第19話 大きな勘違い
いつもの何倍にも長く感じられた美術の授業が終わって教室に戻る時、不意にサンダーから呼び止められた。
一軍女子達は全員、音楽を選択しているから、見付かってない。
サンダーから呼び止められるなんて、思いもしなかった......
久しぶりに目の前にいるサンダーに、胸が締め付けられて痛くなりそうだけど、そんな気持ちは封じなきゃ!
動じている様子をサンダーに感じ取られないように、平静を装うの!
「姉貴が残念がっているんだけど、日曜のランチ、行かなくなったのは、何か有った?」
残念がっているのは、時恵さんだけなのかな......?
サンダーにしてみれば、休日をノンビリ好きに過ごせるから、むしろせいせいしている?
「家の......野菜の収穫が忙しい時期なのに、お母さんが腰を痛めたから、私が手伝わなくてはならなくて......」
家庭の事情を言い訳にするのが、変に疑問に思われなくて丁度いいと思った。
ごめんね、お母さんの腰痛なんて、ホントはそんなに酷くないのに、勝手に大袈裟に脚色しちゃった。
「大変だね。収穫が一区切りついたら、また一緒に行ける?」
私が適当に考えた言い訳なのに、期待してしまうようにサンダーから優しく尋ねられたら、二つ返事でOKしたくなる......
元々、私はサンダーと一緒に過ごしたいのに、その時間が何よりも幸せだったのに......
本川さんとの取引が有るから、そうする事はもう出来ない......
「お母さんの腰の回復次第だから、今は分からない......」
せっかくサンダーが、珍しく学校で声をかけてくれてるのに、どうして私、さっきからずっと断り文句ばかり探さなきゃならないの......?
「そっか......姉貴は、松沢さんを気に入ってるから、寂しがるけど、仕方ないな」
姉貴は......って。
時恵さんの気持ちより、私は、サンダーの気持ちの方が気になるのに......
「私も本当に楽しかった......でも、岩神君は、迷惑だった?」
時恵さんに命じられて、嫌々付き合ってくれていたのかどうかだけでも知りたかった。
「正直、面倒だった」
えっ......
面倒.....って
私、やっぱりそんなに疎まれていたの......?
サンダーがあんな風に笑ってたから、心から楽しんでくれていたと思えてたのは、私の勘違いだったの?
そんなすごい勘違いして、元カノへの辛い思い出からも解放させてあげられるかもなんて、すっかり調子に乗っていた自分が恥ずかしかったし、哀しくなって涙が滲んで来た......
私、まるでただの道化だったみたい......
何とかしてあげれられるなんて図に乗っていた自分が、哀しさ通り越して、何だか滑稽過ぎる......
サンダーの口から、私にとってはまだ過酷な言葉が出て来るかも知れない。
そうなる前に、その場から走り去りたかった。
「そうだったの......じゃあ、もう、これで」
もしかしたらなんて、少しでも期待していた私、バカみたい......
サンダーが、私なんかの事を気に留めてもくれてないなんて、最初っから分かっていたはずなのに!
メガネの件だけで......それが無かったら、私達は話す事すら無かったし、私はクラスメイトで有る事すらサンダーから認識されてなかったようなものなのに!
「松沢さん、待って!まだ話し終わってない!」
サンダーの手が、あの時のように私の手首を掴んで引き留めた。
メガネの破片が刺さって無いか心配してくれた、あの時......
「最初は、姉貴の気まぐれに付き合わされるのが面倒で、さっさと理由付けて、俺はこんな付き合いから、早々に切り上げるつもりでいた。でも、いつの間にか、日曜を楽しみにしている自分に気付かされていたんだ」
えっ、楽しみにしてくれていたの......?
そんな事言われたら、余計、堪えていた涙が止められない。
涙を拭いたいけど、片方の手首はサンダーに捕まれたままで......
あの時と同じサンダーの大きな手、あの時から手首だけでなく、心ももっと強く掴まれた。
サンダーの言葉の続きは、もしかして......なんて期待してもいいのかな?
あともう少しだけ、神様が、この時間を引き延ばしてくれていたら......
「ちょっと、どういう事!教室に戻って来ないから様子を見に来たら、ハクサイ、覚えているよね?」
本川さん!
サンダーの手が、反射的に私の手首から離れた。
「本川さん、違うから!」
今、我が家の一番のお得意先を失うわけにはいかない!
本川さんとサンダーを残して、素早くその場を後にした。
私の取ったその行動が正解だったか、間違っていたのか、私には分からない。
でも、それが間違いだったって、私の中では信じたい......
私が教室に戻って数分後、サンダーと本川さんが揃って戻った。
本川さんは、一軍女子達の所へ行き、教室中に聞えよがしの大きな声で一番聴きたくなかった言葉が発していた。
「ねえ、聞いて聞いて、
得意気な本川さんの報告に驚くクラスメイト達。
本川さんのその言葉が何度も私の耳にエコーを繰り返す。
日曜のランチがサンダーにとって楽しかったという事をやっと確かめる事が出来て、その後の言葉の続きを期待をした矢先に、まさか、そんな話を聞くなんて......
天国から地獄に突き落とされた気分......
「マジ?やったじゃん!」
「真知、ゴメンね~」
同じく一軍女子でサンダー推しの浅村さんに、一応、気兼ねしている本川さん。
「ううん、亜由は中学からずっと
「ありがとう!」
今まで見た事も無いほど、本川さんが嬉しそうな顔をしている。
中学生の時からサンダーを想い続けて告られたなら、嬉しくて舞い上がって当然......
私、どうしたらそんな勘違い出来るんだろう?
あの後、自分が、サンダーに告白されるつもりでいたなんて......
こんな錯覚していた自分が、図々しく思え過ぎて、自分で笑っちゃう!
サンダーみたいなイケメンには、本川さんのような見目麗しい女子がお似合いに決まっているのに!
サンダーと一緒にいる時間繰り返しているうちに、知らず知らずのうちに、サンダーの心の傷を治してあげられるのは、自分だけって自意識過剰になってしまっていた。
錯覚ついでに、いつの間にか、あの夢のように、サンダーと付き合える事を期待してた。
こんなパッとしない見てくれしているくせして、身の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます