九、藩王国のマハラジャ

 ニコ達が旧王宮の遺跡でひと悶着していたころ、ザヒル藩王国の現王宮の滑走路に一機の複葉機が降り立った。古いがよく手入れがされていることがわかる機体だった。誘導員の指示に従い、格納庫の前で機体を停めた操縦席の男はそこで飛行機から降りてきた。

 この男こそ、ザヒル藩王国の現国王、ガジュ・シンである。

 マハラジャの中でも最も賢明で優れた先見の明を持つ男。その高潔な精神に惹かれる人間は少なくない。ガジュ・シンは表向き、帝国との友好関係を保っている。だが彼には裏の顔があった。

 飛行帽とゴーグルを外した後、やってきた執事らしき男にそれらを彼は渡した。

「ハキーム、失敗したな。」

「まったく面目ありません。まさかユリナ様がやってくるとは…。」

 すでにガジュ・シンの一人娘のユリナの密入国は入国管理局から知らせが届いている。ガジュ・シンには五人の子供がいるが、ユリナはその中でただ一人の女の子だった。王位を継がせる気はないが、成績が優秀だったので医学を学びたいという本人の要望を聞き入れ、この国の首都へ送り出したのだ。

 そのユリナが学業をほったらかして戻ってきた。

 何かを掴んだとしか言いようがない。

 王宮へハキームという執事らしき男と向かいながら、ガジュ・シンはハキームからユリナを助けた外国人の話を聞いた。

「合衆国人か?」

「記録ではそうなっています。詳しく調べたところ、合衆国の商業都市でラジオタレントとして活躍する二人組だとか。」

「本人たちはどこにいる?」

「どうもそれなりに知恵の回る連中らしく…。町では行方が分からないそうです。検問を敷き、パトロールを行っていますが…。」

 そういう問答をするうちに王宮に辿り着いた。

 ガジュ・シンは言い放つ。

「見つけ次第、二人は殺せ。計画を知っている可能性が高い。ただしユリナは連れてこい。一つ説教をしなければならん。」

「仰せのままに。」

 ハキームは王の前から姿を消した。

 着替えを行い、豪奢なローブ姿になったガジュ・シンは自身の執務室に入った。年代物の文机の上には、幾枚かの設計図が散らばっている。ガジュ・シンが大戦期から続けてきた夢の兵器の実現はもうじき迫っている。

 宗主国の帝国の支配が続き、多くの国民が極度の貧困状態にある。このままでは異常気象が発生しただけで国土全体が飢餓状態に陥るだろう。確かに帝国は自分たちに文明を教えたかもしれない。しかしそこには頭に「二等臣民として扱う」という文言があった。

 自分たちが自由を手にするためにはもはやどんな非難を浴びようが、武力蜂起しかないのだ。ただ、西の強国が行ったような総力戦は犠牲が大きすぎる。自分たちはより洗練された方法を取るのだ。

 文机の上に置かれた設計図の一枚を取り出し、そこに書かれた兵器名を見てガジュ・シンは勝者の笑みを浮かべた。

〈Devils Fist System〉

 藩王国に勝利をもたらし、帝国を地獄の業火で焼き滅ぼす最強の兵器の名前だった。



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