第4話

 「(何でここに片桐かたぎりさんが?)」

 田中善蔵たなかぜんぞうは困惑していた。何故なら、このサークルの様な集まりのリーダーが同僚の片桐弥宵かたぎりやよいであったからだ。田中善蔵からしたら訳がわからない。

 「(なんで?こんな所で一体何してるんだ?)」

 善蔵はそう思っていた。暴力とは無縁の片桐弥宵が、暴力で他人を助ける人間達のおさだなんて善蔵には信じられなかった。

 上に伸びた雑草の様な金髪の男、川島拳太かわしまけんたがリーダーである片桐弥宵を紹介する。

 「よぉし、善蔵、こいつが我らがリーダーにして、最強の戦闘力、片桐弥宵だ。なんでこんな色っぽい格好してるかは知らねーが、可愛い顔してっからって甘く見んなよ。こいつは分かりやすく言うと、常識はずれだ。」

 善蔵はまだ困惑していた。

 「言ってる意味がわかりません。だって、片桐さんですよね?俺は昨日、この人と今日の朝までコーラ飲んでたんですよ!」

 拳太は驚いた。

 「お前、リーダーと知り合いかよ!」

 「同じ職場で毎日一緒に働いてますよ!もうかれこれ一年になります。」

 美夜美みやびが言う。

 「げ、マジで?」

 「弥宵っち、今まで善ちゃんに話してなかったの?」

 奈々美ななみが言った。対して弥宵が言った。

 「うん、言ってない。でも、いつか言わなきゃって思ってた。隠してるつもりは無かったんだけど........。でも、言ったら、善ちゃん絶対仲間に入るって言うと思って......怖くて....。」

 そしてショートヘアーの男、大宮雅司おおみやまさしが言った。

 「まあ、確かにわざわざ話す必要は無かったかもな。だが知られた以上はお前から話せ。」

 弥宵はコクリとうなづいて善蔵に言う。

 「善ちゃん、ちょっと外に出よ。二人で話したいの。」

 「は、はい。良いですけど。」

 善蔵はそう言って、弥生と外に出ていった。二人が出ていった後、ショートヘアーで大胆な格好の妖艶美女、支倉美夜美はせくらみやびが言った。

 「なんかさぁ、弥宵っち、乙女っぽくなかった?妙におしとやかって言うか、恥ずかしそうに脱いでる感じ。」

 「『脱ぐ』は関係無いだろ。」

 と、雅司に言われた。


 夜11時過ぎ、バーの周囲は人気ひとけが無く、とても静かになっていた。バーの目前の道路挟んで向かい側の公園に片桐弥宵と田中善蔵は居た。木製のベンチに隣り合って座っている。二人共緊張きんちょうしている。先に口を開いたのは善蔵だった。

 「驚きましたよ。片桐さんがいるなんて。」

 弥生は申し訳なさそうに言う。

 「ごめんね、善ちゃん。」

 「何で、謝るんですか?」

 「あたし、一年も隠してた。昨日だって、拳太が酔っ払いをやっつけてるところ見てたのに、善ちゃんの前では他人のふりしてたの。善ちゃんには、(拳太が)知り合いだと思われたくなくて.......。」

 「いつから、ですか?」

 「え?」

 「その、いつからこのサークルを始めたんですか?」

 「まだ、高校卒業してすぐの頃。」

 「どうして始めたんです?片桐さん、どう見てもか弱そうだし、正直言って、俺にとっては守ってあげたくなる人です。そんな人が、あの中で最強戦力?少なくとも拳太さんやサッチーみたいな猛者もさより強いなんて、他の三人の実力はわかりませんけど。その人達より強いって事ですよね?」

 「まあね。他の三人(雅司、奈々美、美夜美)も拳太と同じくらい強いよ、裟漸さぜんは別格。あの子はマジの沖縄の唐手からて家だから。でもまさか、それが善ちゃんの影響だとは思わなかったな。」

