七、再び、ふくろうの眼
一晩経ち、次の朝になってから、起床した三人は昨日トムが買ってきた食料でサンドイッチを作り、朝食にした。本当ならホテルのレストランに行きたいところだが、目立つ行動は控えなければならない。朝食を食べた後でその後の計画を練った。
「まず王宮を遠目に見れるところに行かなければいけません。」
ユリナが王宮の偵察を提案した。確かにその通りだ。王宮の様子がわからなければ、何も始まらない。ニコが昨日買ってきた地図を広げて、ユリナはある広大な敷地を指さした。
「ここはかつて初代王の王宮だったところで、今は廃墟です。ちょうど現在の王宮を見下ろすことができるので、拠点としても絶好の場所です。」
「確かにここしかないだろうな。」
ニコはつぶやいた。
「ただ、問題もある。」
「問題って何だい?」
トムがわからない様子で聞いた。
「簡単に見られる場所ということは、ガジュ・シンも知っているはずだ。ここに警備の人間を配置していてもおかしくない。」
自分がガジュ・シンなら迷わずそうする、というニコに対し、
「大丈夫だろう。この国の企図しているところを知る人間が入ってきているようなことは知らないんだし。」
楽観的なトムに、見通しが甘いと言いたくなったニコだが、
「まあいい。じゃあトムとユリナは先にこの場所に向かってくれ。私は寄り道がある。」
「寄り道ってどこですか?」
一瞬不安そうな様子を見せたユリナだが、ニコは構わず、
「ふくろうの眼だ。町を自由に動けるように準備しないと。」
ニコがふくろうの眼にたどり着いたのは十二時五分前だった。ドアを開けてカランコロンというベルの音を聞く。
店主のイザックは少し疲れた様子でニコを出迎えた。
「まだ五分前だが。」
抗議しているようだったが、特に怒ってもいないイザックに対し、
「あんたなら五分前にはできていると思ってね。」と、ニコは肩をすくめた。
イザックは茶封筒を取り出すと机の上に置いた。中には群青色のパスポートが入っていた。帝国のパスポートだ。中を見てみると精悍なユリナの写真とともに、偽名も記載されていた。アメルダ・サックス。十九年前に帝国の首都で生まれたことになっている。
次にカウンターの中から、タオルの包みを取り出した。触れた瞬間、中身が何か分かった。固い金属の道具だ。包みを開いてみると大型のリボルバー拳銃が収まっていた。銀色に輝くステンレス鋼が目に染みた。確か合衆国で一大シェアを持っている銃器会社の設計したリボルバーだ。通称「コンバットマグナム」と呼ばれていたか。
「あんたがこれからやろうとしていることには役立つんじゃないかね。」
「重宝するだろう。しかし、どうしてこんなものが手に入るんだ?この銃は合衆国本国でも高くて、手に入らないことで有名なのに。」
「どこの国の軍隊にも、こうしたものをステータスシンボルとして購入するマッチョな気質の人間がいるんだ。そういう連中に計画性なんてものはないから、生活費のために泣く泣くせっかく買ったものを売りにやってくる。」
「おい、いくら私物でも銃の転売は禁固刑になる話だぞ。」
「そういう連中からは本名や階級、職種を聞き出す。とりあえず商売はする。その後で、『名簿の一ページが欲しいんだ』というような要求を出していく。ここで小金を手に入れたい人間は大抵いいスパイになってくれるよ。」
「なるほど。」
ニコはタオルの包みを直した。イザックから予備の弾丸の箱とスピードローダーも受け取る。
「うまいやり口だ。」
「もう一つこういうものを用意してみた。」
そう言い、イザックは机の引き出しから一枚の用紙を取り出した。
「インペリアル・ジョッキークラブの会員証だ。持っているものが帝国のロイヤルファミリーと関係のある人間だと証明してくれる。」
「ジョッキークラブは大戦中に解散してしまったじゃないか。」
「権威は残っているよ。ジョッキークラブの会員だったことはあの国の女王陛下が名刺に裏書きしてくれたに等しい。」
「それがどんな時に役立つ?」
「例えばこの国の帝国政府関係者と会うとき、これを見せれば下へも置かぬおもてなしが期待できるんじゃないかね。」
「もらってゆこう。」
イザックは言った。
「この二つが加わったんで八千。」
ニコははあ、とため息をついた。自分の商才のなさを嘆いたのだ。
旅行へ出発する前に軍資金としてダニーが二万用意してくれたのだが、この数日でその半分が消えることになる。ニコはぼやいた。
「世の中に安いものは存在しないんだな。それ相応の相場と値段があるだけだ。」
「不満か?だから三日時間をくれといったんだ。」
残念だがそんなに待ってはいられない。ガジュ・シンの野望が本当なら、急いで対処しなければならない。ユリナともそう約束した。男が一度口にした約束事は必ず守らなければならないというのは、今も昔も変わらないのだ。
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