第15話 切ない忠告
「日菜ちゃん、ごめんなさいね。でも、こんなに笑ったのって、本当に久しぶり!ねぇ、
コットンの柔らかそうなハンカチで、さっきからしきりに笑い涙を拭いている時恵さん。
「確かに、普段あまり笑わないからな、姉貴は」
サンダーの方は、少し笑いが収まって来ていた。
「それは、
サンダー呼びがバレて、この場から逃げ出してしまいたいほど、すごく恥ずかしかったけど、私は、2人の笑い顔を長い間見られたし、姉弟間の会話も微笑ましくて、そのメリットの方が恥ずかしさを上回ったかも知れない。
前菜の後に運ばれて来たのは、野菜と厚切りベーコンからの味わいが広がるミネストローネ。
楕円形の大皿に、海の幸が豪華に盛り付けられたペスカトーレ。
そして、モッツァレラチーズが零れ落ちそうなほど乗っているピザ、マルゲリータ。
最後に、3種類のドルチェを盛り合わせと泡立つカプチーノ。
どれも今まで口にした事が無いような美味しさで、ニンニクの香りの刺激で空腹だったのが一気に満たされた。
私が感動しなら食しているのを見て、サンダーも時恵さんも、さっきのサンダーの一件で免疫が出来たようで、今度は爆笑せず、微笑んで食べている。
良かった......
私のちょっと変わっているかも知れないところに、2人とも慣れてくれた様子で。
楽しいひと時、美味しい食事、こんな時間が永遠に続いてくれたらいいのに!
永遠は無理そうだけど、時恵さんがまた誘ってくれたら、サンダーとこういう時間をまた共有出来る!
サンダーと2人っきりのデートも憧れるけど、いきなり2人になったら、会話とか途切れて困ってしまうかも知れない。
だから、今はこうして、3人で逢える時間が、私には丁度いいのかも。
サンダーと時恵さんと過ごす休日が繰り返される毎に、信じられないような気持ちは少しずつ薄れ、この夢のような時間が現実なのだと、少しずつ受け入れる事が出来るようになって来た。
だからといって、私とサンダーの距離感が縮まっているわけではなく、キレイに並んだ2本の平行線がずっと続いているままなのだけど......
多分、この先もずっとサンダーからは、私をクラスメイトの1人で、時恵さんと同行する食事仲間くらいに見做され続けていそうだけど、サンダーの笑い顔が見られるなら、私はそれで良かった。
ただ......サンダーが笑った後に時折見せる寂寥感を漂わせる表情、それに気付かなければ、もっと満喫出来ていたのに......
目の前にいるのは、私なのに、時々、サンダーは私じゃない誰かを重ねて見ているような感じになる。
サンダーが本心で一緒にいたいのは、私じゃなくて、亡くなった元カノ。
それが現世で叶う事なんてないから、私は、ずっと代用品のような立場に甘んじていられている。
私だって、とっくに気付いてる......
元カノと過ごした時間を私といる時間の方がいつか上回ったとしても、私は元カノの代わりにも、サンダーの彼女になれない......
サンダーの目を見ると、元カノがサンダーの心の中で、今もなお大きな存在として生き続けているんだって、切な過ぎるくらいに伝わってくるから.......
それでも、サンダーが私と過ごす時間に笑顔を見せてくれるなら、時恵さんがそのサンダーを見て喜んでくれているなら、それだけで満足だった。
例え、進展性なんてない
こうでもしないと、私には、サンダーに近付ける接点なんて無いのだから!
いつものようにサンダーや時恵さんとの楽しいランチをした後の週明け、学校の下駄箱に靴をしまっていると、突然、男子の声で呼び止められた。
サンダー......のわけがない
メガネが壊れた日以来、噂になるのを恐れているようで、他の生徒達がいる所で、サンダーは私に近付こうとしない。
私に声をかけて来たのは、一軍女子達から庇ってくれた事も有る、サンダーの友人、荻川
目立たない1年の下駄箱の角に移動して、荻川君は小声で話しかけてきた。
「松沢さん、休日に
サンダーから、聞いていたのかな?
「お姉さんも一緒に、メガネが割れた一件から会うようになって」
「そうなんだ......えーと、じゃあ一応言っておいた方がいいかな」
ポケットからスマホを出して画像を見せて来た。
中学生の頃のかな?
その写真には、私とは違う制服を着て、笑っている4人の男女が写っていた。
「荻川君と岩神君と本川さんと......」
あと1人は見覚えないけど、誰だろう?
男子だったら、守ってあげたくなるような小柄な美少女。
もしかして、この子が......
「松沢さんが分からない子は、北村
やっぱり、この子が、サンダーの元カノだったんだ!
分かる気がする......
結局、男子って皆、可愛い子とか美人が好きになるんだよね。
私が舞い上がって喜んだ、サンダーからの手紙だって......
きっと、中学の頃に、元カノと何度もあんな風に手紙を折ってやり取りしていたんだ。
サンダー、あんな楽しそうな笑顔で中学生生活を送っていたんだ。
その頃のサンダーの思い出には私なんていなくて当たり前なのに、羨ましくて、元カノに嫉妬してしまわずにいられない......
私、こんなに独占欲が強かったなんて知らなかった.....
「和佳は
荻川君の言っているのは、つまり、私は元カノの状況に似ているから、サンダーが私に同情しているって事?
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