十二、ニコの計画

 次の日、早くに起きたニコ達はとりあえず朝食を食べることにした。昨日も昼食を食べた食堂でだ。ベーコンエッグにカリカリの食パン。こんな状況じゃなければ、楽しめるのだが。

 食事を終えて、開口一番、ニコがトムとユリナに言った。

「たぶん、私たちが経歴を偽ったことはばれているだろう。」

 その言葉に二人ともぎょっとした。どうやら昨日のうちにニコは色々と考えていたらしい。

「ばれているって…。それではまずいですよ…。どうするんですか?」

「ニコ、何か考えがあるのか。」

 心配そうに二人が聞く。ニコは余裕を見せて、

「実は、この状況を利用できないかと考えている。というより、これしか王宮に入る方法はないだろう。」

 ニコが一晩考えたプランを聞き終わった二人は、なんともいやそうな顔をした。






「助かります。ウェブスターさん。わざわざ、シン国王との立食パーティーに参加できる段取りをつけてもらえるとは。」

 一行は昨日の車の中にいた。運転手と助手席のウェブスターが王宮まで送るというのだ。

「わかっていると思いますが、ニコラスさん、あくまでも案内するだけですよ。」

 ウェブスターが念を押すように言う。

「それでも助かります。ありがとうございます。」

 この卑劣漢め。そういう言葉を出さずにニコは固い顔をしたトムとユリナに声をかけた。

「大丈夫だよ。ただパーティーに参加すればいいだけだ。何も心配ない。」

「本当に大丈夫だろうね。」

 心配そうにトムが言う。ユリナは声も出ない様子だ。

 計画通りに進めば、この王国の裏に潜入できる。相当の努力が必要だが。

 やがて、王宮の門の前へ来た。車は止まり、運転席のウィンドウが開いた。

 ベレー帽をかぶった藩王国の近衛兵が近づいてきた。

「身分証を拝見。」

 運転手が懐から群青色のパスを取り出すと、それだけで、

「行ってよし。」と言った。

 罠に嵌め始めたな、とニコは思った。通常、大使館ナンバーの車に身分証を求めることはない。帝国政府関係者ならなおさらだ。今のは一種のアイ・コンタクトだろう。

 車は敷地内に入っていった。

 ようやく、ザヒル藩王国の王宮が見えた。

 砂色の丸い屋根に様々な宝石がちりばめられた建物だった。それほど大きくはないが、よく手入れがされた芝生が広がり、道路は舗装されていた。遠くを見てみるとオアシスのような噴水も見える。水が貴重品の砂漠では、贅沢な設備と言えた。

 王宮の前まで来たところで車が止まり、

「さて、ニコラスさん。」

と言い、右手にニコのコンバット・マグナムを持って、上半身を後部座席に振り向かせたウェブスターは、勝ち誇った表情で、

「いや、ニコラス。この帝国の売国奴め。さっさと降りてもらおう。」と冷徹に告げた。

 よく見ると、車の外にもオートマチック拳銃を構えた近衛兵たちが駆け寄っていた。

「分かったよ。」

 諦めた表情を浮かべながら、内心にんまりとして、計画通りだ、と思ったのだった。

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