裏部屋の壁に吊り下げている時計を見ると、時刻は午後四時を回っていた。


 「おい!さすがに寝すぎだ!起きろアホども!!めし食うぞ!」

 「うにゃ?」

 「わにゃ?」


 美女二人の目が覚めた。だがまだ眠たそうに二人とも目をこすっている。


 Tシャツ一枚の美少女、山本やまもと奈々美ななみ

 下着姿の美女、支倉はせくら美夜美みやび


 「あ、やっぱり脱げてたわ。」


 美夜美みやびが呆れた様に言った。


 「あたしさあ、最近目が覚めると服が脱げてるのよ。」

 「何だよその特殊能力.........?」


 拳太けんたが言った。


 「おなかすいたー。ごはんー。」


 奈々美ななみ拳太けんたが着ているシャツの裾を引っ張りながら言った。


 「どっか食いに行くか。」


 拳太けんたが言った。

 三人は服を着替えて、あるいは服を来て街へと出掛けたのだった。



 

 ここは横浜市青葉区のとある駅の付近である。二四時間営業のスーパーやチェーンのファストフード店などが並ぶ通りだ。平日の夕方なら仕事帰りの人間でにぎわう街だが、日曜日の夕方は人通りが少ない。


 そして、あまり治安も良くない。メインの通りから少し離れた飲み屋街は暴力団の溜まり場になっており、一般人は近付こうとすら思わない。


 当然、そこに溜まっている暴力団の人間が急に一般人に手を出したりはしないのだが、暴力団員同士が顔を会わせれば暴行事件が起きる。


 その飲み屋街に、スキンヘッドの一般人男性が居た。スキンヘッドなのだが、その前頭部にはウケ狙いでった刺青いれずみがあり、横書きで『ロン毛』と書いてある。


 赤地のTシャツに膝下ぐらいまでの長さの緑茶色のズボンを履いたこの男の目の前には、右足が変な方向に曲がっているヤクザの男が気絶して仰向けに倒れていた。


 さらにその向こう側には、そのヤクザの仲間が三人程居るが、戦慄していた。


 一体何があったのか.........。

 三人の内の一人がスキンヘッドの男に向けて言う。


 「テ、テメェ、どこの組のもんだ?」

 「組ぃ?人を見掛けで判断すんじゃねーよ。俺様は一般人だぜ?っつうかテメェらこそ何だ?いきなりケンカふっかけて来やがって。」

 「か、堅気かたぎだったのか。てっきりどっかの鉄砲玉かと思っちまった。」

 「ムカつくねー。俺は見た目で判断されんのが大嫌いなんだよ。この辺は美味うまい料理出してくれる飲み屋があるって聞いて来たのによぉ、テメェらいきなりだぜ?」


 スキンヘッドの男の見た目はどう見ても一般人には見えなかった。刺青いれずみは前頭部だけだが、両腕両足に切り傷や火傷やけど、顔面にも左頬ひだりほおに大きな切り傷があった。更に、右目が無い。眼球が無いのだ。眼帯もしていないため、真っ暗な空洞になっている。


 「おい、テメェらヤクザっつったな?」


 スキンヘッドの男が言った。


 「だったら何だってんだよ.........?」


 ヤクザが言った。


 「じゃあ、いっか。」


 キンヘッドの男はそう言いながら、倒れているヤクザの上体を起こし、


 グリッ!!


 頭部を後ろから両手で掴み、思い切り右回しにねじった。更に、


 グキッ!!


 右回しにねじった後、その頭部を元の向きに戻してから右手で頭頂部、左手であごの先端を掴み、時計回りに一瞬でひねった。


 当然、そのヤクザの男は死んだ。


 「こいつ、何しやがる!!」


 仲間のヤクザが言った。


 「知ってるか?人って簡単に死ぬんだぜ?三人まとめてかかって来い。この俺にケンカ売ったんだ、皆殺しにしてやる。」



 続く。



 



 




 






 


 



 




 


 


 




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