八、遺跡の戦闘

 ふくろうの眼を出たニコは合流地点の旧王宮へ急いだ。急ぐといっても両足義足のニコのスピードは遅い。その遅さのお陰か、自分を監視する「妙な気配」がわかった。

 旧王宮の遺跡にたどり着くと、その気配は濃厚になった。

――罠にはまった。

 おそらくトムとユリナも捕まっているだろう。ニコは物陰に入るとバックからコンバットマグナムを取り出した。バレルは通常サイズの四インチ、ニコが本国で護身用として持っているリボルバーとは違い、装弾数も一発増えて六発の大型になっている。シリンダーをスイングアウトさせ、六発の三五七マグナム弾が装填されていることを確かめて、シリンダーを元に戻した。この状態で引き金を引けば、即座に発砲される。

 ニコはリボルバーを腰の左側に差し込むとジャケットのポケットにスピードローダーを入れた。左側に差したのは右手で杖をついている自分には、左腕一本でなければ銃は扱えないからだ。

深呼吸をして物陰から出る。やはり監視されている。

――そこの柱の陰にいる。

柱の三メートル前で止まり、銃を引き抜く。

「おい。出てこい。」

 出てきたのは仕立てのいいスーツを着た男だった。やれやれという表情でホールドアップして出てきた。男は言った。

「見抜いたのは見事だが、あの遺跡の窓から…」

「狙撃手が狙っている。そう言いたいんだろう?」

「…なぜわかった。」

「この藩王国の兵士が待ち伏せしていたのなら、この時点でマシンガンを撃ちまくるのが普通だ。だがそれがない。あんたの正体は帝国の諜報員だろう。相手もわからずにいきなり撃つ愚は侵さない。プロのやり口だ。」

「ご名答。」

 スーツの男はそう言って、遺跡の窓の方向へ何やら指で合図をした。

「銃を下ろしてくれ。危害を加える気はない。」

 言われたニコはリボルバーの撃鉄を戻し、銃を下ろした。そして男に近づいた。

「ここに来ていた二人の男女はどこだ?」

「何のことかな。そんな人物たちは…。」

 すると素早く左手で折り畳みナイフを抜き、ニコは男の首筋にもう少しで触れるところで止めた。

「さっきの指の合図とお前の言葉を信じるとでも思ったか?相手をだますのがスパイのやり口だ。」

「そんなことをしたら撃たれるぞ。」

「あんたの体が邪魔でライフルの照準を合わせられないんだ。狙撃は不可能だ。」

 男は観念したように、

「おい。連れてこい。」と言った。

 すると四人の男に後ろ手で縛られたトムとユリナが出てきた。これ以上なく不機嫌そうな表情だ。

「大丈夫か?」

「こいつら持ち物をすべて奪ったんだ!」

「だから言ったんだ。見通しが甘いって。」

 すると遺跡の方からスコープ付きのライフルを持った屈強な男がやってきた。男が言った。

「ナイフを下ろせ。撃たないから。」

 ニコはやっとナイフをスーツの男から下ろした。

「ウェブスター大佐。こいつらは何者です?」

 ウェブスターと呼ばれたスーツの男は、

「知らんよ。ただ普通の観光客でないことは明らかだ。そこの少女が誰か知っているか。」

「誰です?」

「ザヒル藩王国の王女、ユリナ・シンだ。」

 スーツの男の部下らしい人間たち全員がざわっとたじろいだ。

「本当ですか?」

「私も驚いている。一体どういうことなのか。」

 ニコは言った。

「どうやらあんたと私たちは利害の一致がありそうだ。なら協力すべきだ。」

「…話を聞こう。おい、その二人を放してやれ。どうやらガジュ・シンの野望について知っているようだ。」

 ウェブスターという男の部下たちは狐につままれたような表情をしながらも、二人の拘束を解いた。ひと悶着あるな、とニコは確信した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る