第14話 夢見の続きのような時間に......

「えっ、私がこんなに必死に試験勉強やっているのに、日菜があのイケメンとデートって、マジ?」


 月菜の高校は、中間試験期間が私の高校より1週間遅い。

 いつもならデート三昧の週末を過ごしている月菜だったが、試験期間前ばかりは仕方なく勉強に追われていた。


「デートじゃないの、お姉さんに、誘われているだけ!」


「お姉さんというコブ付きでも、あのイケメンと同一空間にいられて、しかもランチご馳走になりに行くなんて、ズルイ、日菜~!もう、勉強なんてウンザリ!私と代わってよ~、日菜~!」


 外出大好きで勉強嫌いの月菜は、中間試験から解放され自由に動ける私が羨ましそう。

 その上、月菜もサンダーの事を気に入っているみたいだから、尚更かも。

 そんな感じで、今までとは逆に、このところ月菜の羨望を私が受けている事が続いている。


 サンダーは......時恵さんに誘われて、この前のメガネを時恵さんに弁償してもらった一件も有るし、断れないから嫌々来るのかな?


 そんな風な気持ちでサンダーが同行するのなら、月菜が思い描いているような楽しい時間になんかならないかも......


 それでも、休日に、サンダーと一緒に過ごせるなら、私は絶対に行きたい!


 時恵さんが、家まで迎えに来てくれた時、助手席には前回と同様サンダーが乗っていて、軽く挨拶を交わした。

 そうだよね、サンダーは助手席。

 私と並んで座って、カーブの時なんか揺られて身体に触れるかもなんて、淡い期待を抱いていたけど......

 そうそう、私の妄想通りになんか上手くいかない。


 今朝は、いつもの学校で見かけるような気怠そうな雰囲気のサンダー。

 テスト明けの日曜日だから、ゆっくりしていたかったかな?

 サンダーにはその気も無いのに、私達に付き合わせて、申し訳無かったかも......


「美味しいイタリアンのお店に行こうと思っているんだけど、日菜ちゃん、苦手じゃない?たまに、ニンニクの臭いとかダメな人っているじゃない」


「いえ、パスタもピザも大好きです!ニンニクの臭いなんて、全然気にならないし、むしろ食欲が進みます~!楽しみ~!」


 本心からそう思っていて、イタリア料理を食べたかったから、つい力入れて1人で話しまくってしまっていた!

 ハッとなった時には、サンダーと時恵さんが一瞬引いた感じだったけど、次の瞬間には吹き出していた。


「ごめんなさい、もしかしたら、そんな感じの返事を日菜ちゃんがするかもって、さっき車の中で、來志らいしと予想していたのよ。ホントにその通りの返事を日菜ちゃんがしたから......」


 笑いながら話しているから息継ぎが苦しそうな感じの時恵さん。


「姉貴は、松沢さんの特徴をもう掴んでるな」


 こんなに2人に笑われてしまったのは心外だったけど......

サンダーの笑顔!

 

 時恵さんの言う通り、こんな笑い方は、他の女子達の前では見た事が無い!


 それだけ、私に心許してくれるのかな?

 それとも、少しくらいは私に関心を寄せてくれているから?

 

 到底、私が想っているほどは、サンダーは私を想ってくれてないと思うけど、少なくとも嫌われてはいないはず。

 そう信じても、いいよね?


 時恵さんが案内してくれたイタリア料理店は、洋風の木造建築で、陽気なラテン系の音楽で迎えられた店内には、異国情緒溢れる調度品が所狭しと置かれていた。


「ノスタルジックな感じだな」


「何だかグリム童話の世界に、足を踏み入れたような感じ......」


 サンダーと私が同時に、お店の感想を言うと、時恵さんが1人で笑い出した。

 ノスタルジック、確かにそんな感じでも有るかも!


「ここはね、私の恋人の井出さんと初めて来た思い出の場所よ」


 まだ目元が笑っている時恵さん。


「そんな大切な思い出の場所に、私なんかが連れて来てもらって、いいんですか?」


 恐縮せずにいられなくて尋ねると、今度はサンダーと時恵さん笑い出した。


「モチロンよ、私が日菜ちゃんを連れて来たかったの!食べ物の好みも合っていそうだから、きっと満足してもらえるって思って」


「そんなガチガチになってないで、リラックスしろよ」


 予約席に案内される時に、私の背中をポンとサンダーが叩いて言うから、驚いて、反射的に叩かれた背中を見ようとした。


「何?別に、背中に何か付けたわけじゃないけど」


 私の反応で、また笑い出すサンダー。


「えっ、だって、急に背中をサンダーが......」


 あっ、どうしよう、ヤバいっ!

 思いがけない感じで、背中をポンされた衝撃が強過ぎて、サンダーって思わず声に出してしまった!


「サンダー......?」


 ウェイターに椅子を引いてもらいながら、サンダーと時恵さんがキョトンと疑問に駆られたような表情している。


 あ~、もうイヤだ~!

 言った言葉を取り消せる修正液が有ったら、今すぐ欲しい!

 誰かそういうのさっさと発明してくれていたら良かったのに!


「ごめんなさいっ!ホントにごめんなさいっ!気分害してしまうかも知れないけど、私、勝手に、岩神君の事、名前のイメージからサンダー呼びしていて......でも声に出したのは、これが初めてで......」


 しどろもどろになりながらも慌てて頭を何度も下げまくって謝ると、サンダーや時恵さんはもちろん、椅子を引いてくれていたウェイター達までが、大爆笑。


 あ~、大失態!

 恥ずかし過ぎて、穴が有ったら入りたい!

 もうしばらく、人前に出たくない~!


「日菜ちゃんって、來志らいしの事をって呼んでいたの?なんか、その発想が面白過ぎて......」


 涙流しながら笑い続ける時恵さん。


「ごめんなさいっ!岩神君、不愉快に感じていたら、ホントにごめんなさい!」


「いや、いいよ。俺の事は、別になんて呼んでも。さすがに、学校ではマズイかも知れないけど」


 サンダーもまだ時恵さんに負けないくらい笑いが止まらない。

 怒ってないみたいで、安心した......


 サンダーが止めなくても、教室でなんか、サンダーなんて呼べない!

 一軍女子達に聞かれた状態を想像しただけでコワイもの。

 第一、私、学校に話し相手もいないし......


來志らいしがサンダーって......ごめんなさい、いつまでも笑い続けて。そんな呼び方、私は思い付かなかったから」


 前菜が来ても、まだサンダーも時恵さんも笑っている。

 この2人、本当に笑い上戸過ぎて、私が驚かされる。

 でも、そんな2人が笑っているのって、私の事で笑われているんだけど、別にクラスメイト達の嘲笑と違って、全然苦にならない。

 むしろ、2人の笑い顔を見られるのが嬉しいくらいに感じている。


「他の生徒にも、呼び名有るの?」


 笑いながら、好奇心を覗かせて来たサンダー。


「全員じゃないけど......」

 

 ホントは、サンダーだけなんて、とてもじゃないけど言えない!

 そんな事を言ってしまったら、私にとってサンダーだけが特別って、バレてしまう!

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