第20話 思わぬ告白

「松沢さん、ちょっといい?」


 憂鬱な気持ちのまま身体を機械のように動かしていた6時間目の体育が終わって、着替えてから教室に戻ろうとした時、荻川君に呼び止められた。


 荻川君、メガネ変えた辺りから、よく話しかけてくれるんだけど、メガネフェチなのかな......?

 サンダーと違って、荻川君はどんなタイミングでも物怖ものおじしないで、私に話しかけて来る。

 それだけ、荻川君は周囲の噂なんて気にしないようなサッパリとして男らしい性格なんだろうな。

 別にサンダーの事が男らしくないなんて意味じゃなくて......

 サンダーには、触れられたくない心の傷が有る人だから、荻川君と同じように振る舞うなんて難しいのかも知れない。


「荻川君......」


 荻川君も、サンダーと本川さんの交際に驚いたのかな?

 中学時代からの友達同士だし、薄々勘付いていたのかも......


「まさか、來志らいしの方から亜由に告るなんて、世の中分からないな」


 そうだよね......

 どう見たって、まだ、元カノを引き摺っている感じなんだから。


「お似合いの2人だよね......」


 サラッと、そう言っておくのが一番。

 荻川君が、私の気持ちに気付かずに済むから。


「亜由はずっと來志らいし狙いだったからな、やっと念願叶った感だろうな!」


 荻川君は晴れ晴れとした感じで、そう言ったけど、私は、本川さんに告白するサンダーなんて、想像もしたくなかった......

 それなら、元カノを忘れないでいてくれていた方が、まだ良かったのに......


來志らいし達に先を越されたけど、俺も、告らせてもらっていいかな?」


「えっ?」


 荻川君......?

 何......?

 この流れって......もしかして?


「松沢さん、俺と付き合って欲しい!俺なら、あの一軍女子達も怖くないし、松沢さんを守ってあげられるから!」


 荻川君と付き合う......?

 私が......?


 守ってあげられるって......確かに、一軍女子達も荻川君の言う事は聞いてくれると思うけど。


 だからって、荻川君と付き合うって......


 本気なのかな......?


 私、いつもサンダーの事ばかり気にかけていたせいか、荻川君がそんな風に私を想ってくれているなんて、全く気付かなかった......


「あの......ありがとう。思いがけなくて、返事は少し考えてからでもいい?」


 サンダーに失恋したからってすぐ、荻川君に気持ちを切り替えられるわけなんてない。

 でも、荻川君が私を守ろうとしてくれている気持ちも分かるから、即答はしない方がいいのかも知れない。


「いいよ。せっかくだから、俺が今年のミスター誠楠で、松沢さんがミス誠楠になった時のステージ上で、全校生徒の前で返事してくれるのもいいな!」


 どうして、そんな夢みたいな事を言い出すの、荻川君?

 そんな事、有り得ないのに!

 サンダーが付き合い出した今、その票が荻川君に流れる可能性は高いけど......


「まさか!荻川君はともかく、私は無理!地味なメガネ女子だし」


「データでは、男の40%はメガネ女子好きだし、松沢さんは、自分が思っているよりずっと可愛いから、自信持てよ」


 ズルイよ、荻川君。

 今日みたいに失恋して落ち込んでいる時に、こんな嬉しくなるような事を言われたら、お世辞でも本気にしてしまいそうになるんだから。


「ありがとう」


 サンダーへの失恋の痛手から抜けられないまま、荻川君と付き合う事なんて有り得なさそうだけど、今すぐに返事を求められてないし、考えてみてもいいのかも。

 出来るだけ早く、サンダーの事も忘れたいし......


 サンダーに失恋したのに、荻川君に告白されて、頭の中がパニックになりながらも、何だか少しフワフワしている私。

 家に戻っても、宿題もなかなかはかどらずにいると、スマホが鳴った。


 時恵さんからだった。


 電話に出て、時恵さんの優しい言葉を聞くと、泣いてしまいそうだから無視した。

 何度か鳴ったけど全て無視していると、ショートメールの着信音。

 電話も無視したのだから、ショートメールも見ない事にした。

 ショートメールなら、LINEと違って、既読表示されないから、見るだけならいいかもと思ったけど、やっぱり思い止まった。


 サンダーへの想いを絶つには、思い起こさせるような人と接触しないのが、一番効果的なはずだから!

 あんなに大好きな人だけど、いつまでも、女々しく片想いを続けるのも自分が惨め過ぎるから、もうサンダーへの想いは、思い出の中に封じ込めなくては!


  高校では休憩時間、サンダーは本川さんと一緒にいる時間が増えて、視界に入っている時には、いつも2人一緒にいる。

 かといって、イチャイチャしているわけではなく、サンダーは今までと何ら変わりなく気怠そうに接しているから、まだ救われる。


 私はというと、今まで通り孤独なのは変わりないけど、たまに荻川君が声をかけてくれる。

 それが、嬉しくもあったり、他の女子達の視線が気になったりしていた。


『ミスター&ミス誠楠コンテスト』が近付いたある日、校門から出て少し歩いた角に、時恵さんの車が停まっていた。


「日菜ちゃん、少しいい?」


 電話やショートメールを無視して後ろめたかった分も、時恵さんと面と向かい合った時は申し訳無さが込み上げてきて、それだけで泣けてきそうになってしまう。

 私、あれから何日も経って、スマホへの連絡もことごとく無視してサンダー断ちしようとしていたのに、結局、まだ情けないくらいに吹っ切れてない......

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る