第21話 告白の裏事情

 本川さんに警告されて以来、時恵さんからのお誘いを断り続け、サンダーに失恋して以来、スマホに入った連絡さえ無視していた後ろめたさが、時恵さんの顔を見た途端、一気に込み上げて来た。


「時恵さん、ゴメンナサイ。ずっと連絡無視して......」


 日曜のランチを断って残念がっている事はサンダーから聞いたけど、私の気持ちを知っている時恵さんは、きっと心配もしてくれていたはず。


「日菜ちゃんの気持ちは分かる気がするから、いいわよ。それより、久しぶりだし、2人でスイーツでも食べに行きましょう!」


 今まで断りっぱなしで引け目を感じていたのと、サンダーが一緒ではなく、それを意識しないで済みそうだから、時恵さんの車に乗った。


「今、向かっているのは、そば粉クレープの美味しいお店なんだけど、日菜ちゃんはそばアレルギーは無い?」


「あっ、大丈夫です!私、わりと頑丈です!目以外は.....」


 慌てて、視力が悪い事を付け足すと、いつものように時恵さんが笑ってくれた。


 時恵さんはいつものように明るい声で笑ってくれているのに......

 ここに、サンダーの笑顔は無い。


 そんなの当たり前だよね......

 今頃、サンダーは本川さんと一緒に下校しているのだから......


 車は、こじんまりとした喫茶店に見えるようなそば粉クレープ屋さんに着いた。

 店内は空いていて、すぐに席に案内された。


 私は、カマンベールチーズとハチミツのそば粉クレープ。

 時恵さんもチーズ系、ゴルゴンゾーラとハチミツのクレープで、運ばれて来た時に、少し味見してみるかと尋ねられた。


「青カビですよね?白カビは好きですけど、青カビは何となく......少し苦手かも知れないです......」


 見た目と臭いのイメージから、つい避けてしまいたくなる青カビ。

 いくら、時恵さんのお勧めでも、何だか苦手意識を捨て去れない。


「確かに、見た目はね......臭いもかなり癖が有るしね。でも、ゴルゴンゾーラは、青カビの中では食べやすいし、ハチミツとすごく合うのよ!騙されたと思って、少しだけ試してみない?」


 そう言って、少しだけ取り皿に乗せてくれた。

 最初は、味見するのも戸惑ったけど、恐る恐る口に運んでみた。

 あれっ......意外にも、苦手じゃないかも!


「時恵さんの言う通りですね!ホントに美味しい~!知らなかった!」


 私がそう言うと、微笑んでくれる時恵さん。

 

 食べ物だったら、苦手そうに見えても、こうして食わず嫌いってだけの事も有るけど、人物に関しては、最初の印象がそのままズルズルと後を引く事って多い......


 本川さんも然り......

 

 私にしてみれば、すごく苦手な人なのに、サンダーはどうして本川さんの事が好きなんだろう?

 サンダーに対する態度は、魅力的に感じられたのかな?

 でも、人によって態度をコロコロ変えるような感じの女子をサンダーが好きになるなんて......

 私、結局、サンダーの事を何にも分かっていなかったのかも知れない......

 

「もしかして、日菜ちゃん、前に送っていたショートメールも見てくれてない?」


 何通か届いていたのは分かっていたが、結局、開封出来ずにいた。


「ごめんなさい。どうしても、岩神君の事を忘れたくて......見てしまうと、また気持ちが落ち着かなくなりそうなので......」


來志らいしが日菜ちゃんと話したがっていたけど、まあ、距離を置きたい日菜ちゃんの気持ちは分かるし......」


 サンダーは何を話そうとしていたの?

 日曜のランチの件で、本川さんと付き合い出したから、自分は抜けるから、時恵さんと2人で楽しんでという事?


「あっ、それに、私、荻川君に交際申し込まれていたので......」


 その事を時恵さんにも、知っておいてもらったら、サンダーへの気持ちに少しは踏ん切りがつくかも知れない。


「荻川君って、享平君?」


 時恵さんも荻川君を知っている。

 中学生の時からサンダーの友達だしね......


「荻川君、私の事を学校で庇ってくれていて、とても優しく接してくれて......私、岩神君の事も忘れたいから悩んでいるんです」


「少し意外だったわ。享平君は、來志らいしの恋人だった和佳ちゃんの幼馴染みで、和佳ちゃんが亡くなった時に、來志らいしよりもずっと深く衝撃を受けていたようだったから、まだ和佳ちゃんを忘れられないのかと思っていた」

 

 そういえば、この前、サンダーに話した時にも、荻川君の方が傷が深そうだったから、吹っ切れたのが意外そうだった。

 2人の言っている内容が一致しているのだから、荻川君は、サンダーよりもまだ引き摺っている可能性が強いはず......


 それなのに、私に告白してくるなんて......

 時恵さんが言うように、意外に感じられても仕方ないのかも知れない。


「享平君も、和佳ちゃんの事を忘れようとして、それには日菜ちゃんが必要だったのね」


「少なくとも荻川君は私を必要としてくれている。でも、岩神君が必要だったのは、本川さんだったんです」


 私は、ずっとサンダーに必要とされたかったのに......


「それだけは違うわ!來志らいしが亜由ちゃんを好きになるわけないの!來志らいしからは口止めされていたけど、もう限界!言わせて!」


 急に時恵さんが堰を切ったように話し出した。


 口止め......?

 本川さんを好きになるわけがない......って?


來志らいしが、亜由ちゃんと付き合い出したのは、日菜ちゃんの為よ!」


 時恵さんの言葉が、理解出来なくて、心で何度もエコーしているような感じ。


「私の......?」


「亜由ちゃん、日菜ちゃんの家との契約を解除しない代わりに、來志らいしに交際を迫ったのよ!とっさに、偽装交際という条件付きならと、來志らいしは承諾したけど、プライドの高い亜由ちゃんは、とっさに來志らいしから告白されたように広めたようね」


 偽装交際だった......!


 本川さんの家に契約を解除されないようにする為に、サンダーが犠牲になってくれていたの?


「岩神君が、私の為に......」


 サンダーが私の為に、本川さんの条件を飲んでいたなんて思いもしなかった!


 それなのに、私は、そんな事も知らずに、サンダーを忘れようとして、時恵さんの連絡まで無視して......


「そんな形で、來志らいしが責任を取る必要無いと思わない?だから、私も考えたのよ。もしも、契約が切られても、亜由ちゃんのお店ほどじゃないけど、私の眼科とか、実家の形成外科の窓口に、お野菜販売用のスペースを用意してあげるから!行きつけのレストランに頼む事も出来るし!とにかく、亜由ちゃんに負けないで!」


「ありがとうございます、時恵さん!」


 サンダーが私の為に自分を犠牲にするのは、絶対にイヤ!


 家の野菜販売の件は、時恵さんが味方に付いてくれる!

 私は、もう、荻川君との交際を受けるかどうかなんかで、頭を悩ませている場合じゃない!

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