 「片桐さんは?一体、何の武術を身に付けたんですか?」

 「特に学んでないの。ただ、自分が想像した動きが再現できるだけ。」

 「それは、達人のいきですよ。」

 「でもね、あたしにもよくわからないの。三年前のある日、変な夢見たの。夢なのにはっきり憶えてる。」

 「夢?」

 注意点として、この小説は現代ファンタジーである。これより先は、ファンタジー要素がかなり強いのでご注意下さい。


 片桐弥宵は、彼女自身が見た夢の話をした。

 「その夢を見る前にね、映画のアラジンを見てたの。そんで、魔法のランプってあるじゃない?あれに憧れて、あたし、自宅にある急須きゅうすふたをこすってみた。」

 「ランプじゃねーのかよ!」

 「だって急須しか無かったんだもん。そんでね、ランプの精なんて出るわけないかとか思って、その夜寝たのよ。」

 「出るとしたら急須の精ですけどね。」

 「細かい事はいいじゃん。そんでね、眠ってたら変な夢がはじまったの。」

 この先は片桐弥宵の夢の世界の話。

 夢の中で、片桐弥宵は誰かに起こされた。

 「ちょーちょー、起きてよネーチャン、起きろって。」

 若い女性の声だった。声を掛けられた弥生はというと。

 「んにゃー、眠い、まだねるー......ンゴー、ンゴー.....」

 うるさいいびきをかいてまた寝てしまった。若い女性は困った。

 「は?何なの?こいつ。マジだるいんだけど。」

 若い女性は拡声器をポケットから取り出して叫んだ。

 「起きろっつってんだろー!コラああああああああああああ!屁ぇこくぞ!」

 すると、弥生は鼻提灯はなちょうちんを膨らませたまま立ち上がって若い女性に背中を向ける。若い女性は

 「?」

 次の瞬間、若い女性に背中を向けたまま弥生は飛び上がり、ジャンプした状態でケツを出して若い女性の顔面に屁をぶっこいた。

 ブビぃいいいいいいいい!!

 そして、ケツを突き出したままうつ伏せに布団に倒れ、再び寝た。

 若い女性が言う。

 「うぅぅっわ!くっせー!何だこのにおい、生ゴミみてーなにおいだ!最っ低!こいつ女を放棄してやがる!」

 ムカついた若い女性は突き出たケツを思いっきりひっぱたこうとした。その瞬間、

 ブリブリッ!ブー~ー~!ブボボ!

 また屁をくらってしまった。

 「ぅおおええええ!何だコレマジで!臭すぎ!牛小屋の臭いがヤバくなった感じ!何食ったらこんな激臭が出るの?っつうかこの綺麗なケツ難攻不落なんこうふらく過ぎだろ!でもなんとしても起きて貰わなきゃこまんのよこっちは!」

 ケツの防衛本能の前になす術無く敗れた若い女性は、弥生が起きるまで待つ事にした。



 14時間後、ようやく弥生が起床した。

 「んにゃ、お腹空いた。ごはん食べなきゃ。」

 「寝すぎだろお前!」

 いきなり若い女性に怒鳴られた。上半身は和風の甚兵衛じんべえを着ているのに、下半身はジーパンという、センスの無い格好の若い女性が椅子に座っていた。髪は長く、その女性が直立した状態だと太もも辺りまでの長さがある。色抜きしているのか、髪の色は金髪であった。弥生が叫んだ。

 「だ、誰だお前は!」

 「わざわざあたしの顔面の高さまでジャンプして屁ぇぶっこいたくせによく言うわ!」

 「名乗れ。そうすれば楽に死なせてやる。」

 「命は助けてよ!」

 「ふん、なら名乗れこの馬鹿女。あたしの家に何の用だ。」

 「あたしはぁ、アンタがこすった急須の精ちゃんでーす!」

 そう言いながら、若い女性は左目を閉じてウィンクしながら右目の横で右手で横ピースを決める。

 ................................................................................................‥‥‥‥............................................................。

