二十、時代遅れの攻撃策

 その夜、ザヒル藩王国、郊外の砂漠では、

 ニコとトム、ユリナにスティーブンソンが待機していた。ここまで来るのに乗ってきたジープが傍らにある。

 すでに帝国軍のサンダーボルト機隊が全滅したことは知られていた。

 馬鹿な奴らだ。

 それがニコの第一の感想だった。

 情報を精査せず、思い上がった指揮官のイノシシ采配に付き合わされたパイロット達が哀れでならない。どうせ命を懸けるのなら、自分の判断に賭けるべきだ。

 だが、言っても仕方がない。全滅の事実は揺るがない。文句を言ってもパイロット達が生き返ることはないのだ。

「来ました。」

 スティーブンソンが暗視双眼鏡を覗き、目標の到着を告げる。

 遠雷のようなプロペラ音がした。やってきたのは古めかしい木造の複葉機だった。

 操縦しているのは、フィクサーのゴラム・アリである。

 彼も暗視装置を付けているので、夜間の着陸にも支障はない。

 ジープよりも離れたところに着陸した複葉機は、ゴロゴロと動きながら、ニコ達に近づいてきた。やがて、ニコ達のそばで止まり、搭乗席から一人の青年が下りてきた。

「お久しぶりです。ニコラスさん。トムさん。」

「別れてからそんなに時間は経っていないがね。ともかく、こんばんは。アリ。」

 ニコとトムが、アリと握手を交わす。

「そしてこちらが…。」

「ああ、ユリナ・シン。ガジュ・シンの娘だ。」

 ユリナが慌ててぺこりと頭を下げる。

「初めまして、ユリナと言います。」

「ご丁寧にどうも。殿下。」

 若干失礼な言い方だったが、ユリナは気にしていなかった。

 スティーブンソンが自己紹介も忘れて、状況を説明した。

「状況はすごぶる悪い。帝国軍は戦闘機部隊の壊滅を受けて、合衆国軍にも援軍の要請をしてきた。だが、応じるわけにはいかない。また同じ航空攻撃をすれば、結果は誰が想像しても同じだからだ。」

「そこでこの機体と例の武器の出番ですか。」

「用意できたか?」

「合衆国製のものはとうとう手に入りませんでした。ただし、鹵獲した兵器の中に同じものがあったので、それなら用意は出来ました。これです。」

 複葉機の収納庫を開けると、アリはまるで巨大な棒と円錐を底で二つに貼り付けたような塊を取り出した。

 これは北の独裁国家で開発された、最新鋭対物ロケット砲、RL-7。

 一撃で戦車も破壊できる金属を液体のように溶かしてしまうHEAT弾頭を用意させた。

 ニコが考えた作戦はこういうものだった。

 どんなに最新鋭の戦闘機でも、〈ヴォルフラム〉の〈Devils Fist System〉に探知されて、ミサイルの雨を食らうだろう。だが、レーダーの電波にも探知できない木造の複葉機なら、隠密裏に近づくことは可能だ。

 あとは近づいたところで、ミサイル発射管にロケット弾を撃ち込めばいい。それだけで内部のミサイルや砲弾が誘爆し、〈ヴォルフラム〉は自壊する。

 成功の可能性など、万に一つもないだろう。

 だが、これしかない。

「一応、二発のロケット弾は用意してきました。これが私たちが用意できる限界です。」

 アリが申し訳なさそうに言う。

「これだけでも助かる。操縦は君に任せる。後部座席に私だ。」

「了解しました。」

 アリとトムが準備をする間、ニコはユリナに向き直った。

「どうしても行くんですね…。」

「ああ、やらなければならない。」

 決意を秘めた声に思わずスティーブンソンが退く。

「このまま放置すれば、大戦争になる。そうなれば、この程度の被害では済まない。私たちがやるしかないんだ。」

「…わかりました。そこまで言うなら止めません。」

「ありがとう。」

 ニコはスティーブンソンに向き直る。

「では連絡をしたら、合流の手筈をお願いします。」

「わかりました。ご武運を。」

 トムが叫ぶ。

「準備ができた!ニコ、出発だ!」

 振り返ることもなく、ニコは複葉機に向かう。

 トムの助けを借りて、複葉機の後部座席に収まる。

 ロケット弾が装着されたロケット砲と、予備のロケット弾を受け取り、携帯無線機のイヤーマウスをつける。周波数を確認してから、声をかける。

「テスト、テスト、何かしゃべってくれ。」

「1,2,3.1,2,3.聞こえますか?」

「ああ、ばっちりだ。」

 エンジンが駆動する。

 トムやユリナ、スティーブンソンが離れていき、飛行機は離陸体制に入った。

「それじゃあ行きますよ!しっかりつかまって!」

 砂漠の砂地を凄まじい勢いで滑走していき、飛行機はふわりと空中へ飛びあがった。

 見る見るうちに高度を上げていった飛行機は、すぐに見えなくなった。

「行っちゃいましたね…。」

「ニコはしぶとい。アリと一緒に帰還するさ。」

「さて、我々もやらなければならないことがあります。いつでも迎えに行けるように待機しなければ。」

 トムとスティーブンソンがジープに戻る。ユリナは不安そうな面持ちで、一瞬ニコ達が飛んでいった方向を向いたが、すぐに向き直り、ジープに向かった。




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