第17話 発言への後悔

「享平が?」


 最近は見慣れて来たサンダーの私に向けている顔が、一瞬にして変わった。


 この時になって、私は悟った......

 踏み込んではいけない所に、敢えて土足で入り込んでしまった事に......


 でも、発した言葉は今さら取り消せないから、私は、その見慣れないサンダーの悲痛な表情を見ながら、話を続けるしかなくなった。


「4人で写っている写真見せてくれたの。岩神君の元カノの和佳さんって、可愛い人だね」


 こんな話を振られてサンダーは辛いって分かっているのに、私、何を確かめようとしているの?


「そうか......享平はもう吹っ切れたんだな」


 サンダーは、自分の事よりも、荻川君の事を気にしているの?

 どうして......?

 荻川君から聞いていた話と、何だか食い違うような......?


「荻川君が、吹っ切れるって......?」


「和佳は享平の幼馴染みで、享平の方が小さな頃からずっと和佳の事を好きだったから、俺よりもっと傷が深いと思っていた」


 和佳さんって、荻川君の幼馴染みで想い人だった......?


「そうだったの......?荻川君は、岩神君を心配していたし、それと、私の心配もしてくれていたから......」


「松沢さんの心配って?」


 荻川君が言っていたような、サンダーの優しさを恋愛感情と勘違いしないようになんて事を、サンダーには言えない!

 そんな事を言ったら、サンダーに私の気持ちがバレてしまう!

 あっ、そうだ、本川さんの事も言っていたから......


「荻川君は、本川さんに気を付けるようにって。元カノを陥れたのも、本川さんって」


 本川さんの事を言うと、サンダーは驚いて目を見開いた。

 サンダーは、知らなかったんだ。

 和佳さんの自殺の原因が本川さんって。


「亜由が......?そうだったのか......でも、結局は、気付いてあげて、和佳を守れなかった俺のせいなんだ!」


 サンダーが両手で頭を抱えてテーブルにうな垂れた。


 どうしよう......!

 やっぱり、こんな事は言ってはいけなかった!


 私が、元カノにヤキモチ妬いて、今のサンダーの反応が気になって確かめようとしたり、荻川君の立ち位置を自分に置き換えたく思ったせいだ!


 サンダーは、今でも、こんなに元カノを想って苦しんでいる。

 そして、私なんかがそばにいても、何の慰めにもならない役立たず状態......


 こんな事を確認する為に、サンダーをこんなにも傷付けて、私も落ち込んで、一体、私、何しているんだろう?


 もう、自分で自分がイヤになってしまう!


「どうしたの?」


 時恵さんが化粧室から戻って来た。

 私がした事を伝えたら、時恵さんにきっと軽蔑されてしまう!


「ごめんなさい、私が、荻川君から聞いた事が気になって......」


 私が、時恵さんにペコペコ頭を下げて謝っていると、うな垂れていたサンダーが姿勢を正した。


「いいや、何でもない!松沢さん、ゴメン」


 サンダーがそう言い切ると、時恵さんはそれ以上は深追いしなかった。

 どうして、私に謝るの、サンダー?

 私の心無い言葉がいけなかったのに......

 私なんかより自分の方がずっと辛いのに......?

 

「来週は期末試験期間よね、今度は再来週の日曜にしましょう」


 丁度、期末試験で1週間空いて良かった。


 こんな状態だから、もうこうして逢うのは打ち切りになるかも知れないと心配していたから、時恵さんの言葉にホッとした。


 サンダーと私、2週間後には、ほとぼり冷めて、いつものように食事楽しめるかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る