 「それが貴様の最後の言葉か。」

 そう言いながら弥生がは椅子に座っている若い女性にぬーんとケツを向ける。

 「ちょちょちょちょちょちょちょちょ待って待って待って!」

 弥生はケツを向けて一歩一歩若い女性に近づきながら言う。

 「待たぬ。お前を殺す。屁で殺す。こき殺してくれるわぁ!!」

 「やーだー!やめて!『こき殺す』ってワード初耳なんですけど!やめて!あたしの話を聞いて!」

 弥生は若い女性を床に正座させ、彼女の顔面にケツを向けたまま取りえず話を聞く事にした。

 「あたしはぁ、マジであんたがこすった急須から出てきたの!あんたの願い事を叶えないと帰れないの!」

 「信用出来んな。よし、死ね。」

 「本当!本当に何でも叶えられるから!」

 ケツがあと3センチ程で鼻にくっつく距離まで来ている。若い女性は必死になって説得を試みる。

 「良かろう。ならば叶てみよ、あたしを不傷ふしょう不病ふびょう不老ふろう不死ふしの体にして最高最強の身体能力を授けるのだ。」

 弥生はそう願ってしまった。

 「はいよー。ほほいのほい!」

 謎の光が弥生を包んでからゆっくりと消えていった。

 急須の精が言う。

 「はい、おっけー。これであんたはどんなことされてもケガしないし病気にもならない、何があっても死なないし今の若さのまま。でも不傷、不病だから妊娠も出来ないからねー。あと身体能力マジヤバいからマジで屁で殺せるかもよ?なーんてね!」

 ブリブリ!バベビブベボバボ!!

 結局屁をこかれ、急須の精は言う。

 「命は助けてよって..............言ったじゃん。」

 急須の精は仰向けにぶっ倒れて消滅した。

 「ふははははははは!!助けてやるとは一言も言ってないのであるわぁー!」

 用済みになった急須の精をこき殺して高らかに笑う弥生は、願い事など微塵みじんも信じずにまた再び寝たのだった。


 ここまでが弥生の見た夢の話。そしてここからは現在、田中善蔵と片桐弥宵の公園での話に戻る。


 田中善蔵が言う。

 「それで、目が覚めたんですか。」

 「うん。」

 「結局、なんか屁がやべぇって事が大半だったんですけど。」

 「まぁ、屁は人に向けると傷害罪になるからねぇ。それなりの殺傷力があるって事だよね。」

 「屁はもういいですよ!それで、身体能力って、どんぐらい良くなったんですか?」

 「あたし、車にかれても全然平気になっちゃった。」

 「本当ですか?」

 「痛いんだけどね、でも痛いのはほんの一瞬。ケガもないし、ケガとか病気に対してなんにも怖くなくなったの。」

 「スゲー......。」

 「証明しよう、あたしの身体能力!」

 そう言いながら弥生は鉄製の滑り台に近づいた。そして、滑り台の階段のかどに思いっきり頭を打ちつけた。何度も何度も。ガンガン!ガンガン!

