十四、続・異様な二人組
「馬鹿な連中だ。我々を邪魔しようなんて!」
ニコとトムは王宮の地下牢に入れられた。粗末なベッドと丸見えのトイレが一つ。刑務官は勝ち誇った表情で言った。
「せいぜい、死ぬまでのわずかな食事を楽しむことだな。」
まだ殴られた腹が痛むのか、ニコは目立った反応を見せず、おとなしくなった。ノミがウヨウヨいそうなベッドにニコを降ろすと、トムもベッドに座った。
「信じられない!帝国の情報将校がこの国と癒着していたなんて!」
「怒っても仕方ないだろう。それにウェブスターほどの人間ともなれば、二重スパイなのが普通だ。情報のギブ・アンド・テイクが基本なんだよ。」
トムは顔をしかめた。
「よくわからないんだが。」
トムはぐっと顔を突き出し、言った。
「国家の人間たちにとって、敵とは誰なんだ?」
「答えが単純すぎて、返答に困る質問だな。」
「どうなんだ?」
「いいか。」
ニコは出来の悪い生徒に語り聞かせるように言った。
「帝国にせよ、ノイマイヤーにせよ、何らかの利益があるから、この国に近づいた。どんなに唾棄したくなる人間でも、敵の敵は味方なんだよ。必要ともなれば、彼らは相手に酒をおごる。便宜を図ってやる。案外、ユリナに偽造パスポートを渡した人間も狙いがあったんだろう。」
なおもわからないという表情のトムだったが、
「これからどうする?」
「決まっているさ。覚悟はいいか。」
いきなりドスの効いた声でニコは迫ると、覚悟の完了も待たずに、万力を込めて右ストレートをトムの鼻面に叩き込んだ。
「ひぐっ。」
ぶざまな声とともに、トムの鼻から鼻血が吹き出、不潔な床にぶっ倒れた。
「誰か来てくれ!」
大声で叫ぶと二名の刑務官がやってきた。
「どうした?」
「血を吐いて倒れた!」
トムを指さし、ニコがパニックを起こしたような口調で話す。
「何だと!」
大急ぎで檻の鍵を開け、刑務官二人が入ってくる。トムに駆け寄りしゃがんだ刑務官のこめかみにニコは左フックを叩き込み、もう一人の刑務官が腰から警棒を取り出そうとしたところを杖の握りでみぞおちをぶっ叩いた。
刑務官二人はあえなく気絶してしまった。
「うう…。ひどいよ。この国に来て以来、痛い目に会ってばかりだ。」
ようやく立ち上がったトムは鼻を抑えながら、ニコに恨めしい表情を向ける。
「文句言わない。それよりもそいつらのライフルと拳銃をよこしてくれ。」
ぶつぶつ言いながらもトムは指示に従い、グリップが木で作られた自動小銃と拳銃を渡す。
ライフルは、バナナマシンガン。
北の独裁国家で開発された自動小銃で作りが単純、子供でも扱える故障知らずの名銃だ。殺傷能力も高く、一撃で相手を倒せる。
拳銃の方は、ハイパワー拳銃。
九ミリ口径の自動拳銃で、十三発の弾丸を装填できることから、装弾数の多さゆえにhigh powerの異名がついた。扱いやすい拳銃だ。
ニコはマシンガンのコッキングレバーを引いて、初弾を装填し、セレクタレバーをセミオートに動かすと、ハイパワーもスライドを引いて、こちらもまた初弾を装填した。
予備のマガジンも二本ずつ、それから手榴弾も拝借した。
ハイパワーを左の腰に差すと、バナナマシンガンを左手に持ち、
「起こしてくれ。」
そう言い、トムの助けを借りた。
「さて、行くか。」
トムはなおも鼻を抑えながら、黙ってニコとともに牢屋を出た。
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