十七、動き出す悪夢

 無表情で足を進めるガジュ・シンの元へ、ハキームがやってきた。

「申し訳ありません!反逆者どもを取り逃がしました!」

 深々と頭を下げるハキームだったが、

「よい。」

 ガジュ・シンの反応はそれだけだった。

「直ちに追跡隊を進発させて…」

「よいと言っている。」

 ハキームは気づいた。ガジュ・シンは凄まじい憤怒に駆られている。無表情だが、内心では怒りが渦巻いているのだ。

 思わず身震いしそうになるハキームだったが、胆力を振り絞って、質問した。

「どうなさるのです?」

 ガジュ・シンの反応は淡々としたものだった。

「計画を今すぐ実行する。〈ヴォルフラム〉の発進準備にかかれ。」

 ハキームは驚いた。今すぐ帝国に攻撃を加えるというのか。

 だが、主の意見とあれば、無理も通すしかない。

「…かしこまりました。無事な兵力を投入して、攻撃計画を開始します。」

「どんなに金や人手が必要でも構わん。やれ。」

「了解しました。」

 ハキームは小走りで去っていく。

 ガジュ・シンは煮えたぎる怒りを向ける矛先を、すでに帝国軍に向けていた。

 もうじき、あの合衆国人たちが合衆国領事館に逃げ込み、ユリナを通して、計画の全容を伝えるだろう。そして、この王宮は帝国軍の爆撃機部隊に爆撃されるわけだ。

 そうはいくものか。

 自分たちは、きたるべき日に備えて、国家予算の三割を軍事費に割いて、夢の兵器を完成させたのだ。今戦わずにどうするのか。

 イクラムを殺されたことも、復讐への原動力になった。あの合衆国人たちはどうでもいい。問題はそういう奴らを送ってきた人間だ。

 兵士に引っ立てられて、顔中、傷だらけのウェブスターがやってきた。

 その表情は恐怖に歪んでいる。

「…陛下。どうかお慈悲を…」

 ガジュ・シンはウェブスターに向き直り、腰から小型拳銃を引き抜き、ウェブスターの眉間を撃った。ウェブスターは恐怖に顔を歪めたまま、絶命した。

「許そう。」

 ガジュ・シンは腰に小型拳銃を収め直すと言った。

「貴様が地獄に行ったらな。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る