 善蔵が止めた。

 「やめて下さい!片桐さん、やめて下さい!」

 「見てよ善ちゃん、あたしのひたい、傷一つ無いでしょ?」

 無かった。あれだけ打ちつけたのにかすり傷一つ付いてない。だが、弥生は涙を流していた。傷一つできなくても痛覚はある。しかし弥宵が泣く理由は痛みではない。

 「あたし、本当に怪物になっちゃった...。子供も産めない体になっちゃったって。無敵の体を手に入れても、こんなの嬉しくないよ....。」

 どんな痛みもすぐに引いてしまう。どんなに寒くても風邪もひけない。何より、死ねない。歳を重ねようとも、大切な人と共に老いることも出来ない。そして、急須の精が言っていた、『負傷、不病故に妊娠出来ない』。これは意味がよくわからなかった。妊娠は病気やケガではない。もしかしたら、排卵がケガに該当してしまうのだろうか。又は、白血球が原因だろうか。白血球は体内のあらゆる病原菌を殺す働きをするが、不病ならば、その白血球が超優秀になりすぎるということも考えられる。どういう事かと言うと、女性ならわかるだろうが、白血球は外敵である精子も殺してしまうのだ。普通はこの『白血球が全ての精子を殺しきれないから』というのも妊娠という奇跡が起こる理由の一つである。しかし、妊娠できないならば、白血球が優秀過ぎて精子を皆殺しにするということが考えられる。不病、つまり病気にならないということを考えると、この白血球の存在が原因かも知れない。だとしたら、もうどうにもならない。

 「でもね、あたし思ったの。この能力があれば、誰かを助けられるんじゃないかなって。スーパーマンみたいにさ。」

 弥生は既に前を向いていたのだ。まるで呪われたかの様な体になっても、それは結局自分が望んだ事なのだ。願ってしまったのだ。弥生は思っていた。どうせなら、やれることやってみようと。

 「それで、仲間を集めたんですか。」

 「最初に声かけてくれたのは、意外にもあの美夜美なんだよ。」

 「意外って言われても、まだあの人がどんな人かわかんないっすけど。」

 「あ、そっか。あいつはねぇ、あたしが通り魔をやっつけてるところをたまたま目撃してさ。それで、あいつ自身はカポエイラとかいう武術を学んだらしいんだけど、せっかく学んだのに使い道が無かったらしくてさ。」

 「それで始まったんですか。」

 「そう。まあ、いいことばかりじゃないけどね。例えばこの前の拳太。女の子を助けたのに、ボロクソに文句いわれてたじゃん?」

 「確かに。あれは災難でしたね。」

 「はっはっは。でも良かった。やっと善ちゃんに話せたね。あたし、不安だったんだ。善ちゃんに嫌われるんじゃないかって。」

 「片桐さん。」

 「ん?」

 「俺決めました。俺にもこの活動、手伝わせて下さい!俺、片桐さんはやっぱり人間だと思います。怪物なんかじゃない。だって一緒にごはん食べたし、朝まで一緒にいてすげー楽しかった。俺片桐さんの事、守りたいって思ったんです。もっと強くなって、だれにも指一本触れさせねーぞって思ったんですよ。」

 「ありがとう、善ちゃん。あたしも全力で善ちゃんを守るよ!」

 「これからも宜しくお願いしますね。さん。」

 善蔵に初めて姓ではなく名前で呼ばれた弥宵は嬉しそうに返事をした。

 「ようこそ、『うんぽこ』へ。」

 「はぁ?」

 『うんぽこ』。これがこの集まりの名前と知った瞬間、善蔵はやっぱりやめよっかなとか思ったらしい。


 善蔵と弥宵がバーに戻ると、また善蔵が見た事ない人間が二人いて、バーカウンターに体を向けて立っていた。そのうちの一人が善蔵を見て言った。

 「見ない顔だね。いや、どっかで見た事あるかな?」

 そう言ったのは50代前半ぐらいの男性である。紺色こんいろのスーツを着ていた。髪型は白髪のオールバック。優しそうな顔をした男だった。

 そしてもう一人は女性。年齢は27歳ぐらいだろうか。身長は160cmくらい。少々つり上がった眉毛に鋭い目付きの美人女性。髪の毛は長めの黒髪で前髪が真ん中で分かれている。

黒のスーツをまとったその女はズボンのポケットに両手を突っ込んだまま横目で善蔵を見ている。そしてその女が白髪の男に言う。

 「総監、この男は有名人ですよ。フルコンタクト空手の世界大会で4位にまでのぼり詰めた正真正銘の実力者です。」

 すると、総監と呼ばれた男が思い出した様に言う。

 「そうだ、それだよ!いや私も見たんだよテレビで。その時はあまり時間が無くて、一回戦しか見てなかったが、君が優勝すると確信してたんだ。しかし、何故負けてしまったのだ?」

