第11話 不意の手紙でときめく心
あの日は、たまたま奇跡が起きただけ。
次の日からはずっと、サンダーとは元の距離感に逆戻り。
時間が経つにつれ、あの日の夢のような出来事が、本当にただの夢だったように錯覚してしまいそうになる。
いっそ、あのサンダーと過ごした時間は夢の続きだったと割り切った方が、よっぽど穏やかな気持ちでいられそう。
そんな風に、無理に思い込もうとしていた矢先の事だった......
あのメガネの一件から1週間が経過した昼休み、サンダーが廊下に出ようとした時、私の机の横を通った。
私の席は、確かに廊下側ではあるけれど、いつもならサンダーは、別の通路を通っているはずなのに、その時は、なぜか、遠回りをして私の横を通り過ぎて行った。
その通り過ぎる瞬間、気のせいか、サンダーの手の平が私の机に触れたように見えた。
目の錯覚に違いないって思ったけど、彼の手の平からは、対角線上の2角が凹んでいる長方形に折られた小さな手紙が、私の机に置かれた。
それが、あまりにも自然過ぎて、サンダーの落とし物かと疑ったくらい。
でも、敢えて私の横を通ったという一連の動きから察して、私へのメッセージと受け止めてもいいんだよね?
サンダーから私への手紙......?
本当に......?
サンダーが、わざわざ私の為に、手紙を書いて折って、机に乗せてくれたの?
マンガやドラマの中で、スマホで連絡し合う恋人達を見ては、ずっと羨ましく思っていた。
連絡先も交換し合ってないサンダーと私が、そんなやり取りが出来るようになるのは、夢また夢だから。
パソコンもタブレットもスマホも有るIT時代に、手紙で伝言されるなんて、こんな事を誰かに話しても、アナログ過ぎてバカにしてくる人達も多いかも知れないけど......
私は、サンダーからの折り畳まれたその手紙で、心臓がドキドキし過ぎて飛び出してしまいそうになるくらい嬉しかった!
書いてある中身を見なくても、この手紙は、もう私の一生の宝物のように感じられる!
ホントはすごく見たいのに、見てしまうのがもったいないような気持ちに
させられてしまって、自分でも何だかすごくじれったい!
一応、教室の中を見渡すと、幸い一軍女子達は気付かれてなさそう。
中学の時は、スマホを学校に持って来られなかったから、サンダーは、こんなふうに紙を折って、友達や彼女と手紙交換していたのかな?
サンダーの彼女......
中学時代にはいたんだよね、きっと。
時恵さんのあの口振りからは、そんな感じに伺えたもの。
久しぶりに.....って。
サンダーの元カノって、どういう人だったのかな?
その人は、今はどうしているんだろう?
違う高校に行って、自然消滅したのかな?
気になるけど、そんな事、私が間違ってもサンダーに聞けないし......
それよりも、今はまず、手紙の内容......
楽しみは後に取っておいて、もっと時間を置いてから開けた方がいいのかも知れないけど、書かれている内容が気になって、居ても立っても居られない!
後で楽しみたい私 VS 今見たくて仕方の無い私
私の中で対立する2人の私がいるのだけど、やっぱりせっかちな私が勝ってしまった!
待ち切れなかったけど、なるべく音を立てないように、ゆっくりと机の下で手紙を広げた。
どうしよう、まさか古典的な方法で、手紙で告白されるとか。
サンダーからだったら、もうこの際、何でも有り!
でも、手紙で来たからには、手紙で返すべき?
どんな風に返事を書いたらいいのかな......?
妄想が進み過ぎて、手紙に書かれている内容が、すぐに頭で対処出来そうにない感じだったけど、深呼吸して少し落ち着かせてから、書いてある事に目を通した。
『今日で1週間だから、姉貴が、目とメガネの様子を診たいって。
下校時に、東2丁目通りに車で待っているから、よろしく』
かなり上空まで舞い上がっていた私の心が、ドスンと急降下。
あんなにドキドキしながら開封したのに、書いてあったのは、サンダーの告白文どころか、サンダー自身から私への事ですら無かった。
時恵さんの伝言を頼まれただけと分かって、ガッカリした。
私、どうして期待ばっかりするんだろう?
サンダーが私なんか相手に、ラブレターくれるわけ無いのに......
期待してしまうから、当てが外れた時の落ち込みが余計にしんどいのに、ホント、我ながら懲りない性格......
でも、このサンダーの文字......
サンダーの直筆の手紙をもらったのは、やっぱりすごく嬉しい!
少し右肩上がりの大人っぽい筆跡。
サンダーは、こんな字を書く人なんだ。
今日は、約1週間ぶりに、サンダーと淡い接触が出来て手紙貰えて、サンダーの文字を知った!
この収穫が、今の私には、とても尊く感じられる!
今みたいな便利なIT時代に、まだ手紙という選択肢が残っていて、サンダーがその連絡手段を選んで、渡してくれた事に感謝せずにいられない!
手紙には、そんな事は書かれてなかったけど、もしかして、時恵さんの車にサンダーも一緒に乗るって事も有り得るかな?
その事で、サンダーから話しかけられないかとドキドキしながら待っていたけど、残念ながら、放課後になっても、サンダーは私の方に1度だって視線を送って来なかった......
私1人、ソワソワした時間を過ごしていただけで、サンダーの周りでは、ごく普通の時間が流れていた。
バカみたいだ、私......
遠くで見ていても当然だと思っていたサンダーに、どうして、こんなに期待するようになったの?
私が、勝手にずっと想い続けているだけで、サンダーは私を、ただのクラスメイトの1人としてしかカウントしていないのに......
期待しては、その度に肩透かしを食らう自分が惨め過ぎて、何だか泣きたくなってくる......
時恵さんと会うんだから、泣き顔なんて晒せないのに。
頭ではしっかり分かっているのに、どうして私の身体は、頭ではなく心と連動させようとしてばかりいるの?
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