十八、討伐作戦

 ニコ達を乗せたジープは、銃弾による穴だらけになりながら、合衆国領事館に到着した。

 当初、やってきたジープに対し、警備を務める海兵隊員たちはすぐライフルの銃口を向けてきた。ニコ達は武器を没収されて、領事館に入ることになった。

 ニコ達は海兵隊員たちに囲まれて、領事に会うことになった。

 スーツ姿のその男性はスティーブンソンと名乗った。

「ひどい格好だ。」

 確かに言えている。銃撃戦をくぐり抜けたせいで、靴はドロドロ。服にも穴が開いている。無傷で生還できたのは奇跡だ。

「王宮で起きた事態は聞いている。どうやら大規模な反乱計画があるそうだが。」

「確かです。父王は帝国に宣戦布告するつもりで、未知の兵器を開発したそうです。」

「掛けてくれ。詳しく聞こう。」

 三人はソファに座り、領事館員が運んできたお茶を飲んで落ち着いた。

「計画の全容を知っているのは、当のガジュ・シンから話を聞いたユリナだ。話してくれ。どんな兵器だ?」

「平たく言えば、対戦闘機兵器です。」




 ユリナは軍事の専門家ではないが、話を分かりやすくまとめるとこういうことだった。

 現在の軍学の常識は、航空機を主力として使う航空戦である。空を制したものが戦争を統べる。ならば、あらゆる航空機を撃墜できる兵器を運用すればいい…。

 ノイマイヤーがこの国に売り込んだのは、三次元レーダーを搭載し、探知した航空機にミサイル攻撃や速射砲による対空攻撃を仕掛けられる空中兵器なのだという。

 〈Devils Fist System〉という高性能レーダー迎撃システムによって、二百以上の攻撃対象に同時攻撃を正確無比に行うことができるという。

 その悪魔の兵器の名は〈ヴォルフラム〉。

 ノイマイヤーの名から取られたその兵器で、帝国軍を撃滅することが、ガジュ・シンの目的だという。

 そればかりではない。

 ガジュ・シンは帝国の首都にも攻撃を加えようとしているというのだ。

 事実上、この兵器は無敵に近い。ならば、こんな辺境の国に派兵されている帝国軍のみならず、帝国をも滅亡させようという計画なのだ。

 ここまで、ガジュ・シンが話したのは、ユリナには止められないと判断したからだった。




「まずいですね…。その話が本当なら、大変な惨禍が引き起こされる。」

「無敵の兵器など存在しません。〈ヴォルフラム〉もやろうと思えば、破壊できるでしょう。ただし、その犠牲は計り知れません。敵だろうと味方だろうと、大勢が亡くなってしまいます。食い止めないと。」

「確かに。ここまで反乱計画が分かった以上、放っておくわけにはいきません。すぐに帝国とも連絡を取って、爆撃準備に…。」

「緊急電!」

 突然、一人の海兵隊員が入ってきた。

「藩王国の王宮が原因不明の爆発を起こしました!」

「何だと?」

 ニコが顔を青ざめさせる。まさか…。

「いえ、正確には爆発というより、地盤沈下というべきでしょうが…。王宮の地下から、謎の飛行物体が現れ、帝国軍東方派遣師団が戦闘機部隊を進発させました!」

「まずい。私たちが〈ヴォルフラム〉の情報を知ったことを受けて、攻撃計画を早めたんだ。」

「もし、ガジュ・シンが話したような兵器だとしたら…。」

 軍事に疎いトムにも結末は見えている。帝国空軍の戦闘機部隊は撃滅されるだろう。

 スティーブンソンが声を荒らげる。

「直ちに帝国軍に退却を進言しろ!決して攻撃するなと!」

「イエッサー!」

 海兵隊員はロケットの勢いで部屋を出て行った。

「帝国軍は、どのみち聞く耳を持たないだろう。スティーブンソン領事。頼みがある。」

 ニコが話し出した内容を聞く内に、全員が呆れ顔になった。

「ニコ。そんな作戦、絶対に成功しないよ。」

「仮にできるとしても、誰がそんなことをするのです?」

 ユリナが尋ねる。

「私だ。」

 全員が息を呑んだ。

「パイロットを用意してくれ。植民地軍のゴラム・アリがいい。彼ならわかってくれる。」

 たとえ実行しても、成功の見込みはまずないだろう。だが、ニコはやる気だった。

何が何でも、止めて見せる。

 ニコにはその決意しかなかった。




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