 隣にいる女が男に教える。

 「彼と準決勝でやり合った相手が目潰しの反則をしたんです。ですが目にダメージを負った彼は試合の続行を望んだ。だが圧倒的不利は変わらず、上段廻し蹴りがクリーンヒットして、一本負けをきっしてしまったんです。」

 「なんと、そうだったのか!じゃあもしも、その反則行為が無かったら君はどうなってたと思う?」

 「当然今目の前にいる彼が優勝したに決まってます。あたしから見ても、他の選手が彼の実力に及ばないのは明らかでしたから。」

 善蔵は笑いながら二人に話し掛ける。

 「あの時は、あれが俺の実力でしたから。もしもの話は意味が無いですよ。」

 すると、総監と呼ばれた男が隣の女に言う。

 「彼、マジかっこいいな。君、手合わせしてもらったらどうだね?」

 「いいんですか?あたし大好きですよ、そういうの。」

 善蔵から笑顔が消えた。

 「おもしれー、俺は誰が相手だろうと手加減しねーぞ。」

 「それは良かった。実はあたしもなのよ。」

 弥宵が止めようとする。

 「待って善ちゃん、その人は...........」

 弥宵が言ってるそばから女が仕掛けて来た。左足を前にだして善蔵に向けて一歩踏み込む。スピードはかなり速かった。そしてその一歩目の左足が着地すると同時に右足を左回りに円弧を描く様に善蔵の左側頭部に向けて蹴りを放つ。右上段廻し蹴りである。しかし、女の一歩目が着地する前に善蔵は右足を一歩前に出していた。そして女の右足が善蔵の左側頭部に届く前に左前腕でガードをし、右拳を下から女の顎に向かって突き上げる。いわゆるアッパーである。..................................................................................................................................。


 だが、善蔵は右拳を女の顎の真下で止めていた。そして女に一言ひとこと言う。

 「冗談キツいぜ、小春こはるねーちゃん。」

 「あれ?あたしの事なんかとっくに忘れてると思ったのに。」

 二人はお互いに攻撃を止めた。

 「さっき小春ねーちゃんの弟とスポーツセンターで組み手に付き合ってもらってたんだよ。」

 「豪輝と遊んでたんだ。」

 この女、実は宮下豪輝みやしたごうきの実姉、宮下小春みやしたこはるである。身長161cm、体重49kg。宮下豪輝と同様、空手家である。白髪の男が言う。

 「え?君たち知り合いなの?」

 小春が答える。

 「ええ、そうですよ。しばらく会ってなかったけど、幼馴染みです。まさか善蔵がうんぽこの一員になってるとはね。」

 川島拳太が善蔵に言う。

 「お前警察にまで知り合いがいたのかよ!」

 善蔵が小春に問う。

 「ええ!?小春ねーちゃん、警察官なの?」

 「まあ、一応警視庁捜査一課の一員。エリートよ、あたし。」

 横から白髪の男が口を挟む。

 「更にこの私の愛人でもある.........ぎゅぴー!」

 白髪の男は小春に金玉を蹴りあげられた。そして小春が善蔵に紹介する。

 「このオッサンは警視庁警視総監、前田聡志まえださとし。以後宜しくね、善蔵。因みに愛人ってのは嘘だから」

 「ちょっと待ってよ、小春ねーちゃんもそうだけど、どうして警察のお偉いさんがこんな所にいるんだ?」

 善蔵が疑問を投げかけると、警視総監のオッサンが両手で金玉をおさえてピョンピョン跳びはねながら言う。

 「そ、それは私から説明しよう。」

 小春が容赦無く言う。

 「お前黙ってろ糞ジジイ!!」

 「ひぃっ!」

 糞ジジイはちぢこまってしまった。

 「この『うんぽこ』って組織はね、あたし達に協力してくれてるの。そこら中で起こってる暴行事件を殺人事件になる前にめてくれたり、タイミングがいい時は未然に防いでくれたりするのよ。すごいんだから。先週なんか通り魔が人を刺す前にめたのよ。」

 「そんなことやってたんですか!」

 川島拳太が得意気とくいげに言う。

 「出来る事は何でもやるぜ。俺たちはそういう組織だからな。」

 仲間裟漸なかまさぜんが善蔵に言う。

 「善蔵さんにピッタリですよ!」

 善蔵は思った。

 「(命懸けだなこりゃ。)」

 警視総監の前田聡志が改めて言った。

 「本日我々がうかがったのは難しい事件の話をするためなのだ。」

 対して大宮雅司おおみやまさしが言った。

 「難しい事件?それは我々にどうこう出来るものですか?」

 「すまない、まだ事件とすら扱われていない案件だ。実は川崎市内でオヤジがり度々たびたび目撃されているのだ。被害届ひがいとどけが出されていなくてな。」

 美夜美が言った。

 「ふーん、そんで、見回ってちょって事ね。」

 前田聡志が言った。

 「我々がパトロールをするとなると、管轄の問題がでてきてややこしいんだよ。川崎市は神奈川県警の管轄だからな。」

 弥宵が腕を組んで言った。

 「にゃるほど。あたし達が動かし安いって事っすね。」

 前田聡志は申し訳無さそうに言った。

 「いつもすまない。」

 すると弥宵が他のメンバーを見ながら言った。

 「明日から動ける人いる?」

 美夜美と奈々美が手を挙げ、奈々美が言った。

 「はいはーい、あたし動けるよー!」

 続いて美夜美が言った。

 「あたしも行ける。詳しい場所教えてよ。今から見に行ってあげる。」

 小春が感謝を述べた。

 「ありがとうございます!では、メッセージに場所を記載しておきますので、宜しくお願いします。」

 すると拳太も名乗り出た。

 「俺も行くぜ。女の子二人じゃ心配だ。」

 奈々美が言った。

 「よし、それでこそ拳太だ!偉いぞ。」

 そして美夜美も言った。

 「ふふっ、楽しくなりそ。」

 雅司が拳太に言った。

 「お前はまず着替えろ。不審者としてお前が捕まりかねない。」

 「あ、そうだった。一回家にもどるわ。奈々美と美夜美も来いよ。俺の車乗ってけ。」

 美夜美が言った。

 「サンキュー、助かるわ~。」

 三人がバーから出ていこうとすると、雅司が拳太に声を掛けた。

 「拳太、ちょっといいか?」

 「ん?どしたの?」

 雅司は席から立ち上がって出入口付近に居る拳太の近くに行った。

 「オヤジがりの件、なんか怪しい。度々たびたび目撃されてるのに被害届ひがいとどけがでていない。なにか理由があるかもしれない。たとえ三人で行くにしても気を付けろ。」

 「わかったよ。じゃ、行ってくるわ。」

 「ああ、頼んだぞ。」

 三人はバーから出ていった。

 雅司だけは何か嫌な予感がしていた。

 「(ただのオヤジ狩ならいいんだがな。)」

 雅司もバーから出ていこうとすると、弥宵が雅司に声を掛けた。

 「どこ行くの?」

 「帰るんだ。今日は新人の紹介が目的だからな。用は済んだ、俺は帰るぞ。」

 「そっか。んじゃ、お休み。」

 雅司はバーから出ていった。

 裟漸も席から立ち上がって善蔵に帰りの挨拶をした。

 「それでは善蔵さん、これから宜しくお願いします。では。」

 「おう、ありがとよ、サッチー。」

 裟漸も軽く会釈えしゃくしてバーを後にした。

 弥宵が善蔵に言った。

 「あたし達も帰ろっか。」

 「俺、車できてるんで、送っていきますよ。」

 「うん、ありがとう。」

 そして、警視庁の二人もバーから出ていった。

 

 さあ、これからは環境が変わる。田中善蔵は今までつちかってきた武術を活かし、他人を救う事が出来るのか。彼が持つ暴力の在り方が問われることになる。